要綱解説をするだけの第36話
ヴァンが答えを出すまでに多少の時間がかかると考えていた瑞希だったが、老人は意外と早く戻って来た。
「問題ないそうです」
「よかった。じゃあ、さっそく移動しましょう」
そう言うと瑞希は半ば無理やり自分の分の料理を腕に乗せる。
「坊ちゃまの分とご一緒にお持ちいたしますので無茶はなさらずに」
瑞希の皿の持ち方を不安視したのだろう。老人が瑞希に提案をする。
恐らく、老人の判断は正しい。
瑞希はウエイターなどの料理を運ぶ仕事の経験はない。
日常生活のおいても平皿を両手両腕に乗せるような芸当はしない。
テレビで見たものを見様見真似で試してみたかっただけなのだ。
老人が制止しなければ皿を落とす大惨事になるのは火を見るよりも明らかだった。
「あ、はい。お願いします」
ギリギリ腕でバランスを取っていた皿を取り、素直に老人の指示に従う。
瑞希自身、自分でも無理があると感じていたのだろう。
瑞希、大輔、ヴァン、3人分の料理をワゴンに乗せ瑞希、大輔、老人の3人は移動をする。
移動先は以前ヴァンが1人で食事をしていた場所だ。
老人がドアをノックし、老人を先頭に3人は入室する。
「おぉ来たか。好きな席に座るが良い」
ヴァンは座ったままでの対応だったが2人を歓迎しているようだ。
無駄に長いテーブルには席が多すぎる為、何処に座れば良いのか瑞希は一瞬迷う。
一緒に食事をするのだ。遠くの席に座る理由はない。
そう思った瑞希はヴァンの斜め前に着席する。
瑞希が着席したのを見計い、大輔は瑞希の対面に着席する。
そして、3人が着席したのを確認した老人が料理を並べる。
初めのうちは静かに食事をしていた3人だったが、とうとう瑞希が耐えきれなくなったのか話題を切り出す。
「ヴァンくん、この後ってどこ行くの?森の中としか聞いてないんだけど」
「まずは剣を取りに行く」
「またですか……」
『剣』の単語を聞き、老人がヴァンの後ろで呆れたように呟く。
ヴァンとオウキーニの会話では『アレ』としか言われていなかったが、どうやらその剣は当事者間では周知の物なのだろう。
ヴァンは老人の呟きを無視し続ける。
「一先ずそこで休憩をし、翌日ドリュアスに会いに行く予定だ。先にドリュアスの下へ向かう方が荷物は少なくて済むのだが、如何せん時間と距離がな……。先に剣を取った方が休憩場所に困らんのだ」
「ドリュアスって人?」
「人と言うか何というか。人の概念によるが生物である事に間違いはないだろう」
「ドリュアス……?何処かで見聞きした記憶が……。何処だったかな……?」
大輔には聞き覚えのある単語だったものの、肝心の所が思い出せないでいる。
そんな大輔を他所に話は続いている。
「どのくらいの距離なんだ?」
「言ってもそう大したものではない。剣のある場所までは遅くとも3時間ほどで着く。ドリュアスのいる場所まではそこから半日ほどだな。余、1人なら往復で1日と掛からぬのだが、今回は森に不慣れなお主たちも居るから走る訳にもいくまい。急がずゆっくり行くとしよう」
ヴァンは軽く言っているが、瑞希と大輔からすれば『大した距離ではない』とは言い難い。
山彦と出会った山の麓からこの館までの距離とまではいかないだろうが、似たような距離と想像出来る。
「1泊2日?」
「進行具合によるな。最悪、商人が来るまでに戻れば良いからな」
その後も今後の予定についてを話し合いつつ食事は終わった────。
「主らの準備は出来ておるか?」
「まあ、一応。準備って言っても、する事は殆ど無いからね」
「強いて言うなら途中の飲み水の確保くらいかな。1泊にせよ2泊にせよある程度移動する準備は出来てるが、飲み物はどうにもならんかったな」
「それなら心配に及ばん。では、準備を整えてエントランスにて待つが良い。余も直ぐに向かう」
そう言うとヴァンは食器の片づけをしている老人の下へ行くと何やら話し始めた。
「どうする?」
「って言われてもな。準備して移動するしかないだろ」
「だよね」
半ば強制的ではあるものの、話が進行している以上、他の選択肢はない。
瑞希と大輔は自室へ移動をし、準備を整える。
……準備と言っても瑞希がバッグを持つだけだ。
エントランスでヴァンの到着を待つこと十数分……。
「待たせたな」
声の方向を瑞希と大輔が見ると荷物を持った老人とヴァンの姿があった。
「瑞希様、大輔様。こちらを」
老人に何やら筒状の物を渡される。
「コレは何ですか?」
「飲み水だ。例の鉱石をしようしている故、後程使用方法の説明はする」
『例の鉱石』とは大輔が勝手に『魔鉱石』と名付けた鉱石の事だろう。
「水筒か。助かる。サンキュー」
「ありがとうございます」
2人は渡された水筒を首から下げ、お礼を言う。
「お坊ちゃま、お気をつけて行ってらっしゃいませ。くれぐれも無理はなさらぬように」
老人は持っていた手荷物をヴァンに手渡す。
「爺さんは行かないのか?」
「はい。数日とは言え、何かあった時の為、留守にする訳にはいきません」
「では、よろしく頼むぞ」
「かしこまりました」
こうして瑞希、大輔、ヴァンの3人は剣とドリュアスの下へ出立するのであった────。