1人食事をしている光景を見られるのは気まずいので追い出される第31話
無事に皿洗いを終え、厨房から食堂に戻るタイミングで老人が戻ってきた。
「どうかされましたか?」
「いえ、暇だったのでお皿を洗っていただけです。今、終わりました」
「そうでしたか。わざわざありがとうございます」
「そう言えばヴァンは?」
「坊ちゃまは食堂に居ります。今からお食事をお持ちします」
「食堂?ここじゃないんですか?」
「いえ、ここは私のような下男、下女が食事をする為の場所。今は私1人しか働いてはいませんが、以前は幾人も働く者が居たのです……」
少し物寂し気に過去を振り返る老人。
瑞希と大輔もこの話題を広げて良いのか困惑気味だ。
「じゃあ、早くヴァンくんに料理を持って行ってあげないとね」
「そうですね」
「お手伝いします」
「ありがとうございます」
少し悩んだ結果、まだ出会って間もない相手に踏み入った事を聞くのも失礼だろうと考え、不自然にならない程度に話題を変更する。
老人も瑞希が気を使っている事に気が付いたのだろう。気を取り直したかのようにヴァンの食事の準備に取り掛かる。
準備と言ってもスープを温めなおし、パンなどを皿に盛りつける程度のものだ。
一通り料理の盛り付けが完了すると老人はワゴンに料理を乗せる。
老人は料理を乗せたワゴンを押し、とある部屋の前まで移動をする。
特に理由は無いが、瑞希と大輔も後に続いている。
老人は扉を開け、無駄の無い動作でワゴンとともに入室する。
毎日繰り返している作業で手慣れているのだろう。余計な物音などは立たず、とても静かで無駄の無い動きだ。
そして、何故か瑞希と大輔も老人に続き入室する。
そこには漫画やドラマなどでしか目にした事が無いような長く大きいテーブル。
ヴァンはその一角にポツンと腰かけ待機していた。
「どうした?ぞろぞろと」
「やる事が無いから来ただけだ。気にすんな」
ヴァンと大輔の会話を他所に老人はテーブルに料理を配膳中。
料理の配膳を終えた老人はヴァンの斜め後ろで直立の状態で待機。
ヴァンは料理を口に運ぼうとするも途中で手が止まる。
「ジロジロと見られるのは気になるのだが……」
「気にすんなって」
一緒に食事をしているならいざ知らず、食べている姿を見られるのは気になるのだろう。
ヴァンが瑞希と大輔に提言するものの、大輔は気にしていない様子だ。
単に見る側と見られる側で感覚が違うだけなのかもしれないが、大輔の言動はあまりにも無神経すぎる。
「爺……。摘み出せ」
結果として瑞希と大輔は部屋を追い出される事となってしまった。
「申し訳ありません。そう言う事ですので」
老人に促され、扉の前まで連行される。
「ヴァンくん、後で聞きたい事があるから時間がある時に話聞いて」
────パタン。
2人が廊下に出ると静かに扉は閉められた。
しかし、扉が閉ざされるギリギリのタイミングで最低限伝えておくべき事を思い出し、口にする事は出来た。
元々老人についてきた目的はなかったものの、これでヴァンが暇な時に話を聞く事は出来るだろう。
「さて、また暇になったな」
「そうだね。でも、この後ヴァンくんの予定が空いてるなら食事待ちってだけだよね。20~30分。長くても1時間弱だよね」
「微妙な時間だよな」
一刻も早く話を聞かなければならないと言う訳ではない。
しかし、現在進行形で暇を持て余している2人としては他の選択肢がない状況だ。
少しでも良いので元の世界に帰還する手掛かりが欲しい。
そして、ダラダラと時間が経過するのを待つだけの現状を打破する為、何でも良いから帰還に繋がる行動をしたいと言うのが本音だった。
「うん、微妙だよね。……あっ、少しの時間なら……。大輔はここでちょっと待ってて」
何かを思い出した瑞希は大輔に一言言い残すと小走りで何処かへ行ってしまった。