助けが必要とは言え、見ず知らずのヴァンパイアを信用しても良いものなのか考えたい第27話
「じゃあ、俺たちの世界に帰れる方法って知っていれば教えてほしい」
「……」
少し悩み、黙る少年。
何か考え事をしているようだ。
「……爺、何か知っておるか?」
「申し訳ございません。何も存じ上げません」
どうやら少年にも老人にも心当たりがないようだ。
「すまぬな。力になれなくて。他に何かないのか?」
「そう言えば、以前も人間に会った事があるような話を散見したが、他の方は何時、何処で出会って、何処へ行ったのか。分かる範囲で良いから教えてほしい」
「何時……。時期は決まっておらぬが平均して7~8年に1組程度の人間が訪問する。人数は1人の時もあれば2人以上の複数人の時もある。多いときは5、6人の時もあったな。ここに何泊かする者も居ればすぐに立ち去るものも居る。最終的には来た道を引き返すか森を抜けるかの判断をしておるな」
「7~8年……?ヴァンくんって何歳?」
少年の答えに質問内容とは別の部分に疑問を持つ瑞希。
少年の言い方から考えると複数組の人間かここに来ている事になる。
5組程度の人間が来たと考えたとしても単純計算で35年~40年。親などから伝えられた話ではなく、自身で数えたとすれば物心がついた後の事だろう。
そうなると4~5歳からと考えても少年の年齢は39歳~45歳と言う計算になる。
少年の容姿は小学校高学年程度。中学生と言われても疑いたくなる見た目なのに40前後となれば絶対に否定したくなる。
「ヴァン……くん?それは余の名称との認識で良いのか?」
「うん。ダメ?ドゥカトリくんの方が良い?」
「何でも良いと言ったものの、何の前置きもなく唐突に呼ばれ、少し困惑しただけで只の確認作業だ。気にするでないぞ。ヴァンでもドゥカトリでも好きに呼ぶが良い。まあ、そんな事はどうでも良い。年齢の話だったな。余は齢684だが何か?」
「ろっぴゃk……」
ヴァンの返答に絶句する瑞希。
「やっぱりヴァンパイアだから不老不死なのか?」
「不老不死?な訳あるまい。不老なら赤ん坊のままではないのか?現に余は今でもしっかり身長も伸びておる……と思うし、普通に死はある」
どうやら身長の事は少し気にしているようだ。
「銀の弾丸で心臓を打ち抜かれるとか日光に焼かれるとかニンニクとか?」
「ここに来る日本人もそのような事をよう言うておったな。何故『銀』なのかは知らぬが銀に限らず普通に心臓や頭を打ち抜かれれば死ぬぞ?お主ら人間は銀でなければ死なぬのか?太陽云々は夜に行動しておるだけで特に問題はない。ニンニクとやらは現物を見た事がないので何とも言えんな」
想像上のヴァンパイアの違いに口を開け何も言えない瑞希。
大輔も自分の知っている知識を全否定され処理出来ていないのか口をパクパクさせながらフリーズしている。
「どうした?マーマンみたいに口をパクパクさせて。酸欠か?」
「ちゃうわ!色々と衝撃的過ぎて何を話して良いか分からんかっただけや!」
「少しは冷静になるべきではないか?」
「誰の所為や。……まあ、ええわ。話は少し戻るんだけど、ここに泊まる事って出来るのか?昔に尋ねた人を泊めたみたいな話があったけど」
「うむ。希望するなら宿泊させてやらんでもないぞ」
「血か?」
「話が早くて助かる」
「分かった。出そう……瑞希が」
「やだよ!もう痛いの嫌!漫画とかだと血判とかで指先をサクッと切ったり、軽く噛み切ったりするけど、アレ異常だからね!」
「嗜好品は偶に楽しむのが良い。血ではなく爺の手伝いで雑用しても良いぞ」
「墓守の仕事?ゾンビ埋めるの?」
「爺の仕事量次第だな。基本的には執事として余の身の回りの世話だな。何故か今、爺は腰を痛めておる。人手は多くて困らん状況だ」
少年は原因である瑞希を見ながら白々しく発言する。
「泊まれる日数に上限はあるのか?」
無駄に掘り返しても厄介ごとが増えそうな予感しかしなかった大輔は極力少年の発言を無視しながら話を続ける。
「それは無いが、大抵の人間は何もない生活に飽きるらしく数日で出て行く」
「まあ、それもあると思うけどホームシックが原因だろ。ホームシックって表現が正しいかは疑問だけど、元の世界に帰りたいんだよ。みんな帰る為に出て行くんだ。勿論、俺たちもな」
「そうか……。誘掖すると取り決めていたが、結果として血を提出させただけになっておる。瑞希と大輔も宿泊するなら追加で何かをさせるつもりはない。客人として迎え入れよう。遠慮するでないぞ」
「ありがとう。昨日はボロ列車の中で仮眠しただけだから凄く助かる」
素直に喜ぶ瑞希。
その後、老人に連れられ部屋へと案内される瑞希と大輔。
部屋に入り、ベッドに腰かけ落ち着く瑞希。
だが、腰かけて間もなく部屋のドアがノックされる。
「はーい」
1人暮らしの癖が抜けておらず、ドアまで数歩の距離だが声を出して対応する。
「瑞希、ちょっといいか?」
声の主は大輔。
今しがた別れたばかりだが、何やら話があるらしい。
「どうしたの?」
「中で話をしたい。中に入っても大丈夫か?」
大輔はあたりをキョロキョロと見渡すと室内へ入って話したいと言い出した。
恐らく、ヴァンと老人には聞かれたくない話なのだろう。
「良いよ」
瑞希としても断る理由はない。
ドア付近で立ち話をするか部屋の中でゆっくり話をするかの違いだけだ。
瑞希はドアを開け大輔を招き入れる。
「で、どうしたの?」
自分はベッドに腰かけ、大輔が椅子に座るのを確認して話を切り出す。
「いや……ちょっと……」
どうにも大輔の歯切れが悪い。
「ヴァンくんの事?」
部屋に入る前の大輔の行動を見ての推測。
今の状況で2人きりになれる状態でとなると他の事は考え難い。
「まあ、その……何だ。ここまでしてもらっておいて、こう言う事を言うのもアレなんだけど、信用して良いのかなって思ってな」
「ヴァンくんたちの事だよね?」
「まあ、そうだな。親切にしてもらってるのは理解出来るんだが完全に信用して良いのかなって。急に襲われたりしないかって少し心配でな」
「んー……大丈夫じゃないかな?」
「何でそう思うんだ?」
「何でって言われても困るんだけど、僕たちってここに来てから、かなり油断してるって言うかある程度安心しきって隙が多かったと思うんだよね。ヴァンくん、ナイフ持ってたし大輔が心配してるような状況に陥るとしたら既に起きてるって言うか。ヴァンくんとお爺さんと僕たちで2対2。お爺さんが腰を悪くしてるとしても、僕を蹴る前はピンピンしてたんでしょ?その気ならその時に十分やれてたんじゃないかなって思うだけだよ」
「まあ、それは分からんでもないけど、安全策を取ってる可能性も。確実に仕留める為に寝込みを襲う的な?」
逃げ回っていたヴァンはいざ知らず、瑞希を蹴り飛ばした老人の身の熟しを思い返すと瑞希の言っている事も納得は出来る。
しかし、納得が出来るからと言って安心出来るかと問われれば否と言わざるを得ない。
「そんなに心配なら一緒に寝る?」
「ばっ!何言ってんだ、ベッドも狭いし……、俺、そんな趣味ねーし!」
「……?一緒の部屋でって話だよ?」
瑞希の指摘で自分の考えの過ちに気が付き顔を真っ赤にする大輔。
瑞希も大輔を貶める為に誤解を生むような発言をした訳ではない。それを理解しているからこそ余計に恥ずかしい。
「ま、まあ?瑞希がそこまで言うなら大丈夫かな?じゃあ、俺、部屋に戻るから。一応、明日起きたら生存確認な。早く起きた方が相手の部屋を訪ねる事!」
恥ずかしさのあまりさっさと話しを切り上げ部屋へと戻ろうとする大輔。
動揺しすぎて若干声が上擦っている。
「了解」
こうしてヴァンの家で一夜を過ごすことになった瑞希と大輔であった────。
次回投稿は2024年4月26日(予定)です。