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運動不足が祟る第55話

翌朝────。

窓から射す日の光を浴び瑞希は目を覚ました。

いつものように二度寝の体制に入る為、寝返りを打とうとする瑞希。

だがその時、瑞希の全身に痛みが走る────。

そう、筋肉痛である……。

慣れない全身を使った作業。

足、腰、腕と寝返りを打つために動かした部位の全てが痛い。

ある程度の筋肉痛は覚悟していたが、日ごろの運動不足が祟り予想以上にひどい有様である。

痛みで完全に目が醒めているので二度寝をする気も失せたのだが、別の問題が発生している。

動きたくないのだ。

そんな瑞希の考えも空しく、これまたいつも通り大輔が瑞希を起こしにやって来た。

「瑞希、起きてるかー?朝飯食いに行こうぜ」

「……起きてはいるけど無理。大輔1人で行って」

返事をせずにいると大輔が入って起こしてくるのは理解出来ているので極力動かないようにし、大輔にも聞こえる様に返事のみをする。

だが、それが逆効果だった……。

瑞希の思いとは裏腹に大輔はドアを開けると瑞希の側まで来ると瑞希の体を揺すり始めた。

「大丈夫か?病気か?風邪か?起きれないのか?」

大輔に揺すられ強制的に体を動かされ、再度全身に痛みが走る。

「……筋肉痛。触らないで」

「あ……。すまん、すまん」

瑞希の返答で全てを理解した大輔は瑞希から手を離すと1歩後退る。

「そう言う訳だから僕は今日1日寝るから。食事は大輔1人で行ってね」

「はい、分かりました。……ってなるかー!!ゆっくりでも良いから動かんとあかんやろ」

盛大なツッコミと共に瑞希の布団を剥ぎ取る。

瑞希には抵抗する間も無かった。

例えあったとしても今の瑞希では体を動かす事が出来なかっただろう。

瑞希は意思表示として短く悲哀の声を上げる事しか出来なかった。


瑞希をベッドに腰かける状態にする所から始まり、着替え終わるのを廊下で待ち、立ち上がる時には肩を貸す。

廊下を歩く時も壁に手を付きながらゆっくり歩く瑞希に寄り添って歩く。

大輔は口には出さないが、まるで老人の介護をしているような感覚に陥っている。

いつもの倍近く時間を掛け漸く食堂へと到着した。

いつものようにスチュワートに挨拶をして席に座る。

水を運んできてくれたスチュワートだが、ぎこちない動きの瑞希を見て心配そうに声を掛けてきた。

「どうかなされましたか?」

「筋肉痛だってさ。昨日の肉体労働が原因だな」

「左様でしたか」

「まあ、そう言う訳だから瑞希の事は気にせず放置で問題ない」

「畏まりました」

何かしらの病気の場合、消化に良い食べ物に変更するなどの対応も可能だが、筋肉痛に利く食べ物を知らないスチュワートには何もする事が出来ない。

瑞希の様子を横目で確認しながら大輔の言う通り気にしないよう努めるしかないと思い厨房へと戻る。

瑞希と大輔の朝食を用意し、いつものようにテーブルに並べる。

厨房から2人の様子を眺めてみたが、瑞希の動作が遅い以外問題はなさそうだった。

本当に病気ではないと認識したスチュワートは元の業務に戻るのであった。


「「ごちそうさまでした」」

いつも以上に時間の掛かった食事。

とは言っても時間が掛かったのは瑞希だけだ。

大輔はいつも通りの時間で間食し終え、瑞希を待っていた。

2人の声を聴き、スチュワートがカウンターから声を掛けた。

「食器はそのままで構いませんよ」

これは瑞希の筋肉痛を思っての事だろう。

瑞希は短く「ありがとうございます」と一言お礼を述べたものの、大輔が素早く食器を重ね、カウンターまで2人分の食器を運んでしまっていた。

「ごちそうさま」

「ありがとうございます」

「まあ、動けないのは瑞希だけだからな。皿洗いとか手伝いが必要なら遠慮なく言ってくれ」

「お気遣いありがとうございます。ですが、本日も人手は足りております。大輔様達はご自由におくつろぎください」

人手と言ってもスチュワート1人だ。

つまり、スチュワート1人で熟せるだけの仕事量であり、大輔と瑞希の手を借りるほど忙しくはないと言う事だろう。

「そっか。じゃあ、何かあるなら遠慮なく言ってくれよな」

「はい」

「おい瑞希、今日もエレノアの所で特訓すんぞ」

全身の痛みに耐えながらこちらに向かってこようとする瑞希に向かい声を掛ける。

「……あっ、そうだ。ヴァンが起きたら話があるって伝えてもらっても良いか?」

「畏まりました」

「よし、瑞希行くぞ」

瑞希はスチュワートにペコリとお辞儀をし方向転換すると、瑞希の横を通り過ぎさっさと食堂を後にした大輔の後を追うのであった。


「おーい、エレノア。今日も念話の練習すんぞ」

『本当、飽きもせず良くやるわね。ってか私が居なくても出来るでしょ。勝手にやりなさいよ。……ってあれ?瑞希は?』

「あぁ……。色々と手遅れだった……。あいつはもう駄目かもしれん……」

瑞希が来るのを大人しく待つのが暇だったのだろう。

大輔はエレノアを揶揄うような発言をする。

『ちょっ!何があったのよ!?』

大輔の予想通り、エレノアは周章している。

「全身筋肉痛だそうだ。ほれ、あの通り、亀にも劣るスピードしか出てない」

瑞希の姿を視界の端に捉えた大輔は種明かしをする。

『紛らわしい言い方すんな』

大輔の発言に憤りを感じたエレノアは大輔の脛を蹴る。

大輔は条件反射で「イテッ」と反応を見せているものの、全く痛みは感じていない。

「まあ、そんなに怒んなって。ちょっとした冗談だ。エレノアも昨日1日働き詰めだったんだろ?筋肉痛とか無いのか?」

『私を誰だと思っているのかしら?』

「エレノア」

『そう言う事を言ってるんじゃないの。私、これでもマンドレイクよ。植物よ植物。筋肉なんて存在しないわよ』

「小さい木が動いてるのと同じなのか。足が根で手が幹って感じか。なるほど、それなら筋肉痛はないか……ってなるかー!そこまで植物にもマンドレイクの生態に詳しくねーよ。そもそも植物にせよ筋肉痛に似た症状はあるかもしれへんやろ」

そんな2人のどうでも良い会話が繰り広げられる中、漸く瑞希も2人の下へと到着した。

瑞希はエレノアの側で座ろうと膝を抑えながらゆっくりと屈む。

しかし、途中で太腿の痛みに耐えかねたのだろう。ドサッと尻餅をつくように腰を下ろした。

『あんた本当に大丈夫なの?』

大輔からは筋肉痛とは聞いていたものの、瑞希の行動を見て心配になりエレノアは瑞希に問いかけた。

「うん。起きた時よりは大分マシになったから大丈夫だよ」

全く大丈夫そうには見えない。

だが、瑞希がそのように主張している以上、これ以上の言及も不要だとエレノアは考える。

『練習するんでしょ。さっさと始めなさい』

「そう言えば、マンドレイクのネットワークってどの辺りまでの情報が入手出来るの?」

『どの辺り……?そうね。この周辺の森の中かしら。あとは森の外の情報も多少はあるにはあるけど森の中から見える範囲の情報ね』

「そっか。じゃあ、オウキーニ達が辿ってきた道の事もあまり詳しくない?」

『そうね。山の麓までなら分かるけど、その先の話は分からないわね』

「因みに山の麓までの距離ってどのくらいあるの?」

『大体ドリュアス様までの距離の1.5倍ってところかしら』

「近くも無いけど遠くも無いって感じだね。エレノア、ありがとう」

『何よ急に。気持ち悪いわね』

「気持ちわr……。いや、今度オウキーニの居る町まで行く予定だから情報収集してただけだよ。ヴァンくんに詳しい事は聞く予定だけど事前の情報収集だね」

『と言う事はつまり……。いつ行くの?明日?明後日?今すぐ?』

「何か嬉しそうだな」

『当たり前じゃない。あなた達が居なくなるって事はヴァン様との愛の巣で二人っきり……。つまり、あんなことやこんな事があったりして……。きゃっ』

「何が『きゃっ』や。何考えとんねん。それにスチュワートもるやろ。忘れたるな」

『そう言えば、そうだったわね。まあ、邪魔者は少ないに越したことはないわ。さっさと出発しなさい』

「まだ何の準備も出来てないからね。直ぐには出発できないかな。あと言っておくけど、僕たちは別にエレノアの恋路を邪魔するつもりはないよ」

『ふーん……。そんな事より練習はどうすんのよ』

「全く習得の糸口が見出せないしな……」

エレノアからの情報を得る事が出来た瑞希。

念話の習得に関して懐疑的な反応を見せている。

しかし、ヴァンが起床するまでの時間の暇つぶしとして、練習に励むのであった。

だが、いつも通り「うーん……」と唸るだけで一向に念話を習得出来る兆しはなかった────。


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