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やはり主人公は選ばれし血筋d……いえ、ただの一般人です。な第26話

「いや、O型だなと思ってな」

少年の返答に肩透かしをくらう。

「坊ちゃまの一番好きな血液型ですな」

「うむ。そっちのツッコミ担当はA型だったな」

「誰がツッコミ担当だ!!ってか味でわかるのか?」

「簡潔に説明するなら、A型は味が濃厚、O型は癖が無く口当たりが良い。ちなみにB型は味に深みがあり、AB型は特に特徴のない万人受けする味だな。と言う事で早くO型の血液を提供するのだ」

血液型の簡単な味の違いを説明し、瑞希に再度血の要求をする少年。

「へー。で、爺さんは何型の血液が好きなんだ?」

会話が終わるかと思ったが、大輔が老人に対して話を振る。

「私奴は坊ちゃま達とは違う種族です故、人間の血は好みませぬ」

「お爺さんは何なの?」

「強いて言うなら外の連中と同類に近いものとだけ」

「外……?ゾンビ?」

「爺は墓守の家系。代々、余の家系の給仕も兼任しておる」

「それにしては墓は荒れすぎじゃないか?」

「最近は1日の活動を終えた者が寝た後に埋める作業で精一杯。人手が足りなくて中々手入れが行き届かず、お恥ずかしい限りです」

「大変なら埋めなくても良いんじゃない?」

「明るいと眠りにくいと思いますので。あとは気分の問題でございます」

「ふーん。そう言うものなのかな?……じゃあ、そう言う事で」

「待て待て待て。待つのだ。血がまだだ」

雑談に乗じて自傷行為からの逃亡を試みた瑞希だったが上手くはいかなかった。

これ以上、引き延ばしても恐怖心が増すばかりで良い事がないと半ば諦め気味に再度ナイフを指先に宛がう。

「……痛っ」

先程よりも深く切る事を意識しながらナイフを引いた瑞希。

覚悟はしていたものの、痛みはある。

ついつい痛みを声に出してしまったが、滞りなく血が滴り落ちる程度には傷付ける事に成功した。

「よしよし、良い感じだ」

少年が満面の笑みで小皿に溜まる血を眺めている。


「……止まらないんだけど」

暫く時間が経過し、約束の量は血を流している。

しかし、一向に血が止まる気配を見せない。

予想以上に深く傷をつけてしまったのだろう。

「おお、それは大変だー」

少年が心配する素振りを見せるものの、その表情と発言内容は乖離している。

そして、少年の発言も棒読みで心配している様子はない。

いや寧ろ、規定していた量よりも多くの血を見て嬉しそうにしている。

「ちょっ!大輔、止血して。バッグに絆創膏とかあるから!早く止めて!ヤバイ!ヤバイって!」

「何を勿体ない事を言っておる。自然治癒に任せるのだ」

焦る瑞希とは対照的に少年の口からついつい本音が漏れる。

助けを求められた大輔も瑞希の傷の様子を見て瑞希が大げさすぎると感じている。

それこそ唾をつけておけば治るだろうと感じる程度の傷だ。

しかし、処置はするべきだろうとは思い、瑞希のバッグから救急セットを探す。


バッグから救急セットを見つけ瑞希の傷の手当をしようと改めて状況を確認するが、指先を少し深く切っただけなのだが端から見ると放置すれば出血死するのではないかと心配するほど騒ぎ立てる瑞希。

その騒ぎをものともせず血を見て恍惚な表情を浮かべる少年。

そしてそんな2人を静かに傍観する老人。

大輔は心の中で『何だ、このカオスな状況は……』と呆れ返る。

全ての元凶は瑞希の出血にあるのだろう。

出血を止めれば瑞希も落ち着く。血が止まれば少年も現実に戻る……。いや、問題は瑞希だけだ。

少年が恍惚な表情を浮かべていても何の問題もない。

少しの傷で大騒ぎしている瑞希だけが問題だ。

そう思った大輔は手早く治療を開始。

血を拭い、消毒をして絆創膏を貼るだけの作業。

ものの十数秒で処置を終える。

「ほら、終わったぞ。瑞希、落ち着け」

「余計な事しおって……」

「どっちにしろ直ぐに止まるから量はあまり変わらんやろ」

少し不貞腐れ気味に愚痴を言う少年。

大輔の冷静なツッコミを無視し、採取した血に指先を軽く浸しペロリと一舐めする。

「やはり、新鮮な血は一味違うな」

「坊ちゃま、はしたないですぞ」

「かたい事を言うでない。久しぶりの新鮮な血。我慢出来るはずがなかろう」

「しかしですね……」

「あー、分かった。分かった。残りは後でゆっくりいただくとしよう。……で、瑞希と大輔と言ったな。血盟通り力添えしよう。……して、具体的に余は何をすれば良いのだ?まあ、立ち話も何だ。遠慮せず座るが良い」

少年が座ったのを確認し、瑞希と大輔は近くにある椅子に腰を掛ける。

老人は少年の背後に立ったままである。

「何をって言われても……なあ」

少年の質問になんと返答すれば良いのか分からず瑞希に振る大輔。

振られた瑞希も何から切り出せばよいのか悩んでしまう。

「うーん……。そもそも、ここって何処ですか?」

「何処……?」

「代々ドゥカトリ家が統治するドゥカトリ領でございます」

返答に詰まる少年に代わり老人が横から助け舟を出す。

「大輔、聞いた事ある?」

「聞いた事も何も日本じゃない?日本だったら誰かが統治する領地なんて聞いた事無いしな……。宗教施設ではないですよね?」

然様さようでございます」

「だよなー……。薄々感じてはいたけど、やっぱり異世界だよなー」

「うんうん」

山の中腹の駅からここまでの道のりで起きた様々な異変や出会った生き物。思い返しても現実では見覚えのないものばかり。

今更『異世界です』と言われたところで『知っていました』と言える程度には感付いていた上に、その事実を受け入れているので2人とも動じる事はなかった。



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