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1人では絶望する場面でも2人だからこそ歩き出せる場面もあるかもしれない第15話

「ねぇ、大輔、コレ……」

「何だ……、コレ……。どうなってんだ……」

瑞希の持つ懐中電灯の光の先は今まで自分たちが乗っていた列車の側面を照らしている。

光に照らし出された列車を見て大輔は愕然としてしまう。

列車の側面は錆に覆われ、窓ガラスは所々ひび割れている。そして主連棒は一部が外れ地面に落ちている。

笛吹トンネルに停車していた時には新品とはいかないまでも隅々まで整備が行き届いていると容易に想像が出来るほど綺麗な状態だった。それが今まで走っていた事を疑ってしまうほどに車両は朽ち果てている。


暫く呆然と立ち尽くしていた2人だが、唐突に瑞希がボソリと呟く。

「どうしよう……」

これは大輔に向けた言葉ではない。

心の底からどうすれば良いのか分からず、ついつい口にしてしまった言葉。

言わば独り言に近い呟きだった。

しかし、呆然とした状態のまま大輔は瑞希の言葉に反応をする。

「取り敢えず動くしかないな。どっちに進む?」

大輔は左右(列車の進行方向と元来た道)をライトで照らした後、180度向き直り正面(駅の改札方向)を照らして瑞希に問う。

「左……かな?」

瑞希は前後左右を軽く確認をし、線路上を歩き元来た道を引き返した方が良いと考えたようだ。

元々、進むべき方向に拘りを持たずに質問をした大輔は瑞希の意見に反対する事は無く、軽く「了解」と口にすると線路に飛び降りた。

瑞希も大輔の後に続き線路に降りる。


足元を確認しながら慎重に歩く事十数分……。

目の前にトンネルと思しき輪郭が見える。

恐らく、列車に乗っていた時に通過した最後のトンネルだろう。

瑞希と大輔は一瞬顔を見合わせた後、頷くとトンネルに近づく。

速足から小走り、駆け足へと速度を速めつつトンネルに近づく2人。

トンネルに近づくにつれ、2人は異変に気が付く。

トンネルの入り口に辿り着いた2人は絶望する事になる。

トンネルは重い格子状の大きな扉によって封鎖されていた。

周囲を軽く確認した瑞希だが左右とも少し先に岩肌が確認出来る。

トンネルの周囲に道らしい道は無いようだ。

「そんな……」

大輔は扉を掴み力なく揺するも固く閉ざされていて開く気配はない。

そのまま扉を掴んだまま膝をつき崩れ落ちる大輔。

心霊スポット巡りを1日中していた事と笛吹トンネルからの出来事。そして駅についてからの出来事。

理解に頭が追い付いていない事に加え、疲労や恐怖心、絶望感など諸々の事情から緊張の糸が切れてしまったのだろう。

今までは親友の手前、気を張って強がってはいたものの動く気力すらも残っていないようだ。

そんな大輔を見た瑞希は2人で絶望に打ちひしがれている余裕は無いと思い、次の行動に移すべく勇気を振り絞って気丈に振る舞うように努めた。

「大輔、少し休もう。大輔は1日中運転しっぱなしだったから疲れてるんだよ。それに少し休めば明るくなると思うし、そうすればもう少し見通しも良くなって何か良い方法も見つかるかもね。何もないようだったら反対側に歩いてみても良いと思うし、今は体力を回復させる為に少し休憩しようよ」

気丈にふるまっているつもりだが、どうしても声の震えを完全に抑える事は出来ない。

瑞希はバッグを漁り、コンビニで仕入れた携行食を大輔に渡す。

「……喉が渇きそうな食べ物だな」

差し出された食料を手に取り、軽く文句をつける。

余裕のある瑞希を見て皮肉っぽく憎まれ口を叩ける程度には立ち直ったようだ。

大輔には余裕に見えているようだが、瑞希の声の震えは隠せておらず不安感に苛まれている。

「そうだね。飲み物が欲しいけど持っていね。羊羹の方が良い?」

瑞希は大輔の発言を気にする様子はない。細かい事を気にする余裕がないと言った方が正確だろう。

大輔を励ます為に自分の言いたい事を話し続けているだけだ。

恐らく大輔がどんな反応を見せようと瑞希は同じ反応をしていただろう。故に大輔の発言が嫌味に聞こえなかった。

コンビニで色々と補充をした大輔のバッグには他の種類のおやつ兼非常食も持っていた。

1つ残念な事があるとすれば、大輔の指摘通り飲み物の件だ。

飲み物を車のドリンクホルダーに置きっぱなしにしていた事を後悔した。


瑞希は扉に背を預ける形で腰掛けた大輔の横に座ると羊羹を一齧りする。

瑞希は手渡した携行食の箱をクルクルと回しながら食べる素振りを見せず空を仰ぐ大輔の姿を見て心配になり問いかける。

「食べないの?やっぱり羊羹の方がよかt……」

「ちげーよ!俺たちどうなるのかなって。……いや、どうすれば良いのかなって思ってな」

どうやら上の空だったわけではなく、今後について考えていたようだ。

「そうだよね。まずはどうすれば元居た場所に戻れるか考えないとね。……で、何か思いついた?」

「まだ何も思いついてない。ただ、さっき瑞希が言ってたと思うけど、時間が経てば朝になると思う。少し休んだ方が良いって言うのもその通りだと思う。でも、野宿は虫とか蛇とか下手したらクマとかの野獣も出るかもしれないから危険だと思う。だから休憩するなら列車に戻った方が良いんじゃないかなって」

「全然何も思いついてない事ないよ。列車なら雨風は凌げるからね。明るくなって周辺を散策する場合も列車を拠点にすれば良いと思うし良い案だと思うよ」

瑞希は残りの羊羹を口に詰め込みゴミをビニール袋に詰め込んだ後、おもむろに立ち上がりお尻の部分を軽く叩いて汚れを落とし、大輔の腕を掴む。

「地面に直接座ると体温が奪われて体力も消耗するって言うしね。列車に一度戻るって決めたんだし早く行こう」

瑞希は大輔の腕を引き強引に立たせる。

結果として来た道を引き返す事を余儀なくされた2人であった。


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