作物の見学をしたら衝撃的な場面に遭遇した第110話
「何で肉が生えてんだよ!」
「すごいねー。しかもマンガ肉だよ」
そう、地面からマンガ肉の半分が見える状態で植わっていた。
しかも、その数は1つや2つではなく、見えている範囲だけでも数十㎡単位の広大な肉畑が広がっている。
「説明した通りだろう?畑の肉だと。お前たちの言う所の『ダイズミート』と言うやつであろう?」
「そうだけど、そうじゃねーよ!畑の肉って言うのは大豆の別称で、俺たちがダイズミートって呼んでるのは大豆を加工して肉の味と触感を再現した物であって、直接肉が畑から生えてる光景なんて想像してねーから!どこのデジタルワールドだよ!」
混乱する頭でどうにかツッコミを入れる大輔。
『ヴァン様の所の土に比べたら雲泥の差だけど中々に良質な土ね』
大輔のツッコミなど露ほども気にする素振りも見せず、土壌の確認を行うエレノア。
「……もう、いいや」
大輔はポツリとあきらめの言葉を口にする。
只でさえ情報過多な状況だったが、マイペースなエレノアの所為でツッコミが追い付かない。
思考能力と処理能力の限界に達した大輔は作物に対するツッコミも何も気にする素振りを見せないエレノアに対するツッコミも全てを諦め、思考すらも放棄した。
何が起ころうと此処は異世界。どんな植物や生物が居ようとも異世界。そう割り切り、受け入れる事で大輔は平常心を取り戻そうとしているようだ。
「その土にはだな、管理人の一部を肥料として混ぜ込んでいるのだ」
「管理人?宿舎の管理人のスライムさんですか?畑の管理をしている方ですか?」
「宿舎の管理人だ。清掃やら洗濯やらの仕事を頼んでいるのだが、スライムの特性上、汚れなどを食せば食しただけ肥大化するからな。核分裂を行って増殖するのが常だが、増殖されても仕事に限りがある。それならばと核分裂を行わない代わりに不要となる部分を定期的に分離してもらい、土に混ぜて肥料にさせてもらっている。言い方は悪いが管理人の老廃物だな」
思考を放棄し、呆けている大輔を他所に瑞希とミクが土壌についての話をする。
エレノアは土を捏ねたり、ペチペチと叩いたりしながら入念に観察を続けている。
「ヴァンくんがゴーレムを破壊する時に魔力が籠るって聞きましたが、スライムって魔力量が多いんですか?」
「それもスライムの習性で食した有機物や大気中の魔力を体内に取り込み、溜め込むからな。大きさに比例して魔力の最大貯蔵量も増える。管理人は相当な大きさだからな。それ相応に魔力量があるぞ」
「大きい?僕たちと同じくらいの大きさだった気が……。あっ!一般的なスライムの中ではって話ですね。確かに想像上のスライムってバスケットボールとかバレーボール位の大きさ。両手に乗れそうな程度ってイメージ」
「いや、表に出てくるのはほんの一部。本体は比べ物にならないくらい大きい。管理人の居る建物の────」
「何で瑞希はサラッと受け入れとんねん!」
思考を回復した大輔が瑞希にツッコミを入れる。
管理人のスライムの話をしていた瑞希とミクの2人は急な大輔のツッコミにビクッとした反応を見せる。
「何が?」
「何が?ちゃうやろ。肉が植わっとんねん。もっとこうあるだろ。あまりにも異様すぎる光景だろ」
「今更?異世界だし、そんな事言ったら山彦から始まって、ゾンビ、ヴァンくん、エレノアにミクさん、他にもドリュアスさんとかオウキーニ、町の全員にまでツッコミ入れないといけなくなるよ?」
正論過ぎる瑞希の反論。
良くも悪くもぬらりくらりとした性格が瑞希らしさであり、瑞希なりの処世術でもあるのだろう。
「ぐぬぬ……」
大輔も瑞希の意見に反論出来ない。
「そう言えば、倉庫の仕分け作業で第二倉庫に持って行く荷物にこの肉?野菜?が無かった気が……」
「第二倉庫は外から持ってきた生鮮食品の置き場に近いからな。町で育てている野菜を出荷する場合は当日収穫だな。食堂などで使用する分も当日収穫しに来るぞ。お前らも料理をするなら畑で働いている者に言えば持って行って問題ない。料金を支払う必要はないが、社員証の提示は必須だ」
「僕は料理出来ないから関係があるとしたら大輔だけだね」
「出来ないんじゃなくてやらないだけだろ。料理なんて小学校の家庭科の授業でもやるんだし、やる気の問題だろ。まあ、今は調理器具の問題とかもあるし、此処での生活に慣れるまでは俺も料理をする気は無いな」
「そうか。エレノアの方は気が済んだか?」
『この土でも十分だけど、ヴァン様の方の土の方が断然肌に良いわね』
「肌……?前から思ってたんだけど、エレノアの頭……って言うか花の部分から下って根っこ?初めて会った時も地面に埋まってたし、休む時も埋まるよね」
『はぁ……。ヤダヤダ。これだからデリカシーの無い男って嫌いなのよ』
エレノアは明言を避け、瑞希の質問をかわす。
「そう言う事なら、土の入れ替えをする時はファーシャに頼むと良い。坊やから資金の使用を許可されているようだから、エレノアの好みの土に入れ替えてもらえ」
ミクはエレノアの胴体が根っこだろうと肌だろうと関係が無いので、エレノアの寝床の土についての話を進める事にした。




