何処かへ出かける事になったので準備をする第35話
「にしても胡散臭い関西弁やったな」
「僕からすれば大輔の関西弁も似たようなものだけどね。掲示板とかで使われる猛虎弁とか似非関西弁も区別がつかないよ」
「時に主ら、商人の言っていた『マタタビ』や『カリカリ』について詳しいか?」
「詳しいって言うか猫の好物だよね。それにマタタビってハエだか蚊だかが卵を産み付けた果実じゃないと効果ないんじゃなかったっけ?」
「そうなのか?枝みたいなの喜んで齧ってる動画見た事あるけど、あれは違うのか?」
「あー……そう言われれば……。大丈夫かも。僕も粉末状のしか使った事無いから詳しくは知らないんだよね」
「話を聞くに植物と言う事で良いのか?」
「うん。そうだよ」
「分類は分かるか?」
「分類って何科何目ってやつ?たぶんマタタビ科かな?」
「確かマタタビ科マタタビ属のツバキ目だな」
「大輔、詳しすぎない?」
「おっ?大輔、主は詳しいのか?」
「昔、猫動画見てる時に気になって検索した事がある程度だけどな」
「実物を見た事はあるのか?花は咲くのか?実は?葉の形は?」
何故か興奮気味に質問をするヴァン。
「実物はないけど画像なら。花は白い花で、実は卵型?って言うか楕円形の緑色の実、葉っぱは何の変哲もない感じのやつ。あ、何の変哲もないって言うのは紅葉みたいに分かれてないって言うかなんて言うか。説明がムズイ」
「絵で描けるか?いや、描かんでも良いが想像することは可能か?」
「まあ、その程度なら」
「おぉ!それで、カリカリとはどの様な植物なのだ?」
「カリカリは植物じゃないよ。人間が作った猫の食べ物だよ」
「そうであったか。しかし、大輔がマタタビに詳しいとなれば善は急げだ。商人からの用件に主らもついてまいれ」
「ついてまいれって何処に行くの?」
「森に入るのだ。夕食後出立するぞ。野営をする覚悟と準備しておくのだ」
そう言い残すとヴァンは足早に立ち去ってしまったのだった。
詳しい事を聞かされず、取り残された2人は……。
「準備って言われてもな……」
「だよね。野営って言われてもキャンプ道具なんて持ち合わせてないし準備も何もないよね」
そう、何もする事が無いのだった……。
「とりあえず部屋に戻るか。瑞希のバッグの中に何か役に立つものがあるかもしれないし確認しようぜ」
「そうだね」
瑞希の部屋へ帰還した2人。
瑞希はバッグの中身を広げ、大輔と共に役に立ちそうなものを相談する。
「懐中電灯は必須だよね」
「だな。夕食後に出発って言ってたし、明かりは必要だな。後は食べ物か?」
「軍手とかは?」
「あって損はないかもな。ってか、必要なものの選別より、確実に不要なものをここに置いて行った方が早くないか?」
「確かに」
そう言うと2人は明らかに不要なトランプやオセロなどの遊び道具、缶切り、無駄に多い食料の一部などの荷物を次々と除けていく。
最中的に厳選した荷物は半分ほどになった。
「遊び道具はともかく、何か無駄なもの多いな」
「そんな事ないよ」
「いや、缶詰無いのに缶切り使わんやろ」
「冬に缶のコーンスープ飲むとき便利だよ。最後の1粒取れないってモヤモヤする事なくなるしね」
「用途が限定的過ぎんだろ」
「あと、虫よけスプレーもデカい!小さいのあったやろ」
「切れたら命に係わる」
「かかわらん。それに切れる時は切れる。残量把握すれば良いだけの話や」
準備が終わり、瑞希の無駄な荷物に対する反省会が開催されてしまっている。
しかし、瑞希に反省する素振りは全くない。
大輔の指摘に対しあれやこれやと言い訳をしている。
大輔も本気でツッコミを入れている訳ではなく、どちらかと言えば会話を楽しんでいる様に見受けられる。
トントン────。
半分会話を楽しんでいた2人の部屋のドアが唐突に叩かれた。
「はい」
返事をし、ドアを開ける瑞希。
「ここに居られましたか。食事の良い鵜が出来ました。坊ちゃまから『夕食は早めに』との指示がありましたが問題はございませんか?」
「あ、態々ありがとうございます。はい、問題ないです」
2人の会話は聞こえている事は承知しているが、瑞希は大輔に声をかけ、食堂に移動をする。
着席した瑞希と大輔に料理が出される。
「ヴァンくんの分は?」
「今からお運びします」
「一緒に食べる事は出来ませんか?」
「……お伺いしてみます」
老人は暫く考え、瑞希に答えると食堂を後にした。
「何かあったのか?」
瑞希のした質問に疑問を持った大輔が質問をする。
「何もないよ。でも、食事って皆でした方が楽しいでしょ?それだけだよ」
「ふーん……。一人で食べるのが好きな奴だっているだろ?断られたらどうするんだ?」
「その時はその時だよ。本人が嫌って言うなら無理強いはしないし、一緒に食事して良いって言うなら一緒に食事するだけ」
本当に瑞希は何も考えていなく、ヴァンと一緒に食事がしたかっただけのようだ。