大輔念願のワイバーンと接触する第111話
その後、ワイバーンの厩舎へと移動しつつ、道中にある畑で栽培している他の作物の見学などをして回った。
畑地帯を抜け、開けた草原のような風景が広がる。
ミクの説明によると、これより先が騎乗用の動物の飼育施設で、現在地は放牧地の端になるとの事。
「と、まあ、こんな感じで町の周りに農作地帯、農作地帯の周りに厩舎や実験場などの大型施設になっている。農作地を見た感想とかはあるか?」
「よう分からん」
「だよね。根菜とか葉物野菜とかの分類は理解出来るけど、見た事ない野菜が沢山。味も想像できないね」
結局、畑の見学をしたところで瑞希と大輔の2人には何も理解は出来なかった。
しかし、理解が出来なかったと言うだけで、何の面白味が無かったわけでもなく、見た事も無い作物を見るのはそれ相応に楽しかったのも事実。
作物自体の味や栽培方法や収穫方法などについての興味も沸いてきたが、ミクの話では農作業も研修の1つとして盛り込まれていると言う事だったので性急に話を進める必要も無かった。
「そうか。では、大輔お待ちかねのワイバーンの厩舎へ入るとするか。厩舎はあそこに見える建物だ」
ミクが指差す方向には少し遠いが、遠目にも相当な大きさだと分かる建物がある。
これは町全体に言える事だが、多種多様な種族が暮らすこの町の建造物は大型の種族にも対応出来るように大きい物が多い。
今まで見てきた商会の本社を除く建物の中でも一際大きいと感じさせる厩舎。厩舎の高さは然る事ながら、それ以上に幅の長さは圧巻である。
横幅は優に500mを越えており、城壁の一部だと説明されたとしても何の疑問もなく受け入れてしまう程の大きさである。
「待ってました!」
待ちに待ったワイバーンとの対面。
大輔のテンションも瀑上がりだ。
厩舎の規模感からしても期待に胸が膨らむのも致し方ないだろう。
厩舎に近づくにつれ、ワイバーンの姿が散見されるようになってきた。
「瑞希、見ろ。マジでヤバイ。本物だ。動いてる」
興奮を抑えきれない大輔が瑞希の肩を揺らしながら感動を共有しようと感想を述べる。
興奮のあまり語彙力が残念になるのは相変わらずのようだ……。
瑞希も遠目にワイバーンを確認した時、興奮と感動に浸りたかったのだが、大輔に肩を揺さぶられ、頭の座っていない赤ん坊の様に首をガクガクとされている今となっては「そだねー。見えてるよー」と大輔に返答しつつ、どうすれば大輔に不快感を与えずに今の状況を打破出来るのかに思考を巡らせるのに必死で興奮と感動は薄れてしまっている。
「うぉー!!!デカい!触って良いか!?撮影は!?」
放牧中のワイバーンの1匹に目と鼻の先まで近づいた一行。
大輔の興奮度もMax。語彙力も相変わらず残念なままだ。
「落ち着け。あまり大きな声を出して驚かすな。ドラゴンの中でも小型とは言え、ドラゴンに変わりない。急な動きや大きい声は威嚇行為と認識される恐れがある。下手に近づいて攻撃されると、お前たちの場合最悪死ぬぞ」
興奮醒めやらぬ大輔を宥める様にミクが注意を促す。
ミクの注意を受けた大輔は一歩退いた。
興奮のあまり語彙力が低下している事実は否めないが、飼育されているとはいえワイバーンに対する認識の甘さを正し、行動を律する事出来る程度には理性を保てているようだ。
ミクの後に続き、大輔、瑞希、エレノアの3人はゆっくりとワイバーンへと近づいていく。
ワイバーンの横に辿り着いたミクはワイバーンの頭を軽く撫でる。
「触っても大丈夫なのか?撮影は?」
自分も触りたくて仕方がない大輔はウズウズする気持ちをグッと我慢し、ミクへと問いかける。
「機嫌も悪く無さそうだし問題ないだろう。くれぐれも大きい声など威嚇と捉えられかねない行動はするなよ」
「よっ!!……っしゃー」
ミクの返答を聞き、喜び勇みそうになった大輔だが、既での所で口を塞ぎ、慌てて小声と控えめなガッツポーズで喜びを表現した。
しかし、第一声は抑えきれず、一瞬ワイバーンに不快そうな顔で睨まれてしまった。
いざと言う時に対処出来るようにミクがワイバーンの横で監視をする中、大輔はゆっくりとワイバーンの下顎に手を伸ばす。
大輔の手が触れても嫌がる様子を見せないワイバーン。
気を良くした大輔は少しずつ大胆に撫で回し、ワイバーンを堪能し始めた。
「柔らかい所はトカゲと似てモチモチだな。若干ワイバーンの方がザラザラしてる気はする。トカゲよりも肌のキメが粗いのかな。鱗に至っては比べ物にならないな。1枚1枚大きいし、固い。爪と牙も鋭いし、翼もある。やっぱりドラゴンは恐竜って感じだな。プテラノドンとかが独自進化するとこんな感じになるのかな?翼も触ってみたいけど、無理矢理広げるのは腕力的にも無理そうだし、抵抗されても困るしなー。羽広げてくれないかなー。どうにかならんかなー……」
大輔はブツブツと考察と感想を述べた後、序でに自身の願望を呟きながらミクの事をチラチラと見ている。
大輔としては無理な願いだと認識している負い目があるのだろう。
要約するとミクにワイバーンの翼を広げてほしいと言いたいのだ。
ミクは直接言えば良い物を……。と呆れながらジェスチャーを交えながらワイバーンに伏せる様に言い聞かせる。
大人しく座っていたワイバーンが伏せの姿勢を取った事でワイバーンの皮翼が露わになった。
大輔の認識とは裏腹にミクはワイバーンを手懐けている。
正確に表現するとミクではなく、ワイバーンを飼育している飼育員の賜物なのだろう。
「うぉっ!デカッ」
ワイバーンの皮翼に触れる感動よりも先に、翼の大きさに驚く大輔。
それもそのはずで、座っていた時の体長は3~4m程度だったワイバーンだが、翼開長は10m近くなる。個体差にもよるが10mを優に超えるようなワイバーンも存在する。
完全に皮翼を広げた訳ではないが、それでも相当な大きさである。
大輔は恐る恐るワイバーンの皮翼を触ってみる。
「意外とツルツルと言うかスベスベと言うか、なんか皮膚って感じだな」
「そう言えばプテラノドンの翼も指が発達して皮膚みたいな膜?が張られて翼になったって何かで見た事ある気がする。ワイバーンも同じなのかもね」
大輔の感想を聞いた瑞希が何処かで聞きかじった知識を披露する。
「へー……。河童の水かきの翼バージョンって感じかな?」
「河童は知らないけど、水泳選手とかでも偶に水かきが発達するって聞いた事あるし、そんな感じなのかもね」
その後、暫くワイバーンの皮翼を堪能した大輔。
「よし、撮影、撮影」
大輔はポケットからスマホを取り出し、ワイバーンの撮影に入る。
ワイバーンを中心にぐるりと一周回りながらの撮影。
一周回って撮影をし、改めて画像を見直してみるものの、やはりと言うか当然と言うか後方からの撮影に面白味はない。
横から全身が映るように撮った物と斜め後ろから撮った画像を各1枚ずつ残し、それ以外を削除。
いよいよ本命。正面からの撮影を再度試みる事になった。