今後の予定を話しながら食事をするだけの第5話
駐車場に戻るまでの雑談は夕食の話に移る。
「────で、ご飯どうする?何食べる?」
「車出してもらってるから夜も俺が奢るけd……」
「高級焼き肉!」
「だから、高級なのはダメだって。食べ放題とかなら焼肉でも良いけど、大輔は何が食べたいの?」
やや食い気味での返答。
奢られる立場の大輔としては現実味のある値の張る提案をすると図々しいと考え、瑞希の懐事情を探るべく、多少戯けた回答をした。
だが、内心では奢ってもらえるなら何でも良い。何が食べたいかと問われると少し困る。
「うーん……。瑞希が食べたいもので良いかな。奢ってもらえるならラーメンでも牛丼でも何でも良いぞ」
少し考えたフリをして正直な気持ちを返答する。
「そうだな……。お肉かお寿司って気分だけど、食べ放題の焼肉なら寿司かな。大輔もお寿司で大丈夫?」
「回らない寿司大歓迎です」
「回るやつ!」
最後まで冗談を交えつつ、無事夕食が決定した。
寿司屋に到着してウェイティングリストを記入する。
先客は4組。
待ち時間は約20分と表示されている。
「大輔、テーブルとカウンターどっちが良いとかある?カウンターの方が早いかも」
「テーブル」
「え?テーブルね。了解」
瑞希としては「どっちでも良い」と言われると思っていたので一瞬手が止まる。
大輔に質問したのは礼儀と言うか只の形式的な質問のつもりだった。
思いもよらぬ返答があったものの、念の為に質問して良かったと思いながらテーブル席の項目に〇をつける。
程無くして店員の案内で席に着くと慣れた手つきでお茶の準備をしながら瑞希は大輔に声を掛ける。
「テーブルもカウンターも時間的には変わりなかったね」
「そうだな。ここって寿司回ってないのか?」
「うん。ここは全部注文式の回転寿司だよ」
「回転寿司とは……?瑞希、何食べる?」
適当に会話をしながら大輔はタッチパネルを操作する。
会話の内容は本当に適当だった。
何故なら、大輔は回転寿司でレーンを回っている寿司を取った事は1度もない。
例え、レーン上にある寿司を食べたいと思っていても注文をする。
タッチパネルを操作しながらメニューの確認をしていただけで、1回目の注文は瑞希の注文を聞いてからと決めていた。
回転寿司の注文システム上、1回の注文で最大5品まで。など制限がある事が多い。
この店も例外ではない。
大輔はその事を知らないが、自分の注文したものだけ運ばれてきても気まずいので1回目の注文は1人で注文枠を埋めないように配慮した質問でもあった。
連続で注文すれば何の問題も無いのだが、多少のタイムラグがある。奢られる立場なので最悪の場合は瑞希が先に5品注文しても良いと大輔は考えていた。
「じゃあ、イカと玉子」
「他は?」
「あとでゆっくり決める」
「了解」
瑞希の注文を入力した後、自分の注文も入れる。
5品目で半強制的に注文の確定ページに飛ぶ。
一気に何品も注文出来れば楽なのにな……。と思いながら2周目の注文に移る。
瑞希の注文をした時に自分の分としてエンガワ、タイ、茶碗蒸しは注文してある。
残り5皿を一気に注文する気はなかったが茶碗蒸しは多少時間が掛る。2皿ではすぐに無くなると考え、サーモンを2皿追加で注文。
これで瑞希2皿、大輔4皿+茶碗蒸し。
これだけの量があれば当面は注文時にごたつく心配はないだろうと思い、初めの注文を終え、雑談に移る。
大輔がテーブル席を希望したのは少しゆっくり話をする時間を確保したかったからだった。
あくまでも大輔の個人的な感想だが、カウンター席はテーブル席に比べ急かされている感が否めないので大輔はカウンター席が好きではない。
「夜はどんなスポットに行く予定なんだ?」
勿論、雑談の内容は今後の予定。
「滞在時間とかにもよるけど、廃病院と森、トンネルの3か所予定してるよ。……あ、大輔は何時まで大丈夫?明日の予定とかある?」
「ん~……。予定はないから時間は気にしなくて大丈夫」
「そう。一応最後はトンネルに行きたいんだけど、病院とダム、先にどっち行きたい?大輔の好きな方で良いよ」
「何でトンネルが最後なん?」
「ネットで調べた情報だけなんだけど、そのトンネル今は封鎖されてるんだって。でね、このあたりの心霊スポットの中で最恐スポットなんだって。そうなるとトリを飾ってもらうのが良いよね。時間的にも最後に回れば雰囲気出るし最高だね」
やや早口で恍惚な表情を浮かべながら説明する瑞希。
大輔は心の中で「うわっ……気持ち悪っ」と恍惚な表情の瑞希に対して毒突きながら、自分の意見を述べる。
「それなら徐々に怖くなった方が良いよな。先に怖い方に行って2番目が怖くなかったら拍子抜けだし。どっちの方が怖い?」
「うーん……。ネットのレビューだと同じくらいだったし行く人の好み次第かな。病院は普通に不気味な雰囲気、ダムは心霊現象が多いとかって話。雰囲気を味わいたいなら病院で心霊体験をしたいならダムって感じかな?県を跨ぐレベルで移動すればモーテルとか曰く付きのお墓とかもあったんだけど、時間的に1日で行ける範囲を考えて病院とダムとトンネルの3か所だね」
「じゃあ病院、ダム、トンネルの順だな。雰囲気だけの心霊スポットなんて気を付けるのは屯する輩くらいだからな。遠出する場所はまた予定があった時だな」
「そうだね。うぇーい系のリア充ならまだマシだけど、ヤンキー系の怖い人がいるようならすぐに帰ろうね」
「だな」
「あっ、でもトンネルは少し危なそうな人が居ても頑張って突入しようね」
「えー……。おっ、寿司来た」
乗り気ではなかった大輔に助け舟と言わんばかりに注文をした寿司が運ばれてきた。
手際よく皿をテーブルに並べる。
恐らくヤンキーと遭遇する確率はほぼ無いと考えつつも、瑞希への返答は濁したままだった。
しかし、このまま会話を続けると今までの話の流れを引き継ぐ可能性は高い。
暫くは「寿司旨い」など適当に感想を述べつつ食事に集中するフリをしながら次の話題のタイミングを考える。
勿論、今から行く心霊スポットの話とは別の話を上手く切り出すタイミングも考えなければならない。
3皿目に手を付けたタイミングで次の注文の事が頭を過る。
「大トロ食べても良い?」
「トンネル突入する時頑張る?」
「う゛っ……」
どうやら会話の流れを変える事に失敗したようだ。
満面の笑みで聞き返してくる瑞希の笑顔が憎らしい。
「頑張る?頑張らない?」
「……頑張ります」
「じゃあ、良いよ」
「やったー」
今まで心霊スポットで他の人と遭遇した回数は片手に収まる程度しかない。
遭遇したとしても普通の人だった。
普通と言っても心霊スポットに来る時点で普通ではないが、普通に心霊スポットを巡る人と言う意味だ。
そう言った過去の経験などを考慮し、ヤンキーに出会うリスクと大トロへの誘惑を天秤にかけた結果、誘惑に負けて返事をする。
だが、万が一ヤンキーが屯していた場合、屁理屈をこねたり理不尽にごねたりしてでも逃げようと考えている。
その時はその時。口約束で先払いした瑞希が全て悪い。と自身を正当化しながらその後の食事を楽しんだのであった。