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食材以外は何の変哲も無い食事風景だと思う第115話

暫くすると店員が水の入ったピッチャーと人数分のコップを持ってきた。

ミクはコップに水を注ぎエレノアに渡す。

エレノアは手渡された水を口に運ぶ。

『あら?これは店の気遣いかしら?』

「どうかしたの?」

『多分飲めば分かるわよ』

瑞希の質問に明確な回答を控えるエレノア。

仕方なく瑞希はコップに水を注ぎ一口飲むことにした。

「あっ、良い香り。柑橘系の何かだね。レモン水かな?」

「良い水がご希望だったので注文したのだが、口に合わなかったか?」

『そんな事ないわよ。水のミネラル分も言う事なし。果実からの栄養分も程よく溶け出ているし、口当たりも悪くないわ』

「ご満足いただけたようで何よりだ」

「でも、意外。ヴァンくんの所に居た時は沐浴してたから水分補給時は全身浸かるのかと思ってたけど、普通に飲むんだね」

『時と場合によるわね。只、普通に飲んだ方が吸収効率などは良いわ。水と時間に余裕があるなら全身浸かった方が水分補給に栄養補給、リラックス効果もあって心身ともに回復するからそっちの方が良いわね』

「人間の入浴とまんま同じ感じだな。まあ、人間の場合は水分補給や栄養補給は出来ないけどな」


水の味から取り留めのない雑談に移り、あれやこれやと話していると瑞希たちの料理も運ばれてきた。

「いただきm……」

「材料についてだが……おっと失礼」

瑞希の食事前の挨拶とミクの発言が被る。

瑞希は両手を合わせた状態で停止している。

ミクは瑞希の邪魔をしてしまった事を詫び、瑞希に続けるように手振りをした。

「……ます」

始めから言い直すのではなく、言えなかった2文字だけを口にする瑞希。

「で?材料が何だって?」

瑞希が言い終わったのを確認した大輔がミクに先程の発言の続きを促す。

「食する前と後のどちらで聞きたいか聞こうとしただけだ」

「どっちでも変わらない様な……」

「まあ、瑞希は聞いても想像出来ない可能性もあるけど、俺は知ってる可能性もあるからな。食べても何の魚かは分からんだろうけど、ドキドキ感だよな。せっかくなら一口食べてからにしたいかな」

「僕はどっちでも良いし、大輔がそうしたいなら、それで良いよ」

「了解した。では大輔が食してから正解発表としよう」

方針が決まったところで大輔が魚肉を口に運ぶ。

瑞希とミクはその様子を注視している。

「只の食事なんだから注目すんな。無駄に緊張するだろ」

瑞希とミクは軽く謝罪をし、大輔から目を逸らす。

しかし、直視をしていないだけで自分たちの目の前にある料理には手を付ける気配がない。

大輔は諦め、「はぁ……」と溜息を吐いた後、意を決して料理を食べた。

「どう?」

大輔に料理の感想を求める瑞希。

「どうって言われても、普通の白身魚だなって感想しかないな。いつも食べてる物よりは実がしっかりしてるって言うか何と言うか……。多分、元の世界には居ない生き物だとは思うけど、何かって聞かれても予想出来ん」

瑞希は大輔の感想を聞きつつ、一口食べてみる。

一般人と比べても食に関する知識もこだわりもあまりない。それに加え、大輔と比べ妖怪やモンスターなどに関する知識も乏しい。

そんな瑞希が何の魚かを当てるのは不可能に近い。

「なんか弾力があって鰻みたいな感じ」

瑞希は一言感想を述べた後はミクの正解発表を待ちつつ、ミクに注文を一任したサラダに手を伸ばしつつ無言のまま食べ進める。


大輔とミクも食事に集中しているのか会話が始まる気配がない。

「あの……。正解は?」

ミクの正解発表が始まると想像していた瑞希だが、一向に始まる気配が感じられなかったので質問をしてみた。

「言っても良かったのか?何処となく予想する雰囲気があったから黙っていたのだが」

ミクの返答を聞き、瑞希は大輔の様子をチラリと確認する。

大輔は瑞希の視線に気付き、両手を上げアピール。

大輔も予想する事を放棄しているようだ。

「はい、大丈夫です」

大輔の反応を確認した瑞希がミクに返答をする。

「では、正解を教えよう。瑞希が食したのがトゥナで大輔の方がシャチだ」

「ツナとシャチ?シャチってあの凶悪な顔つきのイルカみたいな?イルカを食べる地域もあるって話だからシャチも食べられるのかな?ツナはマグロ?カツオ?」

「身の感じからの推測だが多分違うぞ。シャチはシャチでも名古屋城の屋根にあるようなシャチホコ。多分アレの事だ。あと、ツナじゃねー。トゥナだ。トゥナ・ロア。人の姿にもなれる鰻の神だな。瑞希が鰻みたいって感想は当たらずとも遠からずって感じか。それはそうと、シャチの表現は何とかならなかったか?海のギャングとか他にも表現方法あっただろ」

瑞希の間違いを正しつつ、モンスターの説明を付け加える大輔。

瑞希は大輔の説明を聞き、城の屋根に飾られているシャチホコを想像して「あー……アレか」と納得する。

しかし、トゥナに至っては巨大な鰻に王冠と杖。顔には立派な白髭。と言った全く見当違いの想像している。

大輔が瑞希の想像したトゥナを見たら「それは神じゃなくて王様だろ!」とツッコミを入れているだろう……。

「へー……人の姿に?食べて大丈夫なの?倫理的に」

大輔の説明を聞いた瑞希はトゥナを食べても問題ないのか疑問なようだ。

シャチの説明についてのツッコミは完全にスルーしている。

そして、神云々よりも人の形をとるか否か。瑞希の懸念点が少しズレている気もするが、それはそれで瑞希らしい気もする。

更に瑞希の言い方では倫理的に許されるのであれば神であろうと何であろうと食べても問題が無いとも解釈出来る。

但し、瑞希がどのような意図をもって発言したのかは不明である。

瑞希の事なので何も考えていない可能性は高い。

「問題ないぞ。人の姿にはならんからな。しかし、如何なる生物でも長生きすれば様々な能力が発現する可能性はある。一部にはそのような個体がいるのかもしれぬが提供されているトゥナは問題ない」

大輔の説明を聞いて以降、トゥナの肉を観察していた瑞希。

ミクの発言を聞いて安心したのか、中断していた食事を再開した。


暫くは他愛のない雑談が続いていたが、唐突に大輔が話題を変更した。

「そう言えば、明日も倉庫作業で良いのか?1つの場所で3日前後って言われてた気がするが」

「そうだな。明日も倉庫の予定だ。一部の職を除き、倉庫が行動の根底になる事が多いので倉庫作業は少し長めに予定してある。予定では明日を含めて後3日程は倉庫で働いてもらうつもりだ。時間に余裕がある時に倉庫内を散策して物の凡その位置を覚えてもらえると助かる」

「クッションもオウキーニに案内してもらって漸く見つかったもんね」

「そう言えばそうだったな。確かにピッキング頼まれたり、物を持ってくる様に頼まれたりしても場所が分からないんじゃあ何も始まらんからな」

瑞希と大輔もミクの意見に同意する。

「その後の予定は研究室での手伝い。主に物を運んだり、必要な物を揃えたり、実験の手伝いなどだな。次に農業。農作業をしてから決めてもらって問題ないが、希望とあらば畜産業を農作業の後に入れる予定だ。ワイバーン等の世話なども任せるつもりだが、興味がないならやらなくてm……」

「やりたい。いや、やるべきだ。絶対にやる。是非研修プログラムに組み込んでくれ」

即座に反応する大輔。

恐らく、興味云々は大輔に向けての言葉ではなく、瑞希へ向けての言葉だろう。

事実、ミクも大輔の食い気味な反応を予見していたようで、皆まで言わんでも理解していると言わんばかりに片手を軽く上げただけの反応に留まる。

「あとは営業販売の手伝い。町の美化活動や食堂の厨房の手伝い、警備などもやってもらいたいところだが、それは適正が見つからなかった時に考えるとしよう」

大輔を軽くあしらい話を続けるミク。

その後は各職場の雰囲気や特色などの話で盛り上がった────。


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