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意外と早く(?)ワイバーンの撮影が終わる第112話

正面からの撮影を開始し、十数分────。

「何時までやるつもりだ?」

大輔の撮影を見ていたミクが瑞希に問う。

「納得いくまでかと……」

『そう言えばヴァン様のおうちを出る時も馬の周りで長々と何かやっていたわね』

「あー……。ってエレノア見てたんだ……」

エレノアの一言で馬骨撮影時の記憶が想起される瑞希。

大人しく撮影されていたワイバーンも目の前でウロチョロとする大輔と伏せた状態の煩わしさと飽きから時折大きな欠伸をしている。

大輔以外の全員が飽き始め、雑談を始めたそんな折、漸く大輔納得の1枚が撮れたようだ。

大輔は満足気に瑞希にスマホを渡す。

意外と早く終わったと安心する瑞希は渡されたスマホを受け取る。

ワイバーンの撮影だけで20分近く待たされている。馬骨や剣の撮影の所為で瑞希の感覚がおかしくなっているだけだ……。

「迫力があって良い写真だね」

スマホを渡された瑞希は大輔の撮影したワイバーンの画像の感想を述べる。

大きな口を開けて迫力があるのは間違いないが、真実は只の欠伸である……。

「違う、感想なんて聞いてねーよ。俺とワイバーンの写真を撮ってくれって渡しただけだ」

瑞希にワイバーンと大輔とのツーショットの撮影を任せる事は予想出来てはいたが、感想も求めていると考えた瑞希の早合点だったようだ。

瑞希も大輔の言葉を聞いて「はいはい」と快諾。

ミクとエレノアは、まだやるのか……。とうんざりした様子である。


一同の予想に反し、十数回の撮り直しで大輔の承認を得る事が出来た。

その後、瑞希は大輔にスマホを返し、自身のスマホを構える。

いつもの構図の中心にワイバーンを据え置いた1枚を撮影。

こうしてワイバーンの撮影会は終了した。


しかし……。

「どうせなら飛んでる姿を撮影したかったな。ミク、何とかならないか?」

皮翼を触れた事で味を占めたのか、今回は直接ミクに願い出る。

「今は無理だな。朝か、もう少し遅くなら見る事が出来る可能性が高いな」

「朝と夕方に飛行訓練とかをするんですか?」

「いや、少し遠くの取引先まで商売をしに行っている者が出入りする姿が見られるだけだ。飛行訓練はワイバーンの成長具合にもよるし、1度飛行に成功してしまえば訓練の必要も無い。飛行訓練をする期間は限られている」

「そこを何とか」

大輔は両手をスリスリと擦り合わせながら拝み倒している。

「と言われても放牧時のワイバーンは鞍もついてないし、自由に飛び回らせても事故が増えるだけだから基本的には禁止している。安全策を講じて事前の許可を取っている場合と緊急時は別だが、今は平時で事前の許可も無いから無理だな。社員の模範となるべき妾が率先して規則を破る訳にはいかんのだよ」

「そんな……」

大輔は力なく膝から崩れ落ち、四つん這いのような状態になりガックリと項垂うなだれる。

全身から無念さと悲壮感が滲み出ている……。

「そこまで落ち込むほどでもなくない?だって、朝夕は飛んでるんでしょ?撮影する機会なんて幾らでもあるって事だよ。それに、安全を確保出来れば大輔だってワイバーンに乗って飛ぶ事も出来るって話だよ」

落ち込む大輔を励ます瑞希。

「なるほど!確かに一理ある。俺もドラゴンに乗る日が……」

瑞希の励ましを聞き、大輔は顔をあげる。

そして、正座の状態で両手をポンッと合わせ、瑞希の意見に納得する。

その後はワイバーンに乗って飛行している妄想にふけっているのか、「うへへへへへ……」と今にも垂涎しそうな程の気持ちの悪い笑みを浮かべながら虚空を眺めている。

『うわっ……。キッッモ』

大輔の感情の落差には瑞希、ミク、エレノアの3人もドン引きである。

エレノアに至っては本音が口に出てしまっているが瑞希もミクもエレノアを咎める事はない……。

幸か不幸かエレノアの声が妄想に浸る大輔に届く事も無かったようだ……。


暫く大輔の処置について3人で相談していたが、どうやら自力で妄想世界から戻ってきたようだ。

「3人で何話してんだ?」

「「『……』」」

シレッと正常に戻る大輔に呆れて声も出ない3人。

『大輔置いて先に行こうって話をしていただけよ』

嘘である。

本当は誰がどのような手段で大輔の正気を取り戻させるか、責任の押し付け合いをしていたのだが、その手段などが決まる前に大輔が正気を取り戻しただけであった。

しかし、何事も無かったかのような態度の大輔に対し、エレノアは怒りと言うべきか悪感情と言うべきか、反省させたい気持ちになったのだろう。

「何でだよ」

何故か大輔の怒りの矛先はエレノアではなく瑞希に向かい、理由を問いかける。

「えーっと、何でって言われても……。ねぇ?」

そもそも、そんな話はしておらず、エレノアの出任せである。

正直に「そんな話はしていない」と言えば良かったのだが、思いもよらぬ展開にたじろぎ、咄嗟の判断でいつものなあなあな態度でやり過ごそうとした。

最後の「ねぇ?」の部分でミクの方へ顔を向け、ミクに助けを求めようと試みたのだが、ミクは瑞希とも大輔とも視線が合わぬよう明後日の方向を向き、我関せずの様相を呈している。

問題を作り出したエレノアに視線を向けるものの、エレノアは既に興味を無くしたらしく、ワイバーンの周囲を飛び回りちょっかいをかけている。

ワイバーンは大輔の撮影に疲れた所為か、エレノアに全く興味を示さず、伏せの態勢から完全に顔を地面に付け欠伸をし、今にも眠りそうな雰囲気である。

こうなると瑞希は「はははは……」と乾いた笑いで誤魔化す他無かった。

「まあ、良いや。ミク、この後はどうするんだ?そろそろ帰宅して瑞希のベッドの様子の確認か?」

大輔も瑞希の態度を見て深く言及する気も失せたようで、今後の予定についてミクに尋ねた。

「それでも良いが厩舎内の見学も可能だぞ」

「見れるなら見たいな」

「ベッド完成してたらドワーフさんたちを待たせるので失礼じゃないですか?」

ミクの完成予想の時間まではまだ十分にある。

だが、大輔が厩舎内の見学に夢中になってしまった場合、時間がいくらあっても足りなくなる恐れがある。

それを危惧した瑞希はやんわりと帰路に就く方向へ話を進めたかった。

「それなら問題なかろう。仕事が終われば勝手に変える。支払いは後日工房に出向くも良し、妾に言えば処理してやるぞ。どちらにせよ今の所持金では不足しているから分割になるだろう。明日からもしっかり働いて支払う様に」

「まあ、それなら」

ドワーフに対して失礼に当たらない事が判明したので時間的制約はなくなった。

瑞希もワイバーンの厩舎に興味が無い訳ではないので見学に同意。

一行は放牧中のワイバーンに別れを告げ厩舎へと向かうのであった。


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