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冷静になって考えると当たり前の事でも当事者には気が付けないことが多い第13話

────ガシッ!

必死の抵抗が初めて実を結ぶ。

瑞希と大輔は互いの手を取る事に成功した。

「ふタ……リめ……」

大輔の後ろで声が聞こえた。

その声は側にいる大輔の耳に辛うじて届く程度の声量だった。

「しまっt……」

女の力が弱まったのは、大輔が瑞希の手を取る為の罠。

大輔がその事に気が付き瑞希の手を振り解こうとするも時すでに遅し。

瑞希と大輔の手は固く握られている。

それどころか、瑞希は大輔の手を掴んだ事に希望を見出し、手すりを掴んでいた手も大輔の腕に伸ばし引っ張ろうと必死になっている。

大輔が手を握る力を弱めても瑞希が全く手を放そうとしない。

「「うわっ」」

大輔が瑞希だけでも逃がそうと思考を巡らそうとしたその時……。

今までにない力で後方に引かれる。

為す術なく2人は車内中央まで引き摺り込まれてしまう。

「イテテテテテ……」

バタン!

先程まで瑞希が居た出口のドアが勢いよく閉じる。

勢いよく引っ張られ、倒れ込んだ時に鼻をぶつけたのだろう。暢気に鼻を撫でる瑞希。

それとは対照的にドアの閉まる音を聞いた大輔は咄嗟に立ち上がると瑞希を押しのけるようにして一目散にドアへと駆けだす。その表情は鬼気迫っている

ドアまで辿り着いた大輔は乱暴にガタガタと押したり引いたりして懸命にドアを開けようとしている

「クソッ!」

ドアが開かない事を悟った大輔は最後に思いっきりドアを蹴りつける。

「おぃ!クソアマ!どないつもりy……」

どうにもならない状況。

冷静さを失っている大輔は事の元凶でもある化け物と認識した女に事情を聴こうと振り向いた。

……しかし、そこには瑞希の姿しかない。

言葉に詰まる大輔は瑞希に走り寄った。

「瑞希、あの女は!?」

「へっ?……あれ?」

大輔に問われ、瑞希は素っ頓狂な声を出した後、キョロキョロと辺りを見渡すも女の姿を確認する事は出来なかった。


何処かに隠れていると思った2人は車両内を隈なく捜索したものの、隠れるような場所は無かった。

窓などから逃走した形跡もない。

女は何の痕跡も残さず、忽然と姿を消していた……。

「どないなっとんねん!」

「不思議だよねー。窓も開かないね」

荒れる大輔とは対照的に緊張感に欠ける瑞希。

「嘘やろ……?」

どうやら大輔は窓が開かない事に気が付いていなかったようだ。

近場の数か所の窓を確かめてみたものの、瑞希の言う通り一向に開く気配が無い。

「だー!!クソッ!!」

全力で窓を殴りつけるも割れるどころか傷の1つもつかない。

「まあまあ落ち着いて」

瑞希は座席に腰掛け大輔を宥める。

大輔は通路を挟んだ瑞希の横に腰掛ける。

「大輔、右手見せて」

「何で?」

「さっき窓殴った時に怪我したでしょ?血出てるよ」

大輔は自分の右手を眺める。中指と薬指の中手指節関節ちゅうしゅしせつかんせつ付近の2か所の皮が捲れ、血が滲み出ていた。

怒りの所為で気が付かなかったのか、傷が浅かったので気が付かなかったのか、窓を殴った時にジンジンと痛みを感じたが『殴れば痛い』のは当たり前の事で、出血しているとは微塵も想像していなかった。

「良く気付いたな……」

「窓に少し血がついてたからね」

ボソッと呟く大輔にバッグからポーチ型の救急セットを取り出しながら瑞希は答える。

素直に右手を差し出された右手の傷跡に消毒液を掛け、絆創膏を貼る。

「はい。出来た」

「ごめん……」

「何が?」

「いや……。頭に血が上ってた事とか色々と……」

「そう言われても大輔は何も悪いことしてないし、謝る必要はないと思うよ。……でも、落ち着いたようで良かった。……大輔怒ると関西弁出るからね。正直、関西弁って少し威圧的で苦手なんだよね」

「知ってる……」

「だよね。大輔が転校してきた時も同じような事言ってたもんね」

「だな。その時の話はもう良いよ」

不自然なほど明るく振る舞う瑞希に違和感を覚えながら大輔は返答をする。

転校当初、大輔は関西弁の所為で馬鹿にされイジメられた経験がある。

イジメと言うよりは自分たちと異なるものを忌避されていたと表現した方が正しいのかもしれない。

そのイジメっ子たちとは違い、当時から瑞希は「関西弁って少し威圧的だよね」と言いながらも分け隔てなく……いや、寧ろちょっとウザいと思ってしまう程度には積極的に大輔に近づき何かと干渉してきた。

転校生に対する好奇心からの話題作りの一環だったのかもしれないが、孤立しかけていた大輔にとってはこれ以上ない助け舟だった。

(嫌な事思い出した……)

大輔は天井を見上げ、目を瞑る。

感情的になり過ぎた事を反省し、冷静になる為の瞑想に近い行動。

頭を冷やすために何も考えないようにしていたのだが、どうしてもあの女の顔が脳裏にチラつく。

思い出したくもない憎らしい顔。冷静になるつもりだったが出会った時からつい先ほどまでの記憶が思い起こされて癪に障り始めてしまう。

「あー!!何で今まで気が付かなかったんだ!!」

横で急に大声を出す大輔に驚き体をビクッとさせる瑞希。

気が触れてしまったのではないかと心配になる。

「何?どうしたの?」

「あの女だよ!あの女!!」

正気は保って入るようだ。怒りとは違う感情で興奮している様子の大輔を見て少し安心をした瑞希は大輔に話の続きを促す。

「だからどうしたの?」

「初めに路上で見かけた時、何も持ってなかったんだよ」

「そうだね。手ぶらだったね」

「それが変なんだよ。街灯もないような山道を夜中に懐中電灯の1つも持たずに歩いてること自体不自然だったんだよ」

「確かに」

「それをはっきりと視認出来た俺もおかしかったんだ。何で気が付かなかったんだ……。それに、よく考えたら、あのトンネルに肝試しをしに来る奴なんて年に何人いる?」

「どのくらい居るんだろう?有名な心霊スポットだけど、結構前から有名だし、すでに来てるって人も多いと思うし、場所も場所だから多くて月に1組か2組くらいじゃないかな?」

「だよな……。それにしては俺たちが心霊スポット巡りに行ったタイミングとあの女が心霊スポットに行くタイミングが良すぎた。日付も然る事だが、時間がドンピシャすぎる。他人を驚かすにしても態々(わざわざ)丑三つ時にっておかしすぎるだろ……。丑三つ時に驚かしたいって考えたとしても少し前の時間には到着して準備するのが当たり前じゃないか?ってか月2組ペースだとしても2週間に1組。多く見積もったとして週に1組程度だろ。来る時間も分からない、肝試しに来る連中の為に驚かしに通うだなんて変人どころか異常すぎないか?」

「……言われてみれば」

考えれば考えるほど女の異常さが露呈してくる。

そして何故、自分たちはその異常さに気が付かなかったのか……。

2人の間に重い沈黙が流れる。

何か話をして気を紛らわしたかったのだが、重苦しい雰囲気も相まって切り出すのに適切な内容を考えているうちに2人共会話のきっかけを見失ってしまっていた。



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