詳細は69話と70話の間の番外編で。な部分がある第122話
そのグリフォンが瑞希たちから少し離れた位置に着陸。
見覚えのある人物が降りてきた。
「やっと来たか」
ミクがポツリと呟く。
「出迎えご苦労、ババア」
「出迎えておらん。ここに居たのは偶然だ。坊やも暫く見ぬ間に大きくなt────」
親戚のおばさんのような発言とともにヴァンの頭に手を伸ばそうとするミク。
「なっとらん!1mmたりともなっ!!久しぶりの再会早々に喧嘩売っているのか!?毎度毎度似た様な事を言いおってからに」
その発言を途中で遮り、ミクの手を払い除け反論するヴァン。
やはり身長の事は気にしているようだ……。
「そんな事より、遅いぞ。何をしていた」
「余も倥偬を極めておる故、多少は大目に見よ」
「倥偬……?坊やは対極の存在だろう。惰眠を貪っていたの間違いだろう。それとも惰眠を貪りすぎて夢と現実の判断すら出来なくなったか?寝言は寝てから言う物だぞ。そんな事より、昨日使いの者を出し、今日も迎えの者まで出したのに、今まで待たせていたのか?」
「昨日は期待させおって。いつもより早く補充をしに来たのかと思ったわい」
「期待?」
「あー……こっちの話だ。気にするでない。……そんな事より、瑞希が居るではないか」
所々口の悪さは目立つものの、親密な雰囲気が何処と無く漂うミクとヴァン。
瑞希を視界の端に捉えたヴァンはミクとの会話を強制的に打ち切るように別の話題へと移った。
「久しぶりヴァンくん」
「俺も居るぞ」
「うむ。大輔も久しいの」
「して、瑞希よ。余の扶助は有益な物であったろう?」
「うん。ヴァンくんのおかげで何とか町で暮らせてるよ」
「そうであろう、そうであろう。つまり、瑞希は余に貸しがあると言う事だ。そこで1つ頼みがあるのだが」
「頼み?何?」
何処と無く以前にも似たような状況があったような……。と既視感のある状況に嫌な予感を覚えながら、瑞希はヴァンに質問をする。
「うむ……。少しばかり血の提供を希望する。余は血を渇望しておる」
そう言うと懐からナイフを取り出すヴァン。
案の定と言うか何と言うか……。予想通りの展開に瑞希は一歩後退る。
「出血大サービスって事でサクッと借りを返せば良いんじゃね?」
瑞希の逃げ道を塞ぎながら、他人事だと思い軽口を叩く大輔。
「そうか、そうか。大輔は物分かりが良いのぅ。今は切迫していて選り好みをしている余裕が無い状況故、大輔、お主の血でも一向に構わんぞ」
取り出したナイフを向け大輔に語り掛けるヴァン。
「え?」
思わぬ展開にたじろぐ大輔。
瑞希はこの好機を逃す訳にはいかない。と逃げ道を塞いでいる大輔の手を両手でガシッと掴み、ヴァンの方へと差し出そうとする。
「ヴァンくん、大輔が出血大サービス中らしいからサクッとやっちゃって」
「ド阿保!出血大サービスは出血大サービスでも俺の血じゃねーよ!瑞希、お前の血だ」
捕まれていない方の手で必死に抵抗しつつ、瑞希の手をどうにかしてヴァンに差し出そうとする大輔。
あまりにも醜い争い……。
そんな2人の争いをものともせず「どちらでも良いから早くせぬか」と言いナイフを構え、ゆらりゆらりと近づいてくるヴァン。
完全に目は座っており、どちらに狙いを定めているにせよヤル気満々の様子である。
ヴァンの歩みは牛歩の如く鈍足ではあるものの、確実に歩を進めている。
ヴァンが一歩また一歩と近づくにつれ、瑞希と大輔の危機感は高まり、それとともに醜い争いが激化。
いつの間にか向き合った状態になっていた瑞希と大輔は2人が恋人繋ぎの様に手を繋ぎ……。ではなく、プロレスの手四つのような形でお互いを牽制しつつ、どうにかして相手の手をヴァンの前へと差し出そうと試みる状況。
瑞希と大輔の力が拮抗していたのは束の間、日頃の鍛え方が違うのか、暫くすると瑞希が押され始めた。
「あーーー!!待って!!ヴァンくん待って!!お父さんとかお母さんとか僕が死んだら悲しむ人が居るんです!!」
大輔の腕力に敵わないと悟った瑞希。
次はヴァンの情に訴える作戦に出るようだ……。
瑞希は今にも殺されそうな雰囲気を醸し出しているが、ヴァンとしてはそこまでする気は一切ない。
「全員、落ち着け」
今まで静観していたミクだが、目に余る状況を見兼ねたのだろう。
ヴァンが常用しているマントの襟首を掴み制止を呼びかけながら仲裁に入る。
「そ、そうだヴァン一旦落ち着け」
「そうだよ、ヴァンくん。ナイフは仕舞って」
ミクのおかげでヴァンとの距離が縮まらないと理解した瑞希と大輔。
2人はホッとした様子でヴァンを宥める。
「血液ならオウキーニがいつも補充しているであろう。何故、そこまで急を要する必要がある?まさか、オウキーニのヤツが配達し忘れたか?」
ミクの問い掛けに一瞬ピクリと反応し、身体を硬直させるヴァン。
「いやー……。ちょっとした不手際で次来るまでの分が不足してしまってのぅ……」
ヴァンの反応と歯切れの悪い回答。これらの様子を踏まえ、ミクの推測は1つの答えを導いた。
「なるほど、さっきの期待とはそう言う事か。さては、あの爺さんの手伝いをするとか言い出して瓶を落としたりして割ったな?」
「ち、違う!それは誤解じゃ!そのような子供の様な振る舞いをするわけあるまい」
「じゃあ、何があった?」
「……」
真実はスチュワートが居ないのを好い事に本能の赴くまま飲み干しただけである……。
真実よりもミクの推測の方があまりにも可愛気があり、更に真実の方がミクの推理よりも子供っぽいから救いようがない……。
結果、ミクから視線を逸らし、問いには黙秘する他ないヴァン。
「まあ良い。オウキーニに明日届けさせよう。このような事があるから通信機器を置けと言っているのだが……」
「すぐ壊れるであろう」
「それならば、また妾の管狐を貸与しても良いぞ」
「あの害獣か、いらん」
管狐と言うワードを聞いた瞬間、顔を歪ませるヴァン。
その表情や物言いから過去に相当不快な出来事があったと想像に難くない。
「言うに事欠いて妾のカワイイ管狐を害獣だと?」
「畑の作物を食い荒らす害獣であろう」
「それは坊やが餌をやらぬからではないのか?」
ヴァンもミクもお互いの言葉に対し怒りを露わにしている。
「毎日やっておったわ!……爺が。それでも食い荒らすのだ。しかも、1つ2つならまだしも一口ずつ複数の作物に渡り食い荒らすから手におえん。しかも毎日だ。害獣以外の何物でもないわ」
「…………」
一時は険悪な雰囲気も漂い一触即発の状況だが、ヴァンの発言に心当たりがあるのか、押し黙ってしまった。
「せっかくエレノアも町に居るんだし、この際、マンドレイクのネットワークを町まで延ばせばよいんじゃないか?」
「そうだね。町全体とはいかないまでもミクさんと連絡出来るようにね」
「エレノア……?おぉ!エレノアは元気にやっておるか?中々戻ってこぬから心配しておったところじゃ」
(((絶対に嘘だ!!完全に忘れてた!!)))
瑞希、大輔、ミクの見解が一致。
「……コホンッ。まあ、通信手段の事は行く行く考えるとして、坊やをここに呼んだ件に話を移そう」
ミクは業とらしく咳をし、本題へと移る。
そしてミクはヴァンの返事を待つことなく列車のある方へスタスタと歩いて行ってしまった。
瑞希、大輔、ヴァンの3人は一瞬顔を見合わせ困惑の表情を見せたものの、素直にミクの後に続くのであった────。
次回投稿
12月1日(20時予定)です。




