戦力外通告と訳アリそうな話がありつつ土の入れ替えの目途が立つ第53話
エレノアが土の掘り起こしと無駄な根の切断。瑞希が作物を引き抜き、ヴァンが土を掻き出す。
コロポックル達が土を搬入し、スチュワートが新たな土を入れる。
土の搬出作業は後回しにしたおかげで滞りなく作業は進んでいる。
そんなある時……。
トマトの苗を引き抜こうとした瑞希は手に違和感を覚えた。
むずがゆさのある右手に視線を落とす。
違和感の正体に気が付いた瞬間、ゾワゾワと全身に鳥肌が立つ。
「うわーーーーーーーーーーーーー!!!」
周囲に響く大音量の叫び声。
何事かと全員の視線が瑞希に集中する。
注目を一身に浴びた瑞希本人はブンブンと右手を振り回し、踊っている様に見えるが勿論踊っている訳ではない。パニック状態である。
『な、なに?急にどうしたのよ』
瑞希の一番近くに居たエレノアが瑞希に問いかける。
「む、む、む、む、む……」
『む?』
「虫!虫がいた!!」
『そりゃ虫の1匹や2匹居るわよ。植物よ植物。当たり前じゃない。虫が居たくらいで情けないわね』
「まあ、そう言うでない。瑞希は虫が苦手らしい。ドリュアスの下へ行く途中も騒いでおったからな」
「何で知ってるの……」
様子を見に来たヴァンの発言を聞き、一気に冷静になる瑞希。
暴れた所為で、右手についていた虫も何処かに飛ばされたようだ……。
「アレで聞こえんと思っておったのか?すべて丸聞こえだったぞ。大輔も気を使っておったし、余も聞こえぬフリをした方が賢明と判断したまでだ」
羞恥心で一気に瑞希の顔が赤くなる。
『虫くらいで大袈裟なのよ。土蜘蛛や妖虫、お菊虫ならいざ知らず、何の変哲もない只の虫の何が怖いのか理解不能ね。』
「いや、ほら、見た事も無い虫だったからつい……」
見た事も無い虫と言うのは事実だ。
しかし、だったからの部分は嘘である。見た事のある虫でも同様の反応を見せていただろう。
「嫌いな物は仕方あるまい。誰しも1つや2つ苦手な物あって当然。掘り起こした土が溜まっておる主は土の運搬に回ってくれ。爺も土の搬出作業に移行だ」
「畏まりました」
瑞希の虫嫌いが露呈した事で作業分担が変更された。
瑞希は再度スチュワートの指示に従う事となる。
次の作業は再度土の運搬。
今回は掘り起こした土は墓地へと運ぶようだ。
ヴァンとゴーレムで出来た先頭の傷跡は修復済みとの事だった。
門を出る時、瑞希は大輔と目が合う。
先程の叫び声を聞いた大輔が駆け寄ってきた。
「スゲー声が聞こえたけど、何かあったのか?誰も何も言いに来ないから大事ではないんだろうなってオウキーニと話してたけど」
「うん。あー……。ちょっと虫がね……」
「虫……?あー、なるほど。了解了解。俺ももうすぐ話終わるし、終わったら手伝う」
今瑞希の行っている作業と『虫』と言うワードから全てを察したようだった。
「そう言えば、オウキーニと何の話してるの?」
「オウキーニ達の住んでる町についてだな。ここに滞在するより人も多そうだし、元の世界に帰る為の情報が得やすいだろ。だから順路とか注意事項とか色々と情報収集してた」
「なるほど。もう少しで話は終わるって事だし、そっちは任せるね」
「おう、任せとけ」
軽い談義をし、2人は互いの作業に戻るのであった。
「先ずはこの辺りで良いでしょう」
スチュワートが立ち止まったのは墓地の一角。
猫車を倒し、積まれていた土を雑に降ろす。
「ゾンビ達が荒らした地面の補強ですか?」
「そう言った一面もありますが、地面で寝ている方を埋める時に使用します。坊ちゃまの魔力の籠った土の作用で肉体の修復効果もあるらしいです。作物が魔力を吸収した後の土なので残留している少ない魔力を使用しているようです。あ、言うまでも無くこの者たち限定です。我々に土を振りまいた所で傷は回復いたしません」
「じゃあ、もっと魔力の籠った……例えば今畑に使用する土を入れれば元の人間に戻るとか?」
「以前試した事があるのですが、世の中そんなに都合よく出来てはいないようです。修復出来る限界があるらしく、その限界量も年々減少傾向。今では腕などの修復が出来ず土の中から出る力も残っていない者も僅かですが現れ始めています」
「何で態々そんな事をしてるんですか?……あ、もしかして他に土を処理する場所が無くて仕方なくゾンビに土の処理をしてもらってるとか?」
「そういう訳ではないのですが……。まあ、色々と事情がありまして」
スチュワートは明確な回答を避け、濁すように苦笑いをする。
瑞希もその表情を見て、深入りしてはいけない話題なのだろうと察する。
何となく気まずい雰囲気になってしまった瑞希とスチュワート。
瑞希から話を振らない限りスチュワートから作業以外の話題は出ない。
これは今に始まった事ではなく、普段からスチュワートは率先して話題作りをするタイプではない。
結果、会話は途切れたままの状態となってしまった。
その後も会話のきっかけを見出すことが出来ず、黙々と作業をする事となった。
墓地に土を運ぶ作業を2往復終え、3往復目に入ろうと土を詰め込む最中、大輔がオウキーニとの話を終えたらしく、2人並んで近づいてきた。
「おつかれー。一応話は終わったぞ」
「キリの良い所で手伝いは切り上げニャ。そろそろ帰るニャ」
大輔は作業の手伝いの為、そしてオウキーニはコロポックル達を迎えに来たのだった。
「「「あーい」」」
元気よくオウキーニに返事をするコロポックル。
ヴァンとスチュワートはコロポックル達にお礼を言い、収穫した野菜をコロポックルが使用していた猫車山積みにして渡した。
『給金は出せない』と言っていたが、その代わりの様な物だろう。
コロポックル達も返礼品を受け取り手放しで喜んでいた。
こうしてオウキーニ一行は帰路に就いた。
コロポックル達の助力のおかげで土の入れ替え作業の6~7割程度は完了していた。
残る大半は樹木周りの作業だが、これに至っては大規模な土の入れ替えはせず、軽く掘り起こし、少し多めの土を被せれば完了との事だった。
コロポックル達が抜け作業効率は下がったものの、代わりに大輔が入った事で多少はカバー出来、夕食前に土の入れ替え作業は完了した。
ヴァンとスチュワートの2人で作業をしていた時は2日がかりでの作業だったとの事だ。
残るは作物の植え付け作業だが、これは明日ヴァンとスチュワートがエレノアの意見を参考にしつつ遂行すると言う事で話がまとまった。
「いやー、久々に力仕事するとやっぱり疲れるな」
「だね。明日筋肉痛になるかも」
「瑞希、夕食後少し話がある。疲れたからって寝るなよ」
「オウキーニと話してた事?」
「まあ、そうだな。情報共有と今後の予定とか色々」
「分かった」
軽く会話を交わした瑞希と大輔はその後片付けをし、各々の部屋へと戻っていくのであった────。