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早期下山をした方が良いとは言われたものの一晩明かしてやっと下山する事にした第17話

粗方小玉鼠の肉片を落とし終えた瑞希も列車に乗り込む。

外観のみならず、内装も酷い荒れようだ。

壁の装飾は剥がれ、床の一部に穴が開いている。

座席もボロボロで空気は埃っぽい。

「床が腐ってる部分もあるから歩くとき気を付けた方が良いぞ」

瑞希が入ってきたのを確認した大輔が忠告をしてきた。

恐らく実際に踏み抜いたかそれに近い状況に陥ったのだろう。

瑞希は大輔の忠告を聞き入れ、1歩1歩慎重に確かめながら体重を預けて歩を進める。

大輔の側の席の足場も入念に確かめ着席する。

「何でこんな足場が悪いのに中の方に来たの?」

瑞希の素朴な疑問。

休むだけなら出入り口付近の席でも良かっただろうと言いたいのだろう。

「だって、ドア付近だとネズミが来た時どうするんだ?それに窓が割れてない場所がこの辺りしか無かったからな。なるべく安全そうな場所に来た以外の意味は無いぞ」

どうやら病院での駐車の件とは違い、今回はしっかりとした理由があるようだ。

「なるほどね」

瑞希は鼠が列車内に侵入して来たら自分たちより簡単にここまで到着するのではないか?と言う疑問を持ったが、追及する理由も無かったので納得したフリをする。

「それはそうと、休憩はどうする?交代で寝る?ある程度の危険を承知で2人同時に休む?」

「さっきみたいなネズミが出てきても見分けが付かないし、僕が起きてたとしても何の対応も取れないよ。それに、普通なら夜が明ける時間だけど、外は真っ暗で何時間休めるか不明だから今は気にせず休むのが得策だと思うよ」

大輔が起きている分には有意義だが、自分が起きていても無意味だと主張する瑞希。

大輔も悩んだ挙句、瑞希と同じ意見に行き着く。

大輔自身何か事が起きた時に対応出来るのか?と問われれば返答に困るだろう。

それに状況が状況だけに深く眠れる気もしない。ある程度の物音がすれば目覚めるだろうと結論付けた。

「それもそうだな。じゃあ、明るくなるまで可能な限り仮眠する事にしよう」

「はい、おやすみー」

瑞希は大輔に挨拶を返し、懐中電灯の灯りを消す。

大輔も瑞希に倣いスマホのライトを消す。

辺りは暗くなり、光源は駅のホームの切れかけの蛍光灯の薄明かりのみとなった。

豆球よりは明るいが眠るのには申し分のない暗さ。2人とも座席に座ったまま目を閉じる。

虫の声も風の音も聞こえない。静寂が辺りを包む。

昨日の昼から心霊スポット巡りなどをしていたので疲れていたのだろう。暫くすると大輔の横から小さな寝息が聞こえてきた。

どうやら瑞希は眠りについたようだ。

静かすぎた空間に唯一聞こえる音。多少なりとも音がある事に不思議と安心感を覚える。

他にする事もないので大輔はその音に耳を傾ける。

瑞希の寝息に聞き耳を立てているうちに眠りへと落ちる大輔であった────。


翌朝(?)────。

「ふあ~~」

瑞希が伸びをしながら目を醒ます。

窓の外は白み始めていた。

「起きた?おはよ」

どうやら大輔は瑞希よりも先に目が覚めていたようだ。

夜が明け始めている以外の変化は無いように思える。

心配していたような事は起こらず杞憂に終わったらしい。

安心感と共に今までの出来事が現実のものだと実感させられる。

瑞希は外に出ると凝り固まった身体をほぐすように簡単なストレッチをする。

身体の凝りが取れた瑞希は最後に伸びとゆっくりの深呼吸をした後、周囲を見渡し地形を確認する。

大輔が小玉鼠の出現から推測した通り、山中に居るらしい。

現在地は山の中腹辺り。山自体の標高はそこまで高くはなく、現在地から麓と頂上の双方が確認出来る。

木々も程よく辺りを見渡せる多さなので一方向に進み続ければ難なく下山は出来そうだ。

そんな事を考えていると大輔も降車してきた。

「何かあったか?」

「ざっと見た感じだと普通に下山は出来そうな感じかな」

「そっか……。せっかく高い位置に居るんだし、何か目標になりそうな場所もついでに探しておこうぜ。下山してから何処に向かえば良いのか考えるより見通しの良い今のうちに見つけた方が得策だろ」

「小玉鼠と遭遇したら直ぐに下山するのが鉄則じゃないの?」

「そうは言っても既に一夜明かしてるんだよな。まあ、ここにいても何もないし、極力急ぐ方向で」

「それもそっか」

「そうそう。だから何か人が居そうな場所とか目印になりそうなものとか探す方が良いって事。……で、双眼鏡とかない?」

「流石に双眼鏡は無いかな」

「そうだよな。今はまだ薄暗いから遠くまで見通せないと思うし、もう少し明るくなってから本格的に探索だな」

そうは言いつつ見える範囲での探索を始める大輔。

それを見習い瑞希も近場の探索をする。


特に何の成果もないまま時間は進み、周囲が完全に明るくなった頃、瑞希が何かを発見した。

「大輔、アレって何かな?」

自分たちの位置から遠く離れた地平線付近。山を下り、平地を進み、森を抜けたその先……いや、森の中。一部不自然に色の違う空間が存在している。

大輔も瑞希の指し示す方向を凝視する。

目を細めてみたり、手を筒状に丸めて簡易的な望遠鏡を作ってみたりと試行錯誤をするものの、不自然に木々が切り開かれ、地面が剥き出しになっているような空間を確認する以上の成果は得られない。

「何だろうな」

「何か建物?の様な、屋根っぽいものが見えるような見えないような。うーん……遠すぎて良く見えないなー……」

「他にめぼしい場所もないし、取り敢えず行ってみようぜ。建物があれば人が住んでる可能性もあるし、違ったら違ったで歩きながら他の場所を見つけるしかないしな」

「だね。すぐに出発する?食事とかしてから?」

「食事って言ってもな……」

大輔は昨日瑞希に手渡された携行食を取り出し訝し気な表情を見せる。

瑞希にも大輔の言いたい事は理解出来たようだ。

「ゼリータイプとか羊羹もあるよ?」

大輔の意を汲み別の食事を提案する。

「じゃあ、ゼリータイプ貰っても良い?」

「ちょっと待って今持って来る」

そう言うと瑞希は列車内に入るとバッグを持って戻ってきた。

「おまたせ~」

瑞希はニコニコしながら大輔に食事を渡す。

大輔は無意識に昨日渡された物を瑞希に返却する。

瑞希は「返さなくても良いのに」と言いながらも大輔と食事を交換するようにして携行食を受け取る。

大輔の手荷物を少なくする為の瑞希なりの配慮なのだろう。


歩きながらでも食べられる食事を律儀に座ってする2人。

簡単な食事を終えた2人は予定通り下山を開始する。


27話まで1日1話連日投稿予定(更新は恐らく20時)


今回はGW前まで滞在予定。

それ以降のご意見、ご感想、誤字報告などは年末(?)まで対応出来ません。

何かあった場合は年末以降まとめての対応となります。


ご了承ください。

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