ホラーゲームや怖い話の大半は大きな音でしか驚かす事が出来ていないよな。と思わせる第4話
「あった。ここ。このマンホールの所」
瑞希は十字路の中央に鎮座するマンホールを指差しながら現場に到着した事を知らせる。
「ここがどうしたのか?」
大輔が疑問に思うのも仕方がない話だ。
ここは何の変哲もない只の狭い裏路地の一角。
周囲を見渡しても特に変わった様子はない。
「この周辺だけ、碁盤の目みたいにキッチリ整地されてるんだけど、ここにはおかっぱ頭で赤いスカート、白いシャツの女の子が出没するんだって」
「ちび〇る子ちゃん?」
大輔は自身が想像したであろうアニメキャラを口にする。
「違うって。何でもその女の子は座敷童か死神かって言われてるんだって。大輔、こう言う話好きでしょ?少し早いけど、あと1時間もすれば逢魔が時。本当に何か出てくるかもよ」
そう、大輔は心霊スポットが好きな訳ではない。
瑞希とは異なり、大輔は妖怪や物の怪の類の話が好きなのである。
大輔が瑞希の心霊スポット巡りに付き合う理由も幽霊や妖怪、将又それに近しい存在に出会えるのではないかと言う大輔なりのロマンがあるからだった。
瑞希は心霊スポットやポルターガイストなどの霊障、大輔は怪物や妖怪などのUMAと言う違いはあるものの、両者ともオカルト好きなのに変わりはない。
瑞希も一般人に毛が生えた程度にはUMAの話が分かる。趣味の方向性は多少違えど類似の趣味を持つ人間として昔から仲の良い2人。
10年近くも親友としての関係を続けていれば、相手の好きそうな分野も理解出来ると言うものだ。
「詳しく」
瑞希の予想通り、大輔は瑞希の話題に食いついた。
「何でも、このマンホールの上に立つと、1本先の路地を横切る女の子の姿が見える事があるって話だよ」
茜色に染まり始めた空も相まって雰囲気は出ている。
大輔は瑞希の話を聞きながら、好奇心を抑えきれずマンホールの上に立つ。
「どっち方向?」
十字路の真ん中。1本先の路地と言われても、綺麗に聖地されているので見るべき方向が分からなかった。
「方向は決まってないと思うよ。……で、女の子が横切るのが見えたと思ったんだけど、全く違うあり得ない方向から同じ女の子が横切るんだって。ちょっと分かり難いかもしれないけど、大輔が今見てる方向を12時とすると、右から左に女の子が横切ったと思ったら3時とか6時の方向の道から女の子が横切るみたいな感じ」
「へー。でも座敷童とか死神とかって話とは関係が無いように思えるんだが?」
「何でも、その女の子が路地を横切ってる分には問題ないんだけど、偶にマンホールの上に立ってる人の背後から女の子に声を掛けられることがあるらしくて、声を掛けられた人は3日以内に死ぬって話。只、声を掛けられた日から死ぬまでの間はとんでもない幸運に恵まれるって書いてあったよ」
「幸運に恵まれても3日以内に死んじゃったら意味がn────」
「あのー……」
「「ヒッ……」」
路上の真ん中で会話を続ける2人の背後から唐突に消え入りそうな声を掛けられ、体をビクッとさせ反応する。
恐る恐る振り返り、声の主を確認する。
そこには女の子2人と男の子2人、合計4人の子供が立っていた。
子供たちは全員10歳くらいと言った感じだ。
「お兄さんたちも女の子を見に来たの?」
2人に声を掛けて来たであろう女の子が質問をしてきた。
「うん。そうだよ。君たちは?」
瑞希は腰を屈め、女の子と同じ高さの目線で返答をする。
「俺たちはお兄さんたちみたいな人を見かけた時にこっそり後ろから近付いて声を掛けて驚かして遊んでるだけ」
女の子に変わり横に居た男の子が返事をする。
どうやら、近所の悪ガキどものようだ。
瑞希と大輔は顔を見合わせた途端、乾いた笑いが漏れる。
男の子の言う通り、2人は声を掛けられた時、相当ビビっていた。
常日頃、「心霊的な恐怖体験をしたい」、「妖怪と友達になりたい」などと大口を叩いていた2人だったが、いざ体験するとやはり好奇心よりも恐怖心が上回る。
自身の事もそうだが、互いに互いの心理状態も同様のものだったと声を掛けられた時に漏れた情けない声や動きなどの反応で理解出来た。
その事で気まずさもあり、笑って誤魔化すしかなかったのだろう。
もしかしたら正体が分かった事の安堵感もあったかもしれないが、それは些末なものだった。それ以上に羞恥心が勝った。
目の前で壊れたように笑う2人の姿を見て呆気に取られる少年少女。
暫くするとヒソヒソと「壊れた?」「危ない人たちなの?」「大丈夫?」など瑞希たちを心配する声と自分たちの身の危険があるのか心配する声が聞こえてきた。
「ごめんごめん。ちょっと驚いただけ。でも、結構面白かったよ。ありがとう」
悪戯心で驚かしたのにもかかわらずお礼を言われ困惑する4人。
「やっぱり危ない人?」などなど、まだヒソヒソ話は続いていた。
「君たち、その都市伝説について詳しい事知ってるのかな?」
危ない人と言う不名誉なレッテルを貼られるのを回避する為、大輔が機転を利かせて子供たちに質問をする。
4人は顔を合わせた後、小声で何やら相談し始めた。
「何か知ってるなら教えてくれない?教えてくれたらジュース奢ってあげるよ」
面白そうな話を聞けそうだと察した瑞希は近くの自販機を指差しながら提案をする。
「え?マジ?話す話す」
「私、オレンジジュースが良い」
「俺、サイダー」
「えーっと……わたしは~」
子どもたちは小走りで自販機に近づき、各々好きな飲み物を要求し始めた。
瑞希はヤレヤレと思いながら投入口にお金を入れジュースを購入。
「で、何を知ってるのかな?」
ジュースを4人に手渡し本題に入る。
「十字路の女の子の話だろ?実はあの話って────」
最初にジュースを手渡した男の子が話し始める。
男の子の話を要約すると
去年まで双子の姉妹が居て男の子たちは6人で遊ぶ事が多かった。
6人全員、この近所の子でこの辺りは彼らの遊び場だった。
ある日、鬼ごっこをして遊んでいた時、ここを通りすがった人が双子を見て瞬間移動したのかと思って驚いたと話したのが事の始まり。
座敷童、死神については誰かが死んだなどの噂は聞いた事が無いので根も葉もない噂話。
話を聞いた人が面白がって尾鰭をつけた話なのだろう。
これが現在のネット上で語られている都市伝説の真相。
因みに、噂の元となった双子は親の転勤で別の地へ移り住んでしまっているとの事だ。
「まあ、そんなもんだよな。本物の座敷童なり死神になんてそんな簡単に出会えないよな。瑞希の話を聞いて少しワクワクしたのに残念」
事の真相を知り、少し残念な様子の大輔。
「無いと分かっていても追い求めるのがロマンだよ。僕もいつか本物の霊障に触れてみたいな」
励ましているつもりなのか、微妙に意味不明な事を言う瑞希。
「2人ともさっき相当ビビってたくせに」
「「う゛っ」」
2人をからかう感じで発せられた男の子の言葉にぐうの音も出ない2人であった……。
その後も暫く雑談がてら子供たちの話を聞いて時間を潰した。
防災無線のスピーカーからメロディが流れる。
「話聞かせてくれてありがとう。暗くなる前に帰れよ」
子供たちが焦る様子もなく、話続けていたので門限の問題は無さそうだったが、暗くなると事故などに巻き込まれる可能性が高くなる。
大輔は話を切り上げ、子どもたちに帰宅を促す。
「ジュースごちそうさまでした」
「「「ごちそうさまでした」」」
「帰り道、事故とかには気を付けろよ」
「「「「バイバーイ」」」」
女の子がお行儀よく大輔たちにペコリとお礼をし、それに倣い他の3人もお礼をする。
元気よく手を振り帰宅する子供たちの後ろ姿を見送り、瑞希たちもこの場を離れる事にした。