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異世界の広大さの片鱗をしる第59話

「まあ、こんなものか」

まるで家庭環境調査の一環として学校に提出する通学路を記した地図を彷彿とさせる抽象化された質素で簡易的な手書きの地図が完成した。

大輔としては満足のいく出来栄えのようだ。

横で眺めていた瑞希としても文句のつけようのない出来だと思うのだが、如何せん目印になるものが少ないので地図を見ながら街に辿り着けるのか?と釈然としない気持ちは残ってしまった。

そして、大輔が地図を書き写し終わる頃、スチュワートが巨大な筒状の物を持って食堂に戻って来た。

「これで町までは歩いて行けそうだね。後は町の情報?ヴァンくん、町の事はどれくらい知ってるの?」

「お主ら徒歩で向かうつもりなのか?数日かかるぞ」

「そうは言われても徒歩しか移動手段が無いからね。何か他の方法あるの?」

「そりゃ異世界だし転送装置だろ」

「そのような便利なものがあるなら商人も歩いて来ぬぞ。以前触れたが馬骨がおる。爺、こやつらが街に行く時は御者を頼んでも良いか?」

大輔のファンタジー脳的発言とその発想が悉く否定される構図。

そして瑞希が「またいい加減な事を」と言い輔に呆れている。

毎度繰り返される一連の流れは既に様式美に似た雰囲気すらも醸し出している。

「家を空けても問題ないのでしょうか」

「それは問題ない。余かエレノアが残る」

「畏まりました。出発の日時が決まり次第馬骨の準備をいたします」

「と言う事だ。で、次に大陸の地図だが────」

そう言い始めるとヴァンは今居るテーブルとは別のテーブルを2つ並べ始める。

何をしようとしているのか理解しているスチュワートはヴァンの手伝いをする。

そして、並べたテーブルの上にスチュワートが新たに持ってきた筒状に丸められていた地図を広げる。

テーブル2つ分の大きさでは少し足りなく、端はテーブルから垂れている状態だ。

「────これが大陸地図だな。現在地はこの辺りだ」

ヴァンの指し示した地点は少し広めの緑色が確認出来る。

「これ、ま?」

大輔が驚くのも無理はない。

その緑色の部分は世界地図を広げた時の日本と同等……オーストラリアの1/3~1/4程度の面積と表現した方が分かり易いかもしれない。そんな程度の広さであった。

つまり、この地図が正しいと仮定し、ドリュアスの居た場所からヴァンの館までの距離を半日歩いた距離(約50km)で計算をすると、多少の誤差は生じるが今居る大陸だけで地球の半分程度の広さと推測出来る。

ヴァンが当初より言っていた世界地図が存在しないと言うのも強ち嘘ではないのかもしれない。

「余も全ての地域を巡った訳ではないが概ね正しいと言えよう。数百年前に訪れたっきりの場所もある故、地殻変動が起きていなければと言う前提条件付きだがな」

ヴァンの口振りから推測するに地図上の相当数の場所には立ち寄った事がありそうだ。

「大きな町はどの程度あるんだ?」

「町か……。定義によるとしか言えんな。基本的には少ない。そもそも町を形成する事が稀だ。どちらかと言えば種族毎に集落を形成していると言った方が無難だな。商人の住む町や余や爺の様に孤立している者も居る。あとは周辺の集落の者が争いの生じぬように交流を持つ集会場のような場所も点在する。そのような集会場を町と呼ぶならある程度は存在する。しかし、余所者に厳しい種族も多い故、縄張りには注意したいところだな。細かい部分は近くの町や集会所、多種族にも好意的な種族などから情報収集するほかあるまい。排他的とは言え、多かれ少なかれ商人は出入りしているものだ。完全な自給自足は難しいからな。商人の情報網が一番当てになるだろう」

「となるとオウキーニを訪ねるのが今の所、最善策かな?」

ヴァンの意見を参考に瑞希が町についてからの行動を提案する。

大輔も異論はないようだ。

「うむ。それが良かろう。商会の幹部連中に上申出来るよう余が一筆(したた)めておこう。……で、1つ疑問があるのだが良いか?」

「第三者の意見はありがたい。当事者だと気が付かない部分も多いからな。気になる事があるなら何でも言ってくれ」

「主ら意思疎通……会話や文字などはどうするつもりなのだ?」

「え?日本語通じないの?オウキーニ日本語話してたよね?」

ヴァンの意外な指摘に少し驚く瑞希。

「話せるものも居るには居るが、主要言語ではない。商人と一緒に居った小人も片言であったろう。あの商人の所属する商会の者なら通じる可能性はあるが、それ以外は通じぬ可能性が高い。文字に至っては使用されている可能性は皆無に等しいな。何せ日本語の文字は万人が習得するには難易度が高すぎる」

「え?じゃあ、町の人は何語を話してるの?」

「何語?と言うかは知らぬが人工言語ではあるな。元々は世界共通で使用出来る言語と言う理念の元作られた物だが、覚える者が少なかった故、あまり発展をする事が無く単純な単語のみが残り、それを繋げるだけとなった言語だ。会話は成立せぬが商取引だけなら広い範囲で使用可能だ。爺、アレは何語と言うか分かるか?」

「申し訳ありません。存じ上げません」

「商取引はどんな感じでするの?」

「説明か?少し難しいな。例えばトマトを4つ頼むときは日本語ならトマト4つで事足りるが、トマトと言う単語は存在しない。代わりに、色、形状、属性、数で伝える。日本語の場合なら赤い、丸い、野菜、4つと言った感じだ。幾つか該当する商品がある場合、違う物が出てくる可能性もあるが、その時は違うと言い、他の商品を出してもらうようになっておる。その言語で発音するなら『tadda qite zohoqo bout』と言った感じだ。それぞれ簡単な単語しか対美味していない故、複雑な指定は不可能だ。数なら半分、1/3などは通じるが0.3などの中途半端なもの、形は複雑すぎて言葉で通じぬなら書いて伝える他あるまい」

「そうは言っても一朝一夕に覚えられるような言語なのか?」

小中高と10年以上英語の授業を受けていたが一向に話せる気がしなかった大輔には日本語以外の言語を習得出来る気がしない。

瑞希の英語の成績も知っている身としては瑞希に言語習得を肩代わりさせても不安しか残らない。

瑞希は瑞希で間抜け面を晒しながら考えるのを放棄している節がある。

他の方法を模索する他ないのだろう。

「覚える必要も無いがな。基本的に何処に行っても商売が出来る様にと開発された言語だ。取引以外の言葉は無いに等しい。あの町なら他種族が暮らしている故、複数の言語を習得し通訳が可能な者も居るだろう。そう言った者を頼ると良かろう」

「オウキーニとか?」

「そうだな。あ奴に暇があるかどうかが問題になるがそれも良かろう。無理そうなら他の者を紹介してもらうが良い」

「ヴァンくんが来てくれるのが一番良いんだけどね」

幾多の言語を習得し、この世界についての知識も豊富。

更にゴーレム戦で見せた強さも兼ね備えている。

旅のお供としてこれ以上ない人材。

無理とは理解しているが、ついつい願望が口から零れる。

「余に随伴しろと?……考えておこう。何にせよ出発の日程が決定した時は連絡するが良い」

社交辞令とも了承したとも取れる微妙な返答。

いや、返答は微妙だが何となくワクワクしているような満更でもない表情にも見える。

その後も町や大陸についての知識を得る為、色々な事を聞く瑞希と大輔であった────。


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