危機一髪!?トンネルの扉が開かれる第124話
「この通りビクともせん」
ミクは格子の1つを握り、前後左右に揺すって見せる。
扉はキーッキーッと金属が擦れ合う音を立てるのみで開く気配は微塵も感じられない。
「どれ」
その様子を見ていたヴァンが扉に近づき左右それぞれの扉に手を掛ける。
その瞬間、ヴァンの手に薄いガラスを割ったような感触が伝わる。
ヴァンはその感触に違和感を覚えたものの、気にする事無く扉を引いた。
徐々に引く力を強めていくとミシミシと不穏な音を立てながら扉が開い……た。のではなく、岩盤ごと剥がれた。
瑞希や大輔、ミクと比べても巨大な扉。
3人よりも一際小さいヴァンは外れた扉に翻弄され態勢を崩してしまう。但し、巨大な扉の前では瑞希たちとヴァンの身長差は誤差の様なもので、ヴァン以外の者が同じ状況に陥ったとしても同様の結果になっていただろう……。
「おっ?」
あまりにも予想外な展開に素っ頓狂な声を出してしまったヴァン。
必死で態勢を整えようと試みるも、その先端にかかる回転力相手に為す術も無く、尻餅をつくように倒れてしまう。
倒れる瞬間、咄嗟の判断で扉をトンネル方向へ押し戻すように両手を離したものの、扉の勢いを殺しきれず、瑞希たち目掛けて倒れてきた。
自分たちが立っている道幅とほぼ同じ幅の扉。左右に逃げ場はない。
後ろに走って逃げた所で恐らく間に合わないだろう……。
「「うわーーー!!」」
襲い来る巨大な扉と扉が破壊された衝撃で崩落するトンネル入り口付近の壁。
瑞希と大輔はその光景を目の当たりにし、叫びながらその場でしゃがみ込み、両手で頭部を守るような体制を取り、あとは上手い具合に当たらない事を天命に祈りながら両目をギュッと瞑る。
ガシャーン!!とけたたましい音と共に土埃が舞う。
死を覚悟した瑞希と大輔だが、痛みはない。
どうやら死んではいないようだ……。
だが、全身を撫でる様に滑らかな感触が伝う。
現状を確認しようと2人はソーッと目を開ける。
2人の視界……どころか2人の全身を覆う白い何か……。
その正体は九尾の狐の姿をしたミクの毛だった。
扉が倒れてきたのを確認したミクは機転を利かせ、九尾の狐の姿に変身。文字通り体を張って扉を受け止めたのである。
「2人共無事か」
ミクに声を掛けられた事で2人は漸く周りの白い物がミクの毛だと気が付く。
「はい、無事です。ありがとうございます」
「俺も大丈夫だ。マジで死ぬかと思った。」
「そうか」
2人の無事を確認し、ミクはホッと胸を撫で下ろす。
「Rjiy jissomof!?」
物音を聞きつけたミクの部下たちが駆けつける。
「今から元の姿に戻るが、危険だから少し離れた場所に退避しろ。Dyip nivl,uy’d fimhotaed!」
瑞希と大輔の2人を踏み潰さない様に細心の注意を払いながら体制を変え、2人に声を掛け、駆け付けた部下たちにも避難指示を出す。
ミクが四つん這いで中腰のような状態になり、トンネルとは反対側への避難路を造る。
瑞希と大輔はミクの下を這いつくばるように通過して避難した。
全員が避難したのを見計らい、ミクが元の姿に戻る。
そして、瑞希、大輔、ミクの部下たちが集う場所に歩いてくるミクとヴァン。
ミクは頭に怪我をしたらしく蟀谷の上から頬を伝う血が確認出来た。
応急処置として出血箇所に布を当てた直接圧迫止血法をしており、自力での歩行が可能。見た目ほど重傷ではない様子である。
「ありがとうございます。助かりました。怪我してますが大丈夫ですか!?」
ミクの出血を確認した瑞希と大輔が2人に駆け寄る。
「掠り傷だ。気にするでない」
ミクの言っている事は事実であり、頭皮は血管が多く、皮膚が張っているため、少しの傷でも出血しやすい傾向にある。
「いやー、思わぬ事故で大変であった」
ミクの隣を悠々と歩き、何事も無かったかのように話す呑気なヴァン。
「お前は加減と言う物を知らんのか、殺す気か!」
そんなヴァンの頭を軽く叩くミク。
「ババアがあの程度で死ぬ訳なかろう」
「妾の事ではない。瑞希と大輔の事だ」
ミクの一言で何かに気が付いたヴァン。
「……ッ!2人とも怪我はないか?何処か擦りむいて出血なd……」
「少しは反省しろ!そんな血が飲みたいなら妾の血でも飲むか?」
あまりにも軽率で不謹慎な発言にミクが血の付いた手でヴァンの頭を殴りつける。
「確かに余が破壊したのは事実だが、責任の一端はババアにもある」
ミクに殴られた頭を擦りながらヴァンが反論をする。
どうやらミクの血には興味がないようだ……。
「何だと?」
「ババアが破壊不可能だと言うから全力で引こうとしたまでだ。ところがどうだ。余が2、3割程度の力で引いただけでこの有り様よ。ババアの部下はどれだけ非力なのだ?」
「報告を受け妾も扉の破壊や壁の掘削作業に参加していた。そんなはずはない!」
ヴァンの反論を受け、ミクも反論を重ねようと試みたが、それは現状を否定する事に他ならない。
ミクたちが必死に破壊しようとしていた岩肌も扉も容易く破壊されてしまったのだ。
自分たちの作業に妥協は無かったと訴えるのが精一杯だった……。
「それは疑っておらぬし、責任を追及するつもりも無い。只、他に原因があるにせよ、余が普段よりも少し強く力を込めただけであの有り様だと言いたいだけだ。それはそうと、不慮の事故とは言え、瑞希と大輔には危険な目に合わせてすまなかったな」
「まあ、僕たちも予想出来なかったからね。もう少し離れるべきだったね」
「だな。俺たちも怪我してないし、今回はしゃーなしだな」
ヴァンを責めた所で時間が戻る訳ではない。
瑞希と大輔は今回無傷だった事もあり、ヴァンの謝罪を受け入れ、責任の所在については不問にする事にした瑞希と大輔。
「それで、扉が開きましたがどうしますか?」
「本格的に内部を調べるには器具の準備などで時間が必要だな。だが、妾たちとお前たちが中を見て回る程度なら問題ないな。……部下に次の指示を出してくるから入口付近で待っていてくれ。それと、崩落の危険があるから十分注意するように」
そう言うとミクは現状報告と次なる指示を出す為、部下たちの下へと歩いて行った。




