猫又の御手手事情とか交渉の話とか色々な第52話
雑談が終わる頃、スチュワートが剣を携え速足で戻って来た。
「おまたせしました」
スチュワートが手にしている剣の剣身部分は布のようなものが巻かれている。鞘が無いので一時的な措置なのだろう。
剣を受け取ったオウキーニは帯状の布をスルスルと解き剣の状態を確認している。
「いつ見ても刃毀れ1つ無い素晴らしい剣だニャ。……おーい、アレを持って来てくれニャ」
「オウキーニ、いけ」
「きょり、かわらない」
「オウキーニ、やすんでいい、いった」
コロポックル達の言い分としてはオウキーニと自分たちは同じような位置に居るので他人を使わず自分で出来る事は自分でやれとの事なのだろう。
オウキーニもまさか拒否されるとは思っていなかった様子で一瞬思考が停止したのか固まっていたが、コロポックル達を説得するよりも自分で取りに行った方が早いと判断をしたのだろう、ヴァンに「少し失礼するニャ」と一言言い残すとベヒモスの下へ向かっていった。
オウキーニはベヒモスの荷台から鞘を取り出すと剣を鞘に納める。
そのまま剣を荷台に置き、戻って来た。
「オウキーニは鞘持ってるんだな」
「使う機会は少ないが、1つ持っていると便利ニャ。商品を丁寧に扱うのは商人の鉄則ニャ」
「だとよ。ヴァンも見習えば?草刈り機の如く振り回してただろ」
「余は商人ではないからな」
「そんな事より、オウキーニってどうやって剣とかスコップとか持ってるの?」
オウキーニが土を運んでいた時から疑問に思っていたようだ。
剣を受け取った時に観察していたが、オウキーニがどのように剣を掴んだか分からず、本人に直接聞く事にしたのだろう。
「そりゃ、アレだろ。ドラ〇もんの秘密道具ペタリハンドと同じような原理だろ。こっちの世界独自のテクノロジーがあるんだろ」
「違うニャ。普通に掴んでるニャ。手を広げると掌球と指球の間に隙間が出来るニャ。そこに挟むようにして掴んでるニャ。人間ほど器用には掴めへんけど不便にならない程度には物がつかめるニャ。爪を使う時もあるニャ」
「また大輔はいい加減な事言うんだから……。で、しょうきゅう?としきゅう?って何?」
「手の平の中心にある大きい肉球が掌球で人間の指にあたる部分にあるのが指球ニャ。こんな感じで開くと隙間が出来るニャ」
オウキーニは自分の手の平を上にした状態で全員が見えるようにして説明をする。
実践しているオウキーニの手をヴァンが徐に握る。
「ぷにぷに。本当に主は余す所無く愛い奴よのぅ」
我慢の限界だったようだ。
「分かる。猫の肉球って良いよね」
ヴァンに同感する瑞希。
瑞希もオウキーニの肉球を触りたいようだが、自重しているようだ。
「やめてくださいニャ」
「おっ?そんな口を利いて良いのか?」
「上得意様相手でもこれはワイにも拒否する権利があるニャ」
「爺、例の物を」
ヴァンの指示を聞いたスチュワートがポケットからマタタビを数個取り出すヴァンに手渡す。
「これが何かわかるかのぅ?」
「そ、それは、まさか……マタタビ!?」
「ドリュアスに頼んだやつか。成長が早いとは聞いていたが、もう収穫出来るまでに成長してるとはたまげたな」
「お主と専売契約も考えておったのだが、少し考える必要があるかもしれんのぅ。商売は信頼関係あってのものだから仕方が無いのぅ」
完全なハッタリである。
現在、ここに出入りしている商人はオウキーニ以外に居ない。
オウキーニ以前も現在オウキーニが属している商会の者が出入りをしていたのみである。
つまり、ヴァンにはこれと言った伝もない
「あー……肉球が凝って仕方ないニャ。何処かにマッサージしてくれそうな御仁は居ないかニャ」
「肉球が凝るってなんやねん!」
先程まで逃げる口実を考えていたオウキーニだが、打って変わりこの態度である。
今では手の平を返しヴァンに取り繕う事に必死のようだ。
流石にオウキーニの言い分には大輔がツッコミを入れている。
「瑞希と大輔が猫について詳しそうだ。頼んでみてはどうだ?」
「ほんな殺生ニャ……」
「冗談だ。ではお言葉に甘え、堪能させていただくとしよう」
宣言通り、オウキーニの肉球を堪能するヴァン。
「ふむふむ。これは中々癖になるのぅ。按摩店などを経営してはどうだ?余が足繁く通うぞ。このプニプニ感では凝りは解せそうにないが、身体より心に作用する按摩店と言う触れ込みでどうだ?」
「ワイは肉体労働に向かん言うとるニャ」
「商人も十分肉体労働だと思うのだが残念だ」
ヴァンも本気で出店の話をしていた訳ではなさそうだ。
口ではこう言っているが、全く残念そうな表情をしていない。
「まだやるかニャ?」
既に10分近く肉球も揉まれている……。
瑞希と大輔も呆れ始め、エレノアに至っては何故かオウキーニに対して憎悪の視線を送り始めている。
「心残りはあるが今日の所はこれくらいにしておこう。して、マタタビについてだが、今後はどの程度の量を準備すれば良いのだ?今回は試作品として植えてみたが株を分けて増やした方が良いか?」
ヴァンは後ろ髪を引かれる思いでオウキーニの手を放す。
そして、オウキーニにマタタビを渡すと今後の生産量についての話に移った。
「ようさんはいらへんニャ。使用するんはワイと同類の者だけニャ。使用する頻度も少なくて良いいニャ。ダンナの両手に収まる程度あれば、ひと月は持つと思うニャ。足りひん時は相談するニャ」
「うむ。代金はプニプニ按摩で良いぞ」
「ワイの労働分で同類にマタタビを渡すのは癪だニャ、せやけど考えておくニャ」
「同類の仲間には代金を請求すれば良い。お主と同等に愛い同類が居るなら按摩要因として余に派遣しても良いぞ」
「帳簿の問題があるニャ。仲間内での売買は禁止されてへんけど、商品として仕入とる場合は話が別ニャ。代金はワイの一存では決められへんニャ。今回の分は試作品と言う事で一度持ち帰って、需要とのバランスで代金の話も後日するニャ。需要が少ない場合は商品としてではなく、個人取引に変更しマッサージでの支払いも致し方ないニャ。その時は体で払うニャ」
「誤解を生むような発言だな」
オウキーニの発言にツッコミを入れる大輔だが、他の誰もその事に触れようとしない。
「今回はそれで良い。良い返答を期待しておるぞ」
「あとは前回頼まれていた荷物の搬入をして終了ニャ」
「では残りは爺に任せるとしよう。エレノアは余についてまいれ」
『はーい。デートのお誘いかしら?』
「仕事だ」
「僕たちは?」
「好きにするが良い」
「じゃあ、僕はヴァンくんとエレノアの手伝い。何するか分からないけど」
「俺はオウキーニとちょっと話がある。オウキーニ、仕事が終わってからで大丈夫だから、少し話をする時間を作ってもらっても良いか?」
「了解ニャ」
こうして一同は解散する事となった。
オウキーニが仕事を終わらせるまでの間、大輔はコロポックル達と雑談をし、時間を潰すのであった────。