世界が変われば規模感も変わる第47話
そして、オウキーニが訪問を約束した日の昼下がり。
瑞希と大輔は昼食を済ませ庭でエレノアと念話の練習の最中である。
「むむむむむ……。どう?伝わった?」
「何も聞こえんし、一向に出来る気がせんな」
「エレノア、何かコツとか無いの?」
『コツって言われても困るわね。伝えたい相手に伝えたい事を思い浮かべてエイッてやるだけよ。但し、今私がやってるのは自分を中心に声を伝えたい範囲にテイッてやってる感じね』
エレノアの説明が抽象的過ぎて理解不能である。
これは天才に物を教わっているが如く感覚に陥ってしまう。
本人としては出来て当たり前。寧ろ何故出来ないのか?と逆に質問をされ困惑してしまうアレと同様の事象なのだろう。
「うーん……全く分からない。聞く事が可能なのに、話す時は声に出さないといけないのは微妙に不便だよね」
「だよな。互いに念話で会話出来れば麻雀とかでイカサマし放題で便利だもんな」
「いや、そういう訳じゃないけど、ある程度の距離を無視して会話出来るのって便利だよね。エレノアが土の中からも話しかけられるって事は壁とかがあっても会話出来るって事でしょ?すごく便利じゃん。距離的にもドリュアスさんとの会話も出来るんでしょ?あの場所まで結構距離あるよ」
エレノアの念話が一方通行な事へ多少の不満を持った瑞希と大輔が自分も使いたいと言い、屋敷に戻った翌日から暇を持て余していたエレノアに懇願して念話の練習を2日間にわたり行っていた。
しかし、エレノアの教え方に問題があるのか瑞希たちに才能が無いのか、全く進展はない。
『それはちょっと違うわね』
そんな雑談がてらの念話練習中、体に振動を感じる。
「あれ?揺れてる?」
エレノアが何か反論をしようとしている途中だったが、瑞希の疑問により中断されてしまった。
「あー……確かに揺れてるな。地震か?」
始めのうちは言われれば感じる程度の揺れであったが、その揺れは徐々に大きくなる。
そして、大きくなる揺れと共にズシーン、ズシーンと言う音も聞こえてくるようになった。
音と振動は一定の間隔で繰り返しながら近づいてくる。
『何か近づいて来てるわね』
「何かって何?」
『ちょっと待ってなさい……。……ゴーレム6体とベヒモス2体ね』
「何でわかるの?」
『これがネットワークの力よ。森に居る他のマンドレイクに聞けばこの程度の事は朝飯前ね』
胸を張り自信満々に答えるエレノア。
「マンドレイクネットワークって念話の応用みたいなものでしょ?やっぱり便利だね」
「ゴーレムって事はマイドーたちか」
「オウキーニでしょ」
「そうそう。そんな感じの名前だったな……って何、冷静にベヒモスとか言ってんだよ!」
一瞬流しそうになったエレノアの発言だったが、冷静に考えるとツッコミどころのある発言であることに気がついた大輔が透かさずツッコミを入れる。
異世界に来てから空想上の存在と思われていたモンスターを目にし、慣れてしまっていたのだろう。
モンスター名を聞いたところで『あー、あのモンスターか』と頭の中で思い浮かべる程度で存在の否定はしなくなっていた。
慣れって恐ろしい……。
『そうは言っても良くある事だからね。ベヒモスは帰りに大量の土を運ぶ必要があるから連れて来てるって言うのも知ってるわよ。今回は少し大所帯だけど、偶に見かける程度には普通ね』
「ベヒモスってRPGの召喚獣とかボス系のモンスターで出てくるベヒーモスの事でしょ?」
「あぁ、そうだな。巨大な牛とかカバみたいな見た目で描かれる事の多いモンスターで、1日に千の山に生える草を食べて、大河の流れをひと息で飲み干すとも言われてるな」
話が冗長になると瑞希が最後まで話を聞かない事が多いと学んだ大輔が雑学を披露したいのをグッと堪え手短に説明を加える。
学んで手短に話す事を意識しているとは言え、聞く側にとっては無駄が多いと感じる事が多いのが玉に瑕だ。
説明をしている大輔としては『アレも説明したい、これも言っておかなければ』と葛藤し選定した上での手短な説明。
知っている知識をひけらかしたくなり、つい長々と反してしまうのはオタク特有の性って事でご愛敬の範囲だろう。
『な訳ないでしょ。そこまでの大食漢だったら数日で世界が崩壊してるわよ。大河を一飲みってどんだけ巨大だと思ってるの』
御尤もな意見である。
「お、おぅ……」
こちらの世界に転移してから悉く自身の知識が訂正されてしまう大輔。
軽いショックを受けつつ『それもそうだよな』と納得さざるを得ない。
そんな雑談を交えつつ、地響きのする方向を眺めているとベヒモスの頭と思しき動く物体を確認する事が出来た。
「……十分デケーじゃねーか!!」
凡その距離や周りの木々を元にしての推測にはなるが10m近い高さ。
四足歩行時の体高が10m前後である。体長は更に大きいと容易に想像できる。
恐らく、剣やドリュアスまでの道程で踏み固められていた部分があったのはこのベヒモスたちの仕業……いや、賜物だろう。
そんなベヒモスが近づいてくるのをポカーンとした顔で眺めるしかない瑞希と大輔。
エレノアは当然と言わんばかりに無関心である。