トンネルの内部に潜入した第125話
トンネル入り口まではほんの数十メートルの距離だが、瑞希、大輔、ヴァンの3人はミクの指示に従い移動を開始。
巨大な扉は峡谷の左右の岩肌に凭れ掛かっている。
「少し待っておれ」
その扉付近まで近づいた時、ヴァンが瑞希と大輔に待機するように指示をした。
何事かと思った瑞希と大輔だが、素直にヴァンの指示に従い足を止める。
何が始まるのかとヴァンの行動を観察していると、ヴァンが右の扉へと近づいて行った。
するとヴァンは不安定に立て掛けられているような状態で凭れていた扉を慎重に移動をさせ、地面に敷くように倒した。
そして、左の扉も同様に倒すと先程倒した右の扉の上に重ねた後、瑞希たちの下へと戻ってきた。
「これで少しは安心して通れるであろう」
「ありがとう。ヴァンくん」
「サンキュー。マジで助かる。でも、壁に立てかけたままで良かったんじゃないか?」
「万が一の備えじゃ。風などで倒れてきた時、余の身を守るのは容易いがお主らの身の保証は出来かねる」
ヴァンの説明に納得せざるを得ない大輔。
改めてヴァンに礼を言い、3人は空いた左側を通りトンネル入り口へと向かう。
トンネル入り口で暫く待っていると、ミクが両手に荷物を持って戻ってきた。
頭には包帯が巻かれているが出血は止まっているようだ。
「待たせたな。まさか本当に扉が開くとは思っていなかったので内部調査用の道具が人数分用意出来なかった」
そう言うとミクは全員に革製の手袋。瑞希と大輔にのみ追加でヘルメットを手渡した。
全員に最低限の装備を渡したところでミクはランタンの様なものでトンネルの内部を照らす。
「ライトならありますよ」
瑞希はポケットからスマホを取り出し、ライトを起動。
大輔も瑞希に倣いスマホを取り出す。
ミクのランタンと瑞希、大輔のスマホのライトが加わり相当明るくなった。
トンネルの入り口から見えていたので明かりを灯す前から分かっていた事だが、トンネル内へと続く線路はトンネルに入り、なだらかな下り坂になっており、左にカーブしている。
故に入口から確認出来る範囲は10m程先までであった。
やはり瑞希たちの記憶では直線だった気もするが、正直トンネルの中の風景なので短かった以外の記憶はあまり当てにしない方が良いのかもしれない。
「妾と坊やが先頭で瑞希と大輔が後から続くようにしよう。足元と頭上、特に崩落には細心の注意を払う様に」
ミクが先頭でランタンを。瑞希はヴァンの頭越しにスマホのライトを照らし、大輔はミクの後ろからライトを照らしていたが、直ぐにライトを消してスマホをポケットにしまった。
「瑞希とミクのライトだけで十分だな。電池の無駄だから必要そうなら言ってくれ」
そんな事を話しながら歩き続ける一行。
1分も歩かないうちに予想外の光景を目の当たりにした。
入口から少し進み、道幅が倍以上に広がったと思いきや……。
「むっ?」
「行き止まり?」
「やはりか……」
線路は壁へと続いているが道はない。
どうやらミクはトンネルが行き止まりだと予測していたようだ。
「知ってたのかよ」
ミクの言い方が気になった大輔。
「先程、外から調査したと説明しただろ。如何せん扉や周辺の岩の硬度など説明のつかん部分も多くてな。不確定な情報は伏せていただけだ。それとも大小様々な洞は発見されているが全て報告した方が良いか?」
「いや、必要ない。俺が悪かった。……ん?なんか落ちてんぞ」
大輔は話を逸らすかの如くミクのランタンに照らされ、光を反射する物体が気になった様子で線路上に多数落ちているその物体の1つを手に取る。
「鏡?」
大輔が手に取った物体をライトで照らした瑞希には鏡に見えたようだ。
それは大輔も同じで「何でこんなところに?」と言いながら持っていた鏡の破片らしき物を瑞希に手渡す。
瑞希は渡された破片をじっくり観察してみたものの、鏡の欠片以外の感想は無く、取り立てる程の情報を得る事も無かった。
それはヴァンもミクも同様で、ミクが「後程、成分分析に回す事にしよう」と言い、サンプルとして1つ丁寧にハンカチに包み懐へとしまった。」
その後、線路の続いている壁を調べてみたものの、特別な道具も持ち合わせていない現状では何も発見出来ず、今回の調査では線路は壁の直前で途切れていると言う結論に至った。
だがそれは飽く迄も今の4人での調査の結論であり、後に本格的な調査を行うとの事だった。




