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単純に嫌いな事をするだけではテンションが上がらない第41話

そして、食後……。

瑞希は大輔に呼ばれ、剣の置かれた台座まで同行させれれていた。

「どうしたの?」

「どうしたの?じゃねーよ。撮影だよ撮影」

「撮影?」

「さっきは剣が抜けなかったけど、今は抜けてんだから1枚撮って」

「あー……」

大輔の言っていた事は記念撮影だった。

あまりにもくだらない内容ではあったものの、現実ではまず遭遇する事はないであろう一場面。

瑞希が快く大輔の撮影を了承すると、大輔は剣を天に掲げポーズをとる。

1枚目は剣がはっきり映るようにと瑞希がアングルを考え、大輔の上半身と剣を撮影して確認をしてもらった。

「うーん……悪くはないんだけど、台座が映ってないとしっくりこないって言うか、単に剣掲げてるだけじゃね?」

瑞希としては十分にカッコイイ1枚だと思ったが、大輔が納得していないようなので少し引いたアングルで再度撮影をした。

「まあ、こんな感じで良いだろ」

どうやら大輔も納得したようだ。

1枚目の写真を削除しようか悩んだ瑞希だったが、削除する理由も特にないと感じ、2枚の写真を保存する事にした。


「何をしておったのだ?」

瑞希たちの様子を少し離れた位置で観察していたヴァンが戻って来た2人に質問をする。

「えーっと……何て言うか、儀式だな。あんま気にすんなって」

少年心を擽られ記念撮影をしていたと告白するのが恥ずかしかったのだろう。

大輔は少し濁す感じで回答をする。

ヴァンも2人の行動にそれほど興味を持つことなく、それ以上の言及はなかった。


ヴァンは2人の行動に興味が無く、瑞希と大輔の2人も撮影に満足したので準備を済ませドリュアスの下へ向かう事となった。


「さて、どうしたものか……」

とある地点で立ち止まるヴァン。

「どうしたんだ?」

「ドリュアスの下まで真っ直ぐ進むか回り道をするかで少し悩んでいるだけだ」

「何か違うの?」

「ここを真っ直ぐ進めば早いが多少険しい道。回り道すれば踏み固められた道なので多少は整備されていて歩き易いだけだ。主らはどちらが良い?疲労が溜まっているようなら歩き易い道の方が良いぞ」

瑞希と大輔は少し考える。

「回り道が良いな」

「突っ切る一択だな」

ほぼ同時に発言した2人だが、2人の意見が対立してしまっている。

大輔は単純に疲れも溜まっていないので早く着いた方が良いと考えた結果だ。

そして、瑞希も疲れは溜まっていないものの、雑草を掻き分けて歩くのが確定している獣道を歩きたくないのだ。

瑞希は大輔の襟を掴むとヴァンから少し離れた位置に大輔を連れていこうとする。

「ぐえっ!ぐるぢい……瑞希みじゅきまっでる!!」

不意の出来事だった為、大輔は一瞬反応が遅れる。

首が締まっているので声が上手く出せない。

瑞希の腕をタップして知らせたかったのだが、後ろから引っ張られた所為で不可能だった。

数歩後ろに引っ張られた後、やっとの思いで声に出す事が出来た。

瑞希も状況を理解したらしく、引く力が弱まった。

大輔は数回咳き込んだ後、深呼吸をし、瑞希に尋ねる。

「何だよ急に」

「絶対嫌!」

今回もヴァンに聞こえないように声は抑え気味である。

「何がだよ」

「藪の中を歩くのが嫌なの!虫が出る確率高いでしょ」

「そうは言っても早く着いた方が良いだろ?それに藪の中歩くのなんて日常茶飯事だっただろ。心霊スポット巡る時も虫よけスプレー吹きかけて特攻してたじゃん」

「それはそれ、これはこれ!他の選択肢があるなら態々(わざわざ)虫の出る道は選ばないの!心霊スポットは他の道が無かったから仕方なくなの」

「ヴァン、回り道するとどれくらい変わるんだ?」

「時間か?歩き易さか?時間なら小一時間程度だな。歩き易さなら今歩いている道を歩き続けるか昨日さくじつの道を歩くか程度の違いだな」

昨日の道とは剣のあった道へ続いていた獣道の事だろう。

「瑞希がスプレー使えば良いだけだな」

「待ってよ。何で真っ直ぐ進む事前提で話進めてるの」

「早い方が良いじゃん」

「でも……」

「分かったよ。じゃあ、公平にじゃんけんな。1回勝負で文句は無し」

「まあ、それなら」

話が平行線を辿ったままお互い引く気配がないと悟った大輔は折衷案としてじゃんけんを提案した。

瑞希も大輔が大人しく引く事はないと理解していたので大輔の案を飲む。

「最初はグーじゃんけん……ポン!」

結果は瑞希がグーで大輔がパー。

この瞬間、目の前の獣道を歩く事が決定した。

「ぐぬぬ……」

「嫌なのは分かるけど、いくら何でも力み過ぎだって。あそこまで緊張してたらグー以外出せないだろ」

「もう1回」

「文句なしの1回勝負って話だっただろ。諦めろ。さっさと虫よけスプレー用意しな」

大輔の返しを聞いた瑞希は苦虫を噛み潰したような表情で自分の右手を数秒間見つめると、抵抗するのを諦め、藪の中を歩くための準備を始める。

「決まったか?」

何かしらの決着がついた事を確認したヴァンが2人に質問をする。

「問題ない。真っ直ぐ進むことに決まったぞ。瑞希が準備するから少し待ってくれ」

瑞希は2人の会話を聞きながら渋々と言った様子で全身に虫よけスプレーを吹きかける。

これでもかと言う程スプレーを吹きかける。

スプレーで瑞希の姿が霞むほどだ……。


瑞希の準備も完了し、再出発。

列の並びは以前と同様。

1つ違いがあるとするなら瑞希のテンションが0……いや、マイナス域に突入している事だろう。

剣のある場所までに通った獣道以上に手の加わっていない、到底『道』と呼ぶのはおこがましい藪の中を進む。

ヴァンが雑草を掻き分け、大輔と瑞希が踏み固める事でようやく1本の道らしき物が出現する。

虫嫌いの瑞希にとっては地獄以外の何物でもないのだろう。

せめてもの救いは前に2人が居るので歩き易い事と両手に着けている軍手の存在だろう。

軍手は瑞希と大輔が独占している為、ヴァンは素手の状態だ。

……とは言え、これは瑞希がヴァンから軍手を奪った訳ではない。

ヴァンは剣を持つ必要があった為、瑞希に軍手を返却したのだった。

しかし、先頭を歩くヴァンの事を心配する余裕が無かった瑞希はまるで神を崇めるが如く勢いでヴァンに感謝しつつ、何の遠慮なく軍手を受け取ったのも事実である。

事実、現時点でヴァンは素手で草を掻き分ける事はあまりせず、草刈り機が如く剣を振るいながら道を確保している。

そんな経緯もあり、無事(?)獣道を歩ける精神状態を保てている。

普段の心霊スポットと異なりテンションが上がらないのは行く先に瑞希の求める目的が無い事が原因だろう。


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