【閑話】寝起きの悪いとある青年の朝のひと時
ピピピピピピッ────。
昨夜セットした時間丁度に目覚ましのアラームが鳴り始める。
これは昨日、ベッドを改装してもらった際に付けてもらった機能である。
ベッドに備え付けられたアラームに停止ボタンは無く、5分経過しない限り止める術はない。
目を瞑ったままの状態で手を伸ばし、「あと5分……」と寝惚けたように呟きながら手探りでアラームを停止させようとしているものの、残念な事にその手は空を切るばかりで何かに当たる事はない。
徐々に大きくなる目覚まし音。
瑞希はアラームを止める事を諦め、自身の頭を枕の下に埋める。
更に大きくなる目覚まし音。
頭を枕の下に埋めるだけでは物足りなかったのか、更にその上から布団をかぶる。
昨日、友人に「音だけで起きる」と豪語していたが、全く起きる様子が無い。
既に「あと5分……」と呟きながらアラームを止めようとしていた時から約5分が経過────。
不意に目覚まし音が止まる。
音が止んだ事で安堵したのか、布団を掴んでいた手の力が抜ける。
次の瞬間────。
カチカチカチカチと規則正しい音が聞こえ、ベッドの片方が上がり始めた。
試運転の時には気が付かなかったが、ベッドに横になっていると意外と揺れる……。
「地震……?」
寝惚けた様子で呟く。
揺れていると言っても震度2~3程度。
地震慣れしている日本人にとってはどうと言う揺れではない。
2~3秒程様子を見ていたが、一向に収まる気配の無い揺れ。
流石に自身慣れしていると言っても多少は不安になる。
上半身を少し起こし、寝ぼけ眼のまま辺りの様子を伺う。
部屋が傾いて見える。
ベッドが傾いているのだから当然である。
寝起きで頭が働かず、理解出来ずにいるのも束の間。
瑞希はベッドから滑り落ちた。
「痛っ」
試運転の時にふざけたエレノアの様に転がる訳ではなく、スライドするように滑り、尻餅をつくように床に落ちた。
ベッドが垂直になるまでは10秒ほどの時間が必要だったが、それよりも前の段階で滑り落ちるのは必然であるが、試運転の時は誰も気が付かなかった……。
尻を打った痛みで目が醒めた瑞希だが、まだ何が起きたのか理解するまでには至っていない。
そんな瑞希に追い打ちをかける様にシーツが瑞希目掛け落下。
瑞希はシーツの下から脱出を試みる。
……と言っても普通に立ち上がっただけだ。
流石の瑞希もここまで動けば目が醒めたようで、辺りを見渡し現状を完全に理解した。
「なんか思ってたのと違う……」
瑞希の想定では試運転時のエレノアの様に転がり落ち、床の冷たさとベッドにはない硬さで目が醒めるはずであった。
だが、現実は違った。
単に落とされ痛い思いをしたのみだった。
そんな理想と現実の違いに多少の戸惑いを感じ、ポツリと口から出た本音。
しかし、このベッドのおかげで時間通り起きる事が出来たのも確かである。
複雑な気持ちを抱えながら、瑞希は朝の支度を済ませる。
多少の空腹感を覚えながら玄関扉を開ける。
そこには瑞希を待つ大輔の姿があった。
「おっ、ちゃんと起きたか。偉い。偉い」
大輔は自力(?)で起床した瑞希を茶化しながらも褒める。
「別に偉くないって。普通に起きるって言ったじゃん」
偉くないのはその通りではあるものの、普通に起きる事が出来たとは言い難い状況。
昨日の強がった発言があった手前、正直に今朝の出来事を伝える事なく嘘を吐く。
大輔は瑞希の発言に興味を示さず「ふーん……。まあ、起きたなら何でもいいや。腹減ったから飯食いに行こうぜ」と言い、朝食を食べに仲良く社食へと足を運ぶ瑞希と大輔であった────。
閑話3話
1日1話連日投稿予定(更新は20時設定済)