列車やトンネルの異常を知らされる第123話
ミクを先頭に列車付近に到着した一行。
「して、余をこのような場所に呼び出して何用だ?」
ミクが列車の前で立ち止まったのを機にヴァンが問う。
「コレを見てほしい。……どう思う?」
先程、大輔がグリフォンの撮影の相談をしに来た時、ミクが神妙な面持ちで眺めていた場所。
そこを指し、ヴァンに尋ねる。
「これは……!?まさか!!」
「何?何?」
驚愕するヴァンが何を見たのか気になった瑞希もミクが示していた場所を確認する。
しかし、瑞希には何も理解出来なかった。
ミクが示し、ヴァンが驚愕した物はどうみても列車のエンブレムにしか見えなかったのである。
「大輔、分かる?」
何も理解出来なかった瑞希。ヴァンとミクに聞ける雰囲気ではない事を察し、隣に居た大輔に小声で質問をする。
「さっぱり分からん。普通にヘッドマークじゃないか?」
「じゃあ、何でヴァンくんとミクさんはあんなに驚いてるの?」
「俺に聞いて分かる訳ないだろ。古代文明の遺物とかロストテクノロジーとかの類なんじゃねーの?知らんけど」
当然大輔が知る由も無く、帰って来た返事は憶測によるものだった。
瑞希たちが小声で話をする一方。
ヴァンとミクの2人も何やら神妙な面持ちで話している。
瑞希たちは瑞希たちで推測の話をしている。
お互いの会話は辛うじて聞こえてはいるものの、各々の会話に夢中になりすぎている為、互いの会話は耳に届いているが内容は入っていない状況である。
「ところで、何で俺たちって此処に呼ばれたんだ?」
瑞希との憶測では埒が明かないと感じた大輔。
当たり障りの無さそうな会話から始め、徐々に核心へと近づこうと言う魂胆である。
「この列車や駅、線路について聞きたい事があってな。立ち話もなんだ。向こうで話をするとしよう」
そう言うとミクはキャンプの一角を指しスタスタと歩いて行ってしまった。
キャンプのとある一角にあるテントの中────。
「さっそく本題だが、ここの列車に乗って来たのは間違いないか?」
「間違いないぜ。なあ、瑞希」
「うん。それで、そこから眺めてヴァンくんの屋敷の一部が見えた気がしてそっちに進もうって話になったんだよね」
大輔に同意しつつ、瑞希がここに到着した朝、辺りを見渡した場所の辺りを指差し説明をする。
無論、小玉鼠などの無駄話は排除している。
「それで見た感じ、この駅が終点のようだが、この線路の向こう側から来たと言う事で間違いないか?」
「はい。僕たちも来た道を引き返そうとしたんですが、線路の途中に扉があって、周囲に回り込めそうな場所も無かったので諦めました」
「まあ、終点って言うか、俺たちが乗った?と言うべきか乗らされたと言うべきか、その駅も始発駅?で途中に駅は無かったぞ。ここの駅と俺たちの居た世界の駅の2駅だけだな」
「だね。あと、向こうの駅は本来なら駅が存在しない場所に駅がありました」
「そうか……。それはお前たちが妾の下を訪ねてきた数日前と言う認識で間違いないか?」
「はい」
ミクは瑞希の返答を聞き、暫時考えた末、口を開く。
「お前たちが嘘を言っている様には見えんが、瑞希がベッドの改造を頼んだドワーフの工房の親方の話によると、列車の劣化具合から見て少なくとも十数年。下手をすると数十年は動いていないと予想した。動力源も完全に壊れていたとの事だ」
「そんなはずはありません。僕たちがここに到着した日が夜だったので此処で一晩過ごし、翌日にヴァンくんの家に辿り着いて、数日過ごした後、ミクさんの町に行きました」
「瑞希の言う通りだ。1人だけなら記憶違いの可能性もあるが、俺も向こうの世界から瑞希とずっと一緒だったからな。俺と瑞希で同じ記憶、同じ時間感覚があるなら間違いないだろ」
「無論、お前たちが嘘を言っているなど微塵も思っていない。只、事実として列車は十数年動いた形跡が無いと言うだけだ。それに十数年、この場所にこのような駅が存在していたなら妾も把握して然るべきだ。この周辺の取引先は坊やくらいだが、他の取引先へ向かう途中にこの近辺を全く通らないわけではないからな。近辺を通ったものが気が付かなかった可能性もあるが、最低でもここ数か月の間は駅が存在していなかったと推測して良い。それと、お前たちに見てもらいたいものがあるんだが」
そう言うとミクは近くに居た亜人に何やら指示を出し、何かを持ってこさせた。
亜人が持ってきた物をミクが確認をし、テーブルに広げる。
「これは何ですか」
「この周辺の上空写真だ。ここが駅で、ここに見える線が線路だな」
「あれ?」
上空写真を見ていた瑞希が違和感に気付く。
「どうした瑞希」
「この路線って何処に繋がってるの?」
「何処って俺たちの居た世界だろ」
「うん。それはそうなんだけど、僕たちが諦めた扉の位置から山の反対側に線路が繋がってないよねって話。線路が山の中に僕たちの世界につながるワープゲートみたいなのがあるか地下を走ってるのかな?」
「なるほど……。言われてみれば確かにそうだな。でも、地下はなさそうだな。あくまでも写真を見ての推測だけど、ここって山の中腹辺りだろ。それで線路が伸びてそうな場所を考えて、そこまでの距離で完全に地下に潜るとしたら相当な傾斜になるか螺旋状に潜るかだな。それに、そもそもで俺たちが来た時は地上を走ってたはずだし、ここに来る直前のトンネルだってそこまで長くなかった」
「実際、お前たちの推測は正しいと思うぞ。超音波や電気、熱など様々な方法で調査したが主だった道や空洞は発見されなかった。それと格子状の扉とは言え、隙間の間隔が短く誰も中に侵入出来る者はいない。……いや、正確には管理人などは入れるのだが、意思疎通の点で難があって、詳細な情報が聞き出せないと判断して今の所は選択肢から除いている。手の打ちようが無くなった場合の最終手段だな」
「ならば実際に歩いてみては良いのではないか?」
「僕たちの力だとビクともしなくて全く扉が開く気がしなかったんだよね」
「お主たちが無理でもババアの部下なら可能やもしれまい。無理でも横穴を開ければ良い」
ぐうの音も出ない正論。
「無論、そのような事は言われるまでも無く既にやっておる。だが、扉は開かんし破壊も不可能だった。横穴については扉周辺の岩盤だけが異常に硬くてな。掘削は不可能だった」
「「……」」
ミクの説明を受け押し黙る瑞希と大輔。
「まあ、そんなに落ち込むな。それが坊やを呼んだ理由の1つでもある。坊やならば破壊可能かもしれん。今からその扉まで行くぞ」
瑞希はミクの言葉を受け、ヴァンがゴーレムを易々と破壊した場面を思い出し、「確かに」と一言短く呟く。
一行は早速行動に移すべく、件の扉の前へと移動を開始した。
126話まで1日1話連日投稿予定(更新は20時設定済)




