動作確認も無事に完了した第117話
工房────。
『たのもー』
今回はエレノア自ら扉を開こうとはせず、ミクの頭の上から威勢の良い掛け声のみである。
エレノアの事を気にする素振りも見せず、ミクが戸を開け中に入る。
「なんか見方によってはミクがエレノアに操縦されてるようにも見えるな」
一連の行動を目にした大輔が率直な意見を呟く。
「ハリガネムシとかの寄生虫みたいな?」
「エレノアは植物だからヤドリギとか冬虫夏草かな」
ミクが酔っ払いドワーフを呼び出しているものの、待ち時間の暇つぶしなのか、大輔の呟きに瑞希が乗っかり、冗談話が続いている。
『本当にアンタらときたら……。ミク、アンタ部下の教育しっかりしないと後で痛い目見るわよ。今のうちにビシッと注意しておきなさい』
2人の馬鹿話に呆れるエレノア。
「エレノアサマ、テンサイ。エレノアサマ、ノ、イウトオリ。ミズキ、ダイスケ、キョウイクテキシドウ」
ミクは瑞希と大輔を咎める事をせず、操られている雰囲気を演出する為か棒読み風な喋り方で2人の冗談に乗る。
「既に脳にまでエレノアの根が……。残念だが、ミクは手遅れだな」
そんな冗談で時間を潰しているとベッドを改造したであろう2人のドワーフが姿を現した。
言うまでも無く、そのうちの1人は酔っ払いドワーフであり、もう1人のドワーフに肩を借りながら歩いてきた。
「また飲んでる……」
その様子を見た瑞希は呆れ顔である。
……いや、瑞希以外も(周囲のドワーフ含め)呆れ顔である……。
「Was ist los?」
呼び出されて不機嫌そうな酔っ払いドワーフ。
ぶっきらぼうに用件を聞く。
ミクはこれまでの経緯を軽く説明。使用方法が不明なので説明書の類が欲しい事を告げる。
『とりあえず、試運転したけど元に戻せないから戻す方法を教えなさい』
ミクの説明の後、エレノアがドワーフたちに聞くべき最優先事項を付け加える。
「Entwickelt, um nach einer Stunde in seinen ursprünglichen Zustand zurückzukehren」
エレノアの質問に酔っ払いドワーフの代わりに肩を貸していたドワーフが答える。
「何て?」
日本語以外分からない瑞希。
相変わらずエレノアの翻訳任せである。
『放っておけば1時間後に戻るって言ってるわ』
「1時間?じゃあ、普段寝る時どうするの?」
「それを防止する為に作ってもらったんだろ。2度寝しようとすな」
瑞希の発言にツッコミを入れる大輔。
そして、2人の一連のやり取りを見ていたミクは頭を抱えている……。
その後もドワーフたち(主に素面のドワーフ)から説明を受けた。
話し合いの結果、追加された機能はタイマー、アラーム、ベッドの自動傾斜のみで瑞希たちが試運転で使用したものがほぼ全てだった。
唯一使用していなかった機能と言えば傾斜方向を左右変更出来るもののみで、部屋の模様替えなどでベッドの位置を変更しない限り使用しないものであった。
口頭での説明で十分理解出来た瑞希。
最終的に説明書は不要と言う事で話はまとまり、ベッドが元の状態に戻っているのかを確認する為、一行は再度瑞希の部屋へと戻るのであった────。
瑞希の部屋へ戻り、ベッドの様子を確認する一行。
ドワーフから説明を受け、戻ってきたは良いがまだ1時間が経過していなかった。
ドワーフの説明を信じて大輔たち帰宅しても良かったのだが、念の為とベッドが元に戻るのを確認出来るまで瑞希の部屋で待機していた。
そしてその時は来た。
目覚ましが起動して1時間────。
「言った通り自動で戻ったな」
1時間が経過すると徐々にベッド傾斜が緩くなり、最終的には床に水平の位置まで戻ったのである。
「布団が落ちたままなんだけど?」
「それはしゃあないやろ。起きない瑞希が悪い。面倒でも毎日ベッドメイクしろ。せっかく作ってもらったんだから床で寝るなんて野暮な真似はするなよ」
瑞希の寝起きに関して一切容赦する様子の無い大輔。
「妾としてはしっかりと働くなら床で寝ようと何処で寝ようと文句はない」
ミクに関しては瑞希が遅刻せずに働くか否か以外興味がないようだ。
「……」
何か言いたげな瑞希だが、言ったところで相手にされない事を理解しているようで、床に落ちた布団を畳みベッドの上に置く。
「じゃあ、今日は解散だな」
大輔の一声で一同は解散する流れとなった。
エレノアは相変わらずミクの頭の上。
ミクはそれを気にする素振りも見せず、エレノアを頭に乗せたまま帰路に就く。
大輔は最後に一言「じゃあ、明日は8時頃に玄関前に集合な」と言い、瑞希の部屋を後にするのであった────。
10月1日(20時予定)です。