異世界には異世界ならではの発達した技術がある第33話
「待たせたな」
エントランスで待機していた2人の下へヴァンも合流する。
ヴァンは「待たせた」と言っているが瑞希と大輔がエントランスに到着してから数分しか経っていない。
ヴァンの手には鍵が握られている。
ヴァンの言っていた準備とは鍵を取りに行く事だったのだろう。
こうして3人は魔鉱石の貯蔵庫へと移動するのであった。
家の裏に回り、外から直接地下室へと続く階段を下りる。
扉の前に立ったヴァンは鍵穴に鍵を差し込み開錠する。
ヴァンが扉を押すと扉がギギギギギギッと軋む音を立てて開かれる。
他の扉とは違い重厚に作られているようだ。扉が軋んでいた原因は古い所為ではなく、扉の重さにあるようだ。
重厚な扉は恐らく、中にある物を保護する為だろう。
ヴァンが完全に扉を開け放つと軋み音に代わり、ヴオンヴオンと何かの装置が起動しているような微かな音が聞こえてきた。
ヴァンの後に続き、瑞希と大輔も歩を進める。
部屋は想像していたよりも広くはない。50~60平米(30畳)程度の広さである。
そして、部屋に入る前に聞こえていた音源の正体である謎の装置が並んでいる。
「あれが魔鉱石か?」
装置の近くに積まれた木箱から姿を覗かせる石の存在に気が付いた大輔は木箱を指さしながらヴァンへの質問をする。
「うむ。そして、この装置がエネルギーを取り出すための炉だ。右から火、水、雷……つまり電気だな」
「魔鉱炉か」
「また勝手に命名して……ヴァンくん、あれは?」
大輔の発言に呆れつつも、ヴァンの説明から漏れた他の炉よりも1回り小さな炉に疑問を持った瑞希が質問をする。
「あれも電気だ。メインの電気用の炉が停止した時、他の炉への鉱石の供給も止まってしまうからな。緊急時用だ。1度動き出してしまえば後は生み出したエネルギーから自給自足できるのだが、いかんせん故障はどうにもならぬ」
「サブバッテリー的な物か」
「うむ。あとは定期メンテナンスを行うだけで鉱石も使用した分は勝手に補給されるし、鉱石の管理も基本的には商人が行う」
「メンテナンスって具体的に何するんだ?」
「使用済み鉱石の処理だな」
「そこは自動化出来ないのか?」
「無論、自動化はしておる。エネルギーを取り終えた鉱石が下から排出されるのだが稀に詰まる事があってな。そんな時は掻き出さねばならんのだ。多少の詰まりならば直ぐにどうこうなる問題ではないのだが、放置し続ければ故障の原因になる。数日に1回見回るだけの作業だな」
「はぇ~。なるほどな。それにしても良く考えられてるんだな」
ヴァンの説明に感心しつつ、溶鉱炉を眺める大輔。
「役に立ったか?」
「全く帰還する為の情報としての役には立たなかったけど、良いものが見れた気がする」
「鉱石触っても良い?火傷したり感電したりする?」
溶鉱炉に興味を持った大輔に対して瑞希は鉱石の方に興味を持ったようだ。
事前に釘を刺されていたので勝手に触る事はせず、ヴァンに確認を取ってからと言う考えに至ったのだろう。
「構わぬ。火傷などはせんが手が汚れるのだけは事前に承知しておくのだぞ」
ヴァンの許可を得、鉱石の1つを手に取る。
大きさは直径5~10cm程度の物が多く、成人男性の手の平に収まる大きさになっている。重さは普段目にする石と大して変わらない。鉱石の色味を確かめる為、電灯の光にかざす。
「少し赤い模様みたいなのがあるね。これが火の鉱石?」
「うむ。その赤みがかっている部分がエネルギーの源泉。使用済みの物の見た目はこの通り只の石に成り代わる」
ヴァンはそう言うと炉の下から排出された鉱石を指さす。
そこには瑞希の持つ鉱石より小さい直径1~2cmの石の小山があった。
先程、大輔に説明していた物だろう。
「取り出すと小さくなるの?」
「多少はなるが、炉の中で粉砕しておる。細かくした方が回収効率の上昇につながるらしい」
「へぇー。それなら初めから細かくしておけば良いのに」
「それはそうだが、空気に触れている部分から微量ながらエネルギーが漏れ出るらしい。よって、運搬時はある程度の大きさを確保する必要があるとの事だ。大きすぎれば扱い難く、小さすぎれば使用前にエネルギー量が減少すると言う事だな」
これ以降も鉱石や炉の説明を聞き続ける瑞希と大輔。
勿論、ヴァンもすべての原理を理解している訳ではないので説明が可能な範囲のみの話だ。
そんな説明の最中……。