大人と子供ほどの力量差があり、手加減されていた事を知る第50話
「皆さまいつもご苦労様です。お茶の準備が出来ております。よろしければ休憩なさってください」
見計らったかのようなタイミングでスチュワートがお茶や軽いお茶菓子などを持ち屋敷の中から姿を現す。
恐らく、幾度となく繰り返されている作業なので凡その時間の予測が可能なのだろう。
「いつもお気遣い助かるニャ。……作業を終えた者から休憩に入るニャ。みんなダンナのお心遣いに感謝するニャ。ワイはダンナと別件で話があるからゆっくりしてて良いニャ」
「「「だんなさん、ありがとうございます」」」
片付けを終えた順にスチュワートからお茶の入ったコップを受け取ると地べたに座り休憩に入る。
何故かスチュワートは瑞希たちの分のお茶も用意していた。
せっかく渡されたお茶なので御相伴にあずかる事にした。
瑞希、大輔、エレノアのグループから少し離れた位置にコロポックル3人。
そして、その2グループの中間あたりにヴァン、オウキーニ、スチュワートの3人が立ち話をしている状態だ。
「アレをお預かりしてもよろしいかニャ?」
「うむ。爺、アレを持ってきてくれ。それと例のアレも幾つか収穫してきてくれ」
「畏まりました」
オウキーニの言うアレとは例の剣の事だろう。
「何の事ニャ?」
「暫し待つが良い。新たな取引の話だ」
オウキーニの疑問に答えようとしないヴァン。
それよりも、スチュワートが居なくなった事でヴァンが今にも過激なスキンシップを取ろうとウズウズしているのが手に取るように分かる。
そして、オウキーニも当然そのことは察している。半身の姿勢を取り逃げだす準備は万端だ。
その見覚えのある光景を目にした瑞希が疑問を口にした。
「そう言えば、ヴァンくんって僕に初めて血を要求してきた時に逃げたよね?あれってなんで?」
「何故とは?主が臭かったからだ。説明もしたと記憶しておるが」
瑞希の疑問を耳にしたヴァンが回答をする。
確かにヴァンの指摘通り『腐臭が酷い』と拒否反応を示していた。
「いや、そうじゃなくてね。ゴーレムを簡単に倒せる実力があるならスチュワートさんに助けを求める必要はなかったんじゃないかなって思っただけだよ。僕の事なんて簡単に制圧出来たでしょ?」
「そう言う事か。無論、お主を制圧する事など造作もない。日頃は力を抑えているものの、咄嗟の行動までは責任がとれぬ。思いもよらぬ反撃があった時などだな。しかし、お主はアレを生身で受けたいと?中々に酔狂な趣味を持ち合わせているようだのぅ。人間はもろい生き物だと認識しておるが、お主が頑なに所望するのであれば次回からは余が直々に対応するとしよう」
ヴァンが顎でコロポックル達が纏めた土の山を指す。
瑞希はゾッとし、冷や汗が流れるのを感じた。
「い、いえ、遠慮しておきます。次回からもスチュワートさん対応でお願いします」
「うむ。賢明な判断だ」
『私はヴァン様直々に手厚い魔力の供給をお願いします!』
「スチュワートのいない所でふざけるのは控えた方がよさそうだな。命にかかわりそうだ」
「そうだね。お互い気を付けようね」
例の如く無視されるエレノアと半分冗談ながらもヴァンに聞こえないよう小声で話す瑞希と大輔であった────。