冒険の始まりはスライムの様な弱いモンスターとの遭遇から始まるご都合展開がある第16話
駅に無事到着した2人はホームに上がる。
列車に乗り込もうと近づいていると何処からともなくカサカサと謎の物音が聞こえいる。
音源を探す為、2人は周囲を照らしながら捜索をする。
大輔が何かを見つけたようだ。
「瑞希、アレ」
大輔のライトが照らしている場所に自分の懐中電灯の光を移動させ音の正体を確認した。
「ねずみ?」
「だな」
「何だ……。驚かさないでよ」
正体が分かった2人の間に緩んだ空気が流れた。
「あ、近づいてきた」
「餌が欲しいのかな?」
「コレ、あげてみる?」
先程瑞希に貰った携行食を軽く振りながらアピールする。
チョロチョロとこちらの様子を窺いながら近づいてくる数匹の鼠を観察しての会話。
幽霊の正体見たり枯れ尾花ではないが音の正体が分かった安心感からか2人に緊張感は全く無い。寧ろ見知った生物を発見して和んでいる節まである。
遂には足元付近まで接近した鼠たち。
「少し大きくない?」
「確かに少し大きいな。でも、テレビとかで東京のネズミがコンビニや自販機に出現した。とか飲食店のゴミを漁るネズミ。みたいな感じのやつだとこれくらいのサイズだったきもするな。やっぱり家で偶に出るネズミとは1周りか2周り大きい感じだったな。良いもん食べてれば大きくなるんだろうな」
「じゃあ、この辺りにも栄養豊富な食べ物があるって事かな?」
「かもな。人が食べられるものかどうかは別の話だけど」
鼠がそばに来てもお構いなく暢気な会話を続ける2人。
しかし、瑞希がある異変に気が付く。
「……何か膨らんでない?」
「まさか小玉鼠じゃあるまいし……」
冗談っぽく返したが、冗談では済まなかった。
鼠の体は風船のようにパンパンに膨らみ続け、見る見るうちにサイズはサッカーボール大まで膨張していった。
その光景を目にした大輔の顔がみるみる青褪めていく。
「小玉鼠って何?」
「マズイ!瑞希避けろ!」
その後の展開を理解している大輔は瑞希の質問を無視して避難を促す。
大輔自身は開いているドアにヘッドスライディングをするかの如く勢いで飛び込むとすぐさま頭を抱えるように耳を塞ぎ丸くなる。
瑞希は大輔に質問をする為、鼠から目を話していたのか現状を理解しておらず、反応が遅れる。
「えっ?」
次の瞬間……。
パンッ────。「ぶへっ」
パンッ────。
パンッ────。
数度、近くで何かが連続で破裂したような轟音が鳴り響く。
音が鳴り止んだのを確認した大輔は恐る恐る外の様子を確認する。
「瑞希―。大丈夫か―?」
ホームの惨状を理解しているが故、ホームを確認する恐怖も相まって瑞希の無事を確認する大輔の声は小さい。
赤く染まったホーム。
そして先程まで自分が居た場所付近に立ち尽くす1人の人間と思しき影。どうやら瑞希は無事のようである。
しかし、ホームの現状はまるで殺人現場の血の海に佇む犯人を彷彿とさせる凄惨な絵面にも見えてしまう。
大輔が想像していた以上に酷い有様である。
これまで生きてきた中で唯一妖怪オタクとしての知識が役に立った瞬間だなと心底思う大輔。
そんな大輔に反応した瑞希はギギギギギギ────。と音を立てそうな動きで大輔の方に顔を向ける。
大輔の避難指示に体が反応せず……、いや、寧ろ大輔の指示に反応をして鼠の方に顔を向け直していた直後の出来事だったので酷い有様とも言えよう……。
どうやら鼠の肉片を頭の先からつま先までの全身に浴びているようだ。
「コレはどうゆう事かな?」
全身が爆散した鼠の血と肉片にまみれた瑞希が大輔に説明を求める。
引き攣った笑みを浮かべているが相当怒っている事は想像に難くない。
「いやー……そのー……。小玉鼠って言う妖怪が居まして。その小玉鼠は山中で見る事があるって言われている妖怪なんですよ。それでですね、小玉鼠は人と出会うと体を膨らませて爆発して自爆するって言うか肉片を周囲に撒き散らす習性があるって言う。そんな妖怪なんですね。あ、でも自爆して肉片を撒き散らす以外の害は無いそうです。実際被害は無い訳ですし……ハハハ」
これ以上瑞希の怒りに触れないよう、極力丁寧な言葉遣いを心掛けて説明をする大輔であったが、大輔の説明では瑞希の怒りが収まる様子を見せない。
状況が好転する事が無いと悟り、最後には乾いた笑いで誤魔化す。
「被害が無い……?そもそも、そう言う話をしてるんじゃない事は分かるよね?」
漫画なら怒りを表現する為に蟀谷に青筋を浮かばせ、怒りの炎を書き足し、ゴゴゴゴゴゴッ────。と効果音が付きそうなほどの圧。
大輔の最後の言葉は割と瑞希の地雷を踏み抜くような発言だったのかもしれない。
それでも張り付いたような笑顔を崩さない瑞希の表情を見て、大輔は思う。
あ、これ本気で怒ってるやつだ…。と。
「えーっと……。一応、回避するように注意はしたんですが……。ごめんなさい!!!」
大輔に瑕疵はない……と思う。
しかし、今は謝罪するのが最善なのだろう。特に『被害は無かった』と言う軽率な発言については。
顔周辺の肉片を摘まみ取り、血を拭いながら瑞希は溜め息を吐く。
瑞希自身、大輔に非が無い事は理解している。
だが、怒りの矛先が欲しいのも事実。八つ当たりし過ぎても仕方がないと納得しているのだろう。
溜め息を吐く事で1つの区切りとしたのだった。
「次からは気を付けてね。腕を引っ張るとか突き飛ばすとか」
「はい。善処します」
『行けたら行く』並みに信用して良いのか疑わしい返答。
改めてまじまじと瑞希の惨状を目にした大輔は小玉鼠の自爆に巻き込まれなかった事と瑞希の怒りも落ち着いた事についてホッと胸を撫で下ろした事で瑞希に対しておざなりな返答になってしまったのだろう。
しかし、悠長に構えている余裕は無い。
小玉鼠についての情報を記憶の片隅から呼び起こした事で1つ気がかりになった事があるからだ。
「それで話は少し変わるんだけど、小玉鼠って情報があまりない妖怪なんだけど、小玉鼠が出没する時って山の神様の機嫌を損ねてる時って話があるんだよな。小玉鼠に遭遇した場合は直ぐに下山しろって話なんだけど、どうする?」
「どうするって言われても。んー……。例えば、仮に山の神様が居ると仮定すると、ここって何処かの山って事になるでしょ?その山を下山するのってかなり危険じゃない?だって、登山する人だって夜の登山は避ける人多いでしょ。方向感覚とか足場の悪さとか。それに僕たちの場合、どっちに進めばよいかも分からない遭難状態だし、目的地もない。むやみやたらに移動して下山しろって言われても物理的に不可能じゃない?」
瑞希は少し考える素振りを見せた後、自分の考えを述べる。
考え自体がまとまっていない為、長々と話してしまっているが、要するに今は下山をしたくないと言う事なのだろう。
大輔にも最低限瑞希が言いたい事が伝わったようだ。
「なるほど一理あるな。じゃあ、何にせよ明るくなるのは待たないとな」
そう言うと大輔は列車の中に入っていってしまった。
瑞希は身体中に張り付いたの小玉鼠の肉片を出来る限り落とす。
心の中で「手伝ってくれても良いのに……。薄情者め」と大輔に毒突きながら不満と不快感の入り混じる表情で1つ1つ肉片を摘まみながら作業を続ける瑞希なのであった────。
16話お読みいただきありがとうございました。
筆者の諸事情により、17話以降は2024年4月頃の投稿(予定)となります。