心霊スポットは夜に行って何ぼ。昼間に行くと只の廃墟巡りになる事の多い登場人物の趣味の話を書いただけの第3話
「ごち。次どうする?」
大輔としては食事中に今後の予定も聞く手筈だったのだが、意外な話題で盛り上ってしまい聞くタイミングを逃していた。
しかし、次の目的地が分からないと車を出す事すら儘ならない。
「うん。一応、心霊スポットを巡りたいんだけど、大丈夫?まだ明るいけど、怖そうな場所は夜に行きたいから恐怖指数の低そうな所から」
「りょうかい。道案内よろ」
ファミレスの出入り口から大輔の車までの身近い距離を移動する中で次の目的地が決定した。
車のドアを開け、モワッとする車内の不快な空気に耐えながらエンジンをかけクーラーを全開にする。
瑞希も助手席に乗り込み、スマホを操作して目的地までの道のりを検索中。
瑞希の案内で到着した一件目の心霊スポット。
少し大きめの洋風の家。門扉は片方が無く、塀はボロボロ。玄関アプローチは雑草が生い茂り、建物も所々蔦に侵食されている。
雰囲気のある建物だ。
「通称『人形館』以前住んでいた住人は人形集めが趣味で、屋内には無数の人形が配置されてたとか何とか。旦那さんは原因不明の死を遂げ、奥さんは夫の死後自殺。2人居た息子は行方不明。噂では未発見の地下通路があって、大量の人形の魂と共に息子2人も地下に幽閉されているとか、人形の人形役として遊ばれてるとかって話」
唐突に始まる瑞希の心霊スポット紹介。
「初っ端からハードなの来たな」
「いや、実際はバブル崩壊で一家離散しただけらしいよ。奥さんがフランス人形を集めるのが趣味だったのは本当みたい。それに、息子2人が行方不明で未発見の地下があるのに息子2人がそこに居るって分かる訳もないから眉唾物の話。未発見なのに地下があるって時点でお察し」
噂だけは一人前。建物の風貌と残された人形から尾鰭がついて針小棒大に語り継がれているだけのようだ。
いや、針小棒大と言うよりは根も葉もない噂話や面白半分の作り話と表現した方が適切かもしれない。
「そう言われるとそうなんだけど……。うーん……。それは心霊スポットの括りで良いのか?」
「肝試し目的で来た人たちが面白半分で人形とか色々置いて行ってるみたいだから中は結構怖いらしいよ。あっ、元住人の人形は無いよ。家財道具はほぼ持って行ったって話だし。まあ、ラップ音は聞けることがあるみたいだから肝試しに来た人が持ち込んだ物に何か憑いてるのかもね」
「ラップ音って言うか只の家鳴りだろ?パキッって聞こえるやつ。で、中には入るのか?」
嬉しそうに話す瑞希と少し呆れ気味な大輔。
瑞希の話を聞き、大輔はこの場所にあまり興味が持てなかったようだ。
瑞希に質問をしているが、大輔としてはさっさと次の場所に移動したいと言う心の声が質問のトーンに表れてしまっている。
「うーん……。勝手に中に入るのは不法侵入だけど、室内が見える場所で記念に1枚撮りたいよね」
口では不法侵入と言いつつ、何の躊躇いもなく歩を進める瑞希。
大輔も瑞希の後に続く。
2人は敷地内に入り、建物に近づき、建物の周りを1周する。
「裏手のバルコニーの場所が一番良さそうだね。多分肝試しする人もあそこから侵入するっぽいしデッキ部分で撮ろうよ」
建物の外周を観察し、瑞希が指摘した場所に戻る。
ウッドデッキは朽ち果て無残な姿を晒している。
恐らく肝試しに来た連中が設置したであろう鉄板やレンガ、石などで作られた不安定な足場を乗り越え、侵入口になっていると思しき大きな窓枠しか残っていない窓の前に2人並ぶ。
瑞希はバッグから取り出した自撮り棒を展開し、スマホをセットする。
「はいチーズ」
上機嫌な様子で掛け声を掛けるとともにピースサインをしてシャッターを切る。
撮った画像を「うんうん」と何かを納得しているかのような声を出しながら確認作業をしている。
瑞希とても満足気な様子で大輔に確認作業の完了した画像を見せつけるように差し出してきた。
「良い画像だけど、やっぱり昼だと雰囲気出ないよな」
「そうだね。でも、ここは来れただけでOKだからね。次行こう次」
現場に来られただけで満足だと言う瑞希。
その発言は嘘ではないようだ。
それを証するように、瑞希は今にも鼻歌を歌いそうなほど軽い足取りで車の方へと引き返している。
大輔は車に乗り込み、エンジンをかける。
助手席の瑞希はスマホを操作している。
「次は?」
スマホの画面を確認しながら瑞希は大輔に指示を出す。
瑞希の案内で車を走らせること約20分────。
山道の入り口に到着。
瑞希からの指示がないのでそのまま進む。
暫くすると1つの看板が目に留まる。
そこには【これより先、私有地につき立ち入り禁止】と書かれている。
「あ、ここ。ストップストップ。絶対に看板より先に行かないでね」
瑞希に指示に従い、路肩に車を寄せて止める。
「ここで良いか?」
「うん。ここは降りなくても良いよ。逆に降りると危ないからね」
「……?」
瑞希の意味深長な言葉に疑問符を浮かべながら大輔は瑞希に質問をする。
「ここはどんなスポットなんだ?」
「あの看板より先に進むと怖いお兄さんたちに囲まれて不法侵入の事を咎められて金品の要求されるスポット」
「人怖話かよ!!」
瑞希が看板より先に絶対進まないように注意した事や下車しない事を理解した大輔。
「まぁまぁ、ここは半分冗談。本当は近くに心霊スポットがあるから道を間違えた雰囲気を醸し出しながらUターンしてね。山道入口の信号まで戻ってね」
大輔は肩をガックリと落とし、少し呆れた様子で車をUターンさせる。
その後、廃ホテルなど4つの心霊スポットを巡り、現在の時刻は16時半を少し過ぎた時間。
瑞希に次の行き先を聞くと「意外と早く回れたからちょっと休憩」との事。
何でも今から行きたい場所は恐怖指数が高く、もう少し日が暮れてから行きたい場所なのだとか。
とは言え、夕食を食べるには少し早い時間。
休憩と言われても困ると言うのが本音だろう。
「飯には早い時間だけど、何か無いのか?」
路上に停止させた車の中、時間を潰す何かを模索するように会話をする。
「んー……。あっ!そうだ。近くに大輔が好きそうなスポットがあるよ」
「どんな場所?」
「ひみつ~。ついてからのお楽しみ」
「なんだそりゃ。まあ、いいや。車出すから案内して」
「車より歩いて行く方がオススメかな。道も狭いって噂だし、此処からなら歩いて行ける距離だよ」
「ふーん……。じゃあ────」
大輔は近くの30分300円の時間貸駐車場に車を停車させた。
車から降りた2人は次なる心霊スポットに歩き出す。