適応能力や順応力が高過ぎるのではないかと思う第21話
「ぎゃーーー!!!」
「瑞希!大丈夫か!」
ゾンビは両手を耳に当て不快そうな目を瑞希に向けている。
ゾンビも声は出していたが「ア゛――」や「ヴーー」と言ったガラガラの濁った声で呻き声とも唸り声ともとれる音を繰り返し発しているだけで瑞希には何を言っているのかは理解出来なかった。
ゾンビは耳を塞ぎ、声を上げるのみ。その後も襲い掛かってくる様子はない。
「あー――――……あ?え?あ、あれ?」
「ア゛――」
困惑する瑞希だが、ゾンビは相変わらず視線で『五月蠅い』と訴えるのみで襲い掛かる様子はない。
「あ、すみません」
何となくの雰囲気で謝罪をする瑞希。
瑞希が謝罪するとゾンビは両手を耳から離し、地面に両手をつくとゆっくりと地面から這い出ようとしている。
瑞希がゾンビに咎められた気がした。そして、襲い掛かってくる気配は全くない。
「無事か?」
平和そうな雰囲気を察した大輔が小走りで瑞希の下へ走り寄ってきた。
「うん。大丈夫」
瑞希は短く返事をすると立ち上がり軽く叩き汚れを落とす。
「どっからどう見てもゾンビだよな?」
「だよね」
困惑し、立ち尽くす2人を余所に地面から完全に這い出たゾンビたちは各々好き勝手に行動を開始している。
瑞希と大輔には全く興味が無いらしく、近づく素振りすら見せない。
「本当に襲ってこないみたいだな。……そう言えば、さっき少し先に進んだ時に建物っぽいものが見えたんだけど。どうする?先を急ぐか?」
どうやら奥に逃げだした時に大輔が建造物を発見していたようだった。
「そうだね。とりあえず、その建物に行ってみよう」
ゾンビたちの様子を暫くポカーンと呆けながら見ていた2人だが、自分たちに興味を示さないと知り、安全確保が完了したと考え次の話題に移る。
ゾンビは自分たちに害のない存在だと考えた2人はゾンビを無視し、奥へと進む。
「そういえば、ゾンビって生ける屍って事だよね?生けるって事は生きてるの?屍って事は死んでるの?」
「知らんがな。そこにモノホンのゾンビ様が居るのだから聞いてみれば良いんじゃないか?『あのー、ゾンビさんは生きてるんですか?それとも死んでるんですか?』って。ほら聞いて来いよ」
「えー嫌だよ」
勝手気ままに行動をしているゾンビたちを横目に見ながら歩きつつ、ゾンビネタの雑談をする2人。
明らかに異常な状況だが、慣れとは恐ろしいもので、無害と知るや否や平和な雰囲気すら醸し出されている。
そんな中、お墓の中を200m~300mほど進んだ頃だろう。人の背丈よりも高いお洒落なフェンスに囲まれた洋館が姿を現した。
フェンスの側まで近づき敷地内の様子を確認する。
今まで通ってきた荒れた墓とは違い、しっかりと手入れされている様子が見て取れる。
そして、数十メートル先には門扉も確認出来た。
明らかに人の手が加わっている広い庭を確認していた2人は相談するまでもなく助けを求める為、訪問する事で意見が一致した。
門扉の所まで来てみたものの、インターホンなどの家人を呼び出すものが見当たらなかった。
心霊スポットでは不法侵入を繰り返していた2人ではあったが、流石に他人が住んでいるであろう敷地内への不法侵入は憚られた。
数分、中に入るべきか否かの問答を繰り返した結果、緊急事態なので致し方なしと言う結論に至る。
門扉を潜り玄関までの道すがら菜園のようなものが視界に入った。
瑞希が何かに気が付き、育てられている野菜に近づく。
「大輔、見て。すごいよコレ」
大輔としては一刻も早く家人と話をする為、余計な寄り道をせずに先を急ぎたいのだが瑞希を1人にするのは色々と心配になる。
色々とは得体の知れない場所に瑞希を1人にする事で瑞希の身に危険が及ぶ可能性がある事。
そして、瑞希を1人にして勝手な行動を取られ、家人に怒られる可能性がある事など。
瑞希の身の心配のみならず、瑞希の行動自体も心配要因なのだ。
よって、瑞希を連れ戻す為、大輔は瑞希の下へと歩み寄る。
「ほら、凄いよコレ。トマトかな?どうやってんだろうね。リンゴだとシールはって文字とか絵柄出す方法あるよね。寿とか年末のスーパーで見るよね」
そう言う瑞希の視線の先にはハロウィンのカボチャ。ジャック・オー・ランタンの様に顔の模様がついたトマトらしき果実が実っていた。
「うぉ!本当にスゲーな。しかも全部」
瑞希に言われ、他の果実も見える範囲で確認した所、全てが同じような模様になっている。
その光景にある種の感動すら覚える。
「Ești din nou aici.Întotdeauna ți-am spus să nu intri fără permisiune」
声を掛けられるまで全く気配を感じる事はなく、物音1つ捉える事は出来なかった。
唐突に背後から声を掛けられ、振り返る瑞希と大輔。
そこには……。