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因果応報?恩には恩で。とは言え施した本人は恩と思っていない事も多いと思う第19話

その後、無事に下山をし終え麓に到着。

短い林を抜けると風景は一変した。視界の先に緑は少なくなり荒野が延々と続いている。

目指すべき方向の地平線……。天の青色と地の茶色の境、微かにだが緑色が確認出来た。

とは言え、僅かに見える緑色の線も幅が広く、不自然に切り開かれていたように見えた場所の正確な位置は把握できない。

瑞希と大輔は後ろを振り返り、駅があった場所の確認をするとおおよその方向の当たりを付ける。

「あっちだね」

「だな。それにしても遠いな。日陰とかの適当に休める場所もあるか分からないし、少し休んでから行こうぜ」

大輔は木陰を指し、提案をする。

瑞希も大輔の意見に異論はなく、休憩をした後で出発する事が決まった。


「それにしても何か飲み物欲しいな。半日近く何も飲まない上に山登りは流石にキツイ」

のぼってないけどね。只の山歩き。山登りって言うか山下やまくだりだね。それに、朝ご飯食べたでしょ。ゼリータイプの」

「あれは食事。別物。瑞希は平気なのか?」

「平気ではないけど3日くらいなら飲まず食わずでも死なないって言うしね」

「いや、それは運動する事を計算に入れないでの話だし、季節も関係あるだろ。今、夏だぞ。水分補給しないと普通に死ぬだろ」

「そうなの?」

休憩がてら、そんな話を続けていると瑞希の背後の茂みからカサカサと物音がした。

顔を見合わせる瑞希と大輔。

……が、物の十数秒で物音はしなくなる。

2人は人がいるのに気が付いて逃げて行った小動物だろう。と結論付けた。

しかし、数分後、再び同じ茂みから先程と同じような音がするも、また十数秒で物音は消える。

そんな事が繰り返される事、数回……。

物音が消えたのを確認した2人は顔を見合わせコクリと頷く。

目配せではあったものの2人の意見は一致していたようだ。

2人は正体を確かめるべく、物音を立てないようにゆっくりと四つん這いの状態で茂みへと近づく。

音の正体を確かめる為、極力音を出さないように草むらを掻き分る。

茂みの先には先程助けた山彦と思しき謎の生物の姿があった。

先程の動物と見分けがついたのは瑞希が手当てした時の包帯が見えたからだ。

「あれ?さっきの子?」

突然の聞こえた瑞希の声にビクッと体を反応させ瑞希の方を確認する。

足元には見た事の無い果物が幾つか落ちている。

瑞希の姿を確認した謎の生物はその中の1つを手に取ると瑞希の方へ差し出してきた。

「くれるのー?」

「くれるのー?」

瑞希の真似はしたものの、果物を差し出した状態で動かない様子から意図を汲み取り差し出された果物を受け取る。

「ありがとー」

「ありがとー」

瑞希が果物を受け取ると、足元の果物を1つ1つ丁寧に瑞希へと手渡す。

全ての果物を瑞希が受け取ると、何処となく満足気な表情をしているようにも見える。

瑞希も雰囲気を読み取ったのだろう。頭を撫で再度お礼を言う。

謎の生物も瑞希の手に頭を押し付けるように擦りつけ、喜びを表現し返している。


数秒間撫でられ満足したのか、謎の生物は瑞希に背を向けると山中へと走り去っていった。


「どうすんだソレ?」

大輔は瑞希が貰った果物を指差しながら問い掛ける。

「食べる?」

果物を1つ大輔に差し出しながら返答をする。

「うーん。美味しそうではあるんだが……」

大輔は瑞希に手渡された果物を観察。

柿や林檎、桃、トマトとも違う初めて見る果物。

形状から恐らくは木に生っていた事は間違いないだろう。

そして感触から皮は薄い事が推測出来る。

大輔が果物を観察している最中、瑞希は別の果物を手に取り服の裾で軽く拭いた後、齧り付こうとしている。

「ちょちょちょちょちょちょ!何してん!?」

「え?」

瑞希の行動を咄嗟に止めようとする大輔と大輔に止められ困惑する瑞希。

どうやら瑞希と大輔では考えの前提が違っていたようだ。

瑞希は『食べて処理する?』の意で「食べる?」と返答。

大輔は瑞希の「食べる?」を『食べても大丈夫な物のか?』と質問されたのだと思っていた。

「食べて大丈夫なのか?」

「え?食べられないの?」

「食べられるのか?それに食べられる食べられない以前に黄泉竈食ひ(よもつへぐい)……。黄泉の国の食べ物を口にすると現世うつしよに帰れなくなるって言うだろ」

「それって確か竈で煮炊きした食べ物って話しでしょ?コレは果物から煮炊きしてないよ。それに僕たち死んでないでしょ?ここは黄泉の国じゃないって。だって死んでたら死ぬって概念無くなるでしょ……たぶん。だから大丈夫、大丈夫」

「そういう話じゃなくて知らない場所の得体のしれない物を口にするのはどうなのかって話……。いや、知ってる場所でも知らない物を口にするのは毒とかあるかもしれないし……」

楽観的な考えをする瑞希と訝しげな表情を浮かべながら果物を見つめる大輔。

大輔が反論らしい反論を出来なかった事で瑞希は大輔を論破出来たと考えた。

瑞希は大輔の心配を余所に果物に齧り付いた。

「おいしー」

瑞希は大輔の『マジで食いやがった……』と言う信じられない物を見るような視線に構う事なく果物を食べ進める。

種を上手く吐き出し、へたの部分以外を完食。

残った蔕を足元に捨て2つ目に手を伸ばす。

「まだ食う気かよ」

「だって、全部持って行くのは重いしバッグに入れても潰れそうだしね。少しは量を減らさないと」

呆れて声も出せずに瑞希の動向を観察していた大輔だったが、あまりにも美味しそうに食べる瑞希の姿を見てとうとう我慢の限界がきた。

瑞希に渡されていた果物を軽く拭き、齧り付いた。

「本当だ。美味い」

味はほんのりと甘さが口中に広がり、口当たりも良い。皮も硬すぎず、食感の邪魔になるものではない。寧ろ程良い硬さがアクセントとなり単調になりがちな食感に変化をもたらし飽きが来ない。皮があった方が美味いまである。

そして何より嬉しいのが水分量だ。

純粋な水分補給としては甘すぎると感じるが、何も口にするものが無い今の状況では贅沢は言ってられない。

山歩きで疲れ、乾いた大輔の全身に染みわたる。

ペロリと果物を1つ胃袋に収める。

「もう1個くれ」

「さっきまで文句言ってたくせに……」

「ええやん、ええやん。細かい事は無しにしてな瑞希ちゃーん」

「うゎ……気持ち悪っ。本当に調子の良い事ばっかり言うんだから」

瑞希は文句を言いつつも素直に果物を渡す。

「サンキュー。で、何個くらい持って行くつもりなんだ?」

「問題はそこだよね。バッグに空きがあればね。全部持って行きたいのは山々だけど、大輔は手荷物あっても大丈夫?」

「まあ、全部抱えながら歩けって話じゃないなら」

「じゃあ……」

そう言うと瑞希はバッグを漁り始め、中から折り畳まれたビニール袋を取り出し、大輔に手渡しながら続ける。

「これに入る範囲で大輔が持って行っても良いと思えるくらい」

「了解」

大輔は瑞希から受け取ったビニール袋を広げ瑞希の抱えている果物を詰め始める。

「これくらいだな」

「これくらいだなって全部じゃん」

「だな。せっかく山彦(仮)(かっこかり)が恩返しの為に一生懸命集めた物を無下むげにする訳にはいかないだろ。捨てるなんてのは以ての外だ。それに味も申し分なかったしな」

ビニール袋に詰め切る事が出来たのもあり、結局は全て持って行く判断をしたようだ。

恐らく、前半部分の『恩返し』云々は建前で、『美味しかったから』が本音なのだろう。

不意の事態もあり、当初予定していた以上に時間は経過してしまった。

しかし、そのおかげで十分な休息に加え予定外の水分補給が出来た。

疲弊した体力や乾きなど諸々を解消出来たので意気揚々と再出発する事にした。



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