女性は同意を求めているだけ。質問された時点で負けが確定する第66話
突然の変身に驚愕する瑞希と大輔だが、他の者は然も当然科のような表情をしている。
「マジか……」
やっと口に出来た言葉。
あまりにも衝撃的な事だったので語彙力が著しく低下している大輔であった。
「ふふふ……。驚いているようだな。これだから人間の前では変身し甲斐がある」
瑞希と大輔の反応を見て商会長もご満悦のようだ。
「エレノアは正体知ってたの?」
『知る訳ないでしょ』
「じゃあ何で平然としてんだよ。少しは驚けや。ってか質量保存の法則とかどないなっとんねん!!その巨体でどないしたら人間の姿になれんねん」
目の前の状況に驚いてはいたものの、異世界への慣れなのか復帰は早かった。
そして、周囲へのツッコミは欠かさないようだ……。
「もしかしたら狐の姿の時の見た目に反して軽い可能性もあるよね?逆に人型の時物凄い重い可能性も……。そうしたら質量保存の法則も成り立つよ」
瑞希の意見は尤もなのだが、大輔の言いたい事はそう言う事では無いとだろう……。
「そうは言われてもな……。先程よりも小さくなれるぞ」
そう言うと商会長は小学校低学年程度の見た目の幼女の姿に変身をした。
「あら、可愛い。……ってバカ。そんな事聞いてねーし、質問に答えてねーよ」
『私にも可愛いって言ったわよね?私とどっちが可愛いのかしら?』
「ノリツッコミってやつだよ!本気にすんな。……いや、可愛いのは事実なんだが……。あー……何か疲れた」
『で、どっちの方が可愛いのよ。はっきり言ってやりなさい。まさか誰彼構わず褒めちぎる軟派野郎じゃないわよね?』
「妾も気になるな。正直に申してみよ」
何故かエレノアと商会長の間で譲れない戦いが勃発しているようだ。
2人とも自分の方が可愛いと確信しているようだが、その自信は何処から来ているのかは不明である。
「2人とも可愛いと思うけどね」
どう答弁しようかと考えあぐねていた大輔を他所に瑞希が返答をする。
『どっちつかずな事なかれ主義の答えって感じね。0点の回答だわ』
「全く、同意じゃ。今の一答で優柔不断さが透けて見える」
酷い謂れようである……。
「えー……。本当の事を言っただけなのに」
まさか2人から罵られるとは想像していなかった瑞希は困惑する。
そもそも今回の質問が、デート時の買い物で『どっちが良いと思う?』並みに答えの無い質問だったのだろう。
どちらか片方を選べば『センスが無い』と言われ、選ばなければ『意見が無い』と言われる。
関係のない第三者が口を出した時点で負けが確定していたようなものだった。
口は禍の元。雄弁は銀、沈黙は金。
黙って大輔に一任するのが正解だったのだ。
「で、ヴァンとはどういう関係なんだ?」
瑞希を人柱にした事で難を逃れた大輔。
これ以上、この話題に触れるのは危険すぎると判断をし、別の話題に切り替える。
「ヴァン……?」
「お坊ちゃまの事です」
「あー……坊やの事か。単に旧知の仲と言うだけだ。彼此650年来の付き合いになるな。何を隠そう奴に日本語を教えたの他でもない妾だ」
『650……?ババアじゃないの。もしかして、その姿ってコンプレックスの現れ?』
それを言ってしまうとヴァンもジジイになってしまう事をエレノアは気が付いていない……。
「あ゛ぁ゛?良い度胸だな小娘。喧嘩なら買うぞ。表出ろや」
話題を上手く変え事で一端は収まったかに思えた2人の争い。
一度は沈静化したかに見えたエレノアと商会長の争い。
しかし、エレノアの忌憚のない一言が原因で争いの火種が再燃する……かに見えたが……。
「話が進まないからいい加減にしろ」
一触即発に見えたエレノアと商会長だが、大輔がエレノアを軽く叩き仲裁に入る。
大輔としては2~3割程本音だが、建て前の部分が大きい。
本心としてはこれ以上の厄介事は御免蒙りたい言う心境だ。
これには傍観するしか出来なかった他の男性陣もホッと胸を撫で下ろすとともに、心の中で大輔の行動を称賛する。
『だって、この女狐が……』
「だってじゃない。本当、コイツいつも口が悪くて……。で、ここに来た理由でしたっけ?端的に言えば元の世界に戻る為の方法や手掛かりを探してるんですが────」
大輔はエレノアの言い訳に一切聞く耳を持たずに一蹴をし、本来の目的を説明し始めた。
この世界に迷い込んだ経緯から始まり、ヴァンの館に世話になった事、そして、ここに来た理由など、諸々を端的に説明した。
「その列車は動かんのか?」
「床は抜け落ちてるし、車輪もガタガタ。燃料は有るかどうか不明で、そもそも俺たちには運転技術が無いから無理だな。まあ、運転技術は最悪どうにかなる可能性はあるが、列車の劣化はどうにもならないな」
「それに、列車の通った道を戻ったけど、門?みたいなのが閉じてたし、線路も封鎖されてたんだよね」
「なるほど……。後で調査隊を送る事にしよう。場所を教えてもらえるか?」
大輔はヴァンの館で写した簡易地図を取り出し、凡その場所を説明しようとした。
「何だ?このガキのラクガキみたいな地図は……。オウキーニ、こいつらが説明している周辺の地図を持ってこい」
オウキーニは短く返事をすると部屋を出て行った。
ガキのラクガキと罵倒された手書きの地図。
改めてみると描いた本人ですら商会長の意見に賛同してしまうほどの出来だった。
納得はするが、自らが描いた事を名乗り出る事はなく沈黙したままオウキーニの帰りを待つのであった────。