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【閑話】寝起きの悪いとある少女の一日(2/2)

そして帰宅時間────。

一人また一人と帰宅する中、ファーシャはいつも最後まで残り続ける。

家に帰ったところでやる事も無いと言うのも理由の1つではあるものの、それ以上にファーシャは研究が好きなのである。

偶に研究室に寝泊まりする事もあるが、都度ミクから注意を受けている。

最近ではベッドの改良と共に如何にミクに報告されず(バレず)に研究室に居残る事が出来るのかも研究の1つである。

「そろそろ帰宅する。必要な物はいつもの水だけで大丈夫?」

『土の入れ替えも検討したいところだけど、今の所はまだ大丈夫ね。水だけで十分よ』

「必要なら入れ替える」

研究室に残る為の言い訳にも使えると思ったファーシャはエレノアに土の入れ替えを提案する。

『まだ数日は大丈夫。近いうちにお願いするわ』

エレノアの返答を聞き、少し残念そうな表情を見せるファーシャ。

ファーシャは短く「そう……」と返すと帰宅する為の片付けをする。


道具などを粗方片付け終わり、エレノアに「また明日」と挨拶をし、帰宅をする。

エレノアはファーシャに『おつかれー。またね』と軽い挨拶を返す。


時刻は21時前……。

自室に戻ったファーシャは脇目も振らずに机へと向かう。

席に着いたファーシャは手慣れた様子で荒れた机の上から目的のノートを引っ張り出す。

ノートの表紙には『Eleanor』の文字が確認出来た。

ファーシャはパラパラとページを捲り、ノートを広げる。

ノートには日付やら何やらがびっしりと日記の様に書かれているが、表紙の文字から推測するに恐らくエレノアについての事だろう。

ファーシャは最後のページの続きに今日の日付を書き始め、その次に今日の研究結果などを書き連ねる。

普段は研究室で行う作業だが、現在は研究対象エレノアが目の前に居るので自室にて研究結果をまとめている。

無論、研究結果のみの記述ならば研究室での作業でも問題ないのだが、その他エレノアについてのあれやこれやファーシャの私見も記述している為、本人に見られたくないのだろう。


ファーシャはエレノアに研究の進捗について聞かれても「分からない」と答える事が多いが、実はそんな事はない。

念話自体は珍しい物だが、先人の研究も相まってある程度の所までは解明出来ている。

問題なのは自動翻訳の方である。

バイリンガルやトリリンガルの様に複数の言語を扱える者は珍しくない。

ファーシャ自身、ミクとの会話用にある程度の日本語を理解しているし、他の研究者との意思疎通の為、日常生活レベルとはいかないまでも挨拶程度であれば問題なく話す事は出来る。

だが、エレノアの能力は特異すぎるのだ。

聞き手によって聞こえる言語が異なる。エレノアが1つの言葉を念話で発すると、10種族居れば10種族それぞれの言語で変換される。

それは10の言語を1度に聞こえる訳ではなく、他の9言語は聞こえない。

自身にとって最も適切な言語のみが聞こえてくる。

それだけでなく、エレノアに対する言葉も自動翻訳され、エレノアに伝わっている。

此処まで完璧な翻訳能力はファーシャの知る限り前例がない。

この不可思議な翻訳能力については未知な部分が多く、解明の糸口すら見えていない。

ファーシャがエレノアに言う「分からない」の大半はこの翻訳能力の事を指している。


ファーシャ自身の考察や私見、推測を存分に交えた研究レポートを書き上げ、役に立つかは不明だが、エレノアとの会話など今日一日の出来事も最後に軽く記述する。


本日の成果を書き終えた頃、既に時刻は23時近くになっていた。

シャワーを浴び寝ようかと考えたファーシャだが、エレノアとの会話をノートに記述している最中、思い出した事があった。

ファーシャは徐に別のノートを取り出し、何やら書き始めた。

他のページにはベッドの絵や色々な動きを示した図などが描かれている。

恐らく、ファーシャ用の目覚ましベッドのアイデアを書き示すメモ。

新たに書かれた物はバケツの様な絵とその中に波線が描かれている。容器に液体が入っている図だろう。

そこに寝ている人物が書き足され、バケツから書き足された人物の頭へ弧を描くように矢印を書き加え、余白に『Ich() brauche(かすため) Ideen(のアイ) zum(デア)Trocknen(が必要)』と書かれた。

エレノアとの会話を思い出している最中、大輔が言っていた『水を掛けて起こす』アイデアに触発されたのだろう。

改善策が見つかれば導入する可能性があるアイデア。現段階では使い物にならないボツ案だが、後々問題が解決する可能性もある。

念の為に問題点を記述してメモしておく事にした。

一通り記述し終えた後、ファーシャは何か良い案が無いか思考する。

効率よく乾かす方法、濡らさずに済む方法、水以外の液体を使用出来ないか?などなど。

ファーシャは効率よく起床する為、新たな機構を開発すべく日々の研鑽を怠らない。


暫時考え込んでいたファーシャだが、良い改善案は思い浮かばなかった……。


ふと時計が視界に入る。

うに日付が変わり、時刻は1時過ぎ。

そこまで長い間考え込んでいた自覚の無かったファーシャ。

もうこんな時間か……。と思いつつ、就寝の準備をする。

シャワーを浴び、着替えを済ませる。髪を碌に乾かす事無く、半渇きのままベッドに潜る。


ファーシャが完全に眠りに就いたのは午前2時近くであった。

そして、いつものように6時に目覚ましが鳴り響く……。


ファーシャの場合、瑞希とは違い、余計な事をせずに早く就寝すれば全てが解決するような気がするが本人はその事に気が付いていないし、これからも気が付く由はない。


そして、理由は違えどファーシャも瑞希も声を揃えて『朝が苦手』と言うのであった────。




次回投稿


11月1日(20時予定)です。


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