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回復魔法を実見した第108話

瑞希たちは、今後の予定について暫く話し合った結果、まだ回っていない場所の案内をミクにしてもらう事になった。

「……って何でエレノアも居るの?ファーシャさんと一緒に居なくても良いの?」

『へーきへーき。ファーシャが何かやったとしても見てるか話し相手になるか実験に付き合わされるだけだからね。こっちに居た方が楽しそう。休息日ってやつよ』

「今の発言を聞く限り休息取る必要無さs……」

途中まで言い掛けた言葉だが、エレノアにキッと一睨みされ黙る瑞希。

最後まで行ったところで『うるさい』と言われるのがオチだと理解した上で口を閉ざした。

エレノアは瑞希が沈黙した事で満足したのか『何処に行くの?』とワクテカした表情でミクに質問をしている。

「じゃあ町の案内の続きだな」

「案内していない施設か……。農場に牧場、病院。託児所……は2人には関係無さそうだから、公園、警備の詰所、訓練所とかだな。何か気になるものはあるか?今、案内せずとも行く行くは研修で回りそうな場所が多いな」

「どうせなら、仕事とは関係無さそうな場所が良いよね。病院とか公園?病院は万が一の時の為にも場所は覚えていた方が良いよね」

「逆じゃね?今のうちに場所とか把握した方が後々楽だろ。農場とか牧場って何育ててるんだ?」

瑞希と大輔で意見が食い違う。

これは2人の考え方の違いであって、どちらが正しいとか間違えていると言う話ではない。

瑞希は元々、休日は休日と割り切り、学校の事などを忘れたいタイプ。

それに対し、大輔は翌日の準備を事前に済ませておきたいタイプ。

単に2人の性格の違いが出ただけである。

ただ、瑞希は元の世界に居た頃から自分の趣味に没頭する事が多く、翌朝になって何の準備も済んでいないと焦る事が多かった。

しかし、遠足や修学旅行、体育祭、文化祭などの準備は怠った事がないので正確には面倒事を後回しにするタイプなのだろう。


暫く話し合った結果、重要度の高い病院施設の案内を最優先。

次にミクの話ではワイバーンなどの騎乗用の動物を飼育しているとの事だったので余った時間で牧場の見学をする流れとなった。


本社から見て倉庫とは反対側に位置する方向。

町で唯一の病院に一行は到着した。

町に1つしかない割にこぢんまりとした雰囲気のある病院である。

規模としては町医者以上総合病院以下。少し大きめのドラッグストア程度の大きさの建物。

出入り口は開け放たれており、外から見える範囲内には患者のような者の姿は確認出来ない。

ミクを先頭に病院内に入る。

「どうかなさいましたか?」

病院の受付らしき場所に居た獣人の中の1人に声を掛けられた。

見た目では判断がつかなかったが声質からして女性だろう。

「見学に来ただけだ。院長は居るか?」

「少々おまちください」

そう言うと対応した獣人は院長を呼びに行ってしまった。

「日本語?」

誰も居なくなったのを見計らって瑞希が疑問を口にする。

「日本語に限らず、大抵の言語に対応出来るぞ。今は妾との対応だったから日本語で受け答え出来る彼女が応対したのだろう。緊急時に言葉が通じなくて手遅れになっても困るからな」

「なるほど~」

そんな雑談をしていると先程の獣人が院長を連れて戻って来た。

白衣に紙がボサボサの男性。

恰好のだらしなさはファーシャに似ている気がするが、雰囲気としては酔っ払いドワーフと似ている気がする。

全体的にヤブ医者臭がプンプンしている。

何の知識も無く初見でこの医者に当たったとしたら迷わず病院を変えているだろう。

「何の用だ?」

「見学に来た。お茶の1つも出してくれ」

「忙しいのが見て分からんのか?帰れ」

院長は気怠そうに頭を掻きながらぶっきらぼうに答える。

院長の言葉とは裏腹に病院内に患者の姿はない。

「どう見ても暇だろ。ここが忙しそうにしている所を妾は1度たりとも見た事が無いぞ」

「病院なんて暇な方が良い。病院が暇って事は誰も怪我も病気もしてないって事だ。忙しい方が異常事態だよ。暇で何より」

「確かに……」

話を逸らされた事に気が付かず、院長の話に納得するミク。

「用が済んだなら帰れ」

「まあ、待て。お茶は冗談だ。今、新人たちを案内している途中でな。ちょっと挨拶がてら見学させてくれ。……ほら、お前たち自己紹介」

「中埜瑞希です。よろしくお願いします」

「青柳大輔っす」

「……チッ。男か……」

瑞希と大輔の姿を確認した院長は隠そうともせず、あからさまに不快な顔を見せる。

「「……」」

ミクに自己紹介をするように促されて自己紹介をしたものの、不快感を隠そうともしない院長に2人は黙る他なかった。

「あー……。コイツは院長のペイオンだ」

自ら挨拶をする素振りを見せない院長に変わり、ミクが院長の紹介をする。

「人間……じゃないですよね?」

「当たり前だ。俺は────」

「Jop!Favyot!」

瑞希の質問に院長が答えようとしたその時、病院の入り口から切羽詰まったとまでは行かないが、少し焦り気味の声が聞こえてきた。

声の聞こえた方を確認すると大人の亜人と子供の亜人。

子供の亜人は大人の亜人に負ぶわれ、大人の亜人の背中で泣きじゃくっている。

「Rjiy'd es?」

声を聴いたペイオンが対応に当たる。

「I vjkzf gozz imf rix umketof」

瑞希と大輔には言葉は理解出来ないが、子供の膝や手の平、顎などから出血しているのが確認出来る。

『転んでけがしたんだって』

エレノアが訳してくれたが、凡そ予想通りの状況だった。

「Zoy yjo vjuzf duy yjoto」

ペイオンが待合にある長椅子を指差し何かを指示しているように見える。

大人の亜人は軽く頷き、長椅子に子供を座らせる。

座った子供の怪我の容態を確認し始めた。

一通り確認したペイオンが子供の亜人の膝に手を当てる。

次の瞬間、ペイオンの手の周辺が光に包まれた。


ペイオンは一連の動作を子供が怪我をしていた箇所に施す。

最後に怪我をしていた箇所を清潔な布で拭う。

不思議な事に出血は止まり、傷も癒え、治療が終わる頃には子供もすっかり泣き止んでいた。

「回復魔法か……。どんな傷でも一瞬で回復。ファンタジー要素強めだけどやっぱり憧れるよな」

ペイオンの回復魔法を見て感心する大輔。

「な訳あるか」

ペイオンは患者を受付に任せ、大輔の呟きを聞いたペイオンが直ぐ様否定する。

「何言ってんだ?実際、その子の傷を一瞬で治しただろ」

「どんな傷でも治せる訳ではないと言っているのだ。そもそも回復魔法と言うのは周囲の細胞組織の力を借りて傷ついた箇所の自然治癒力を活性化する物だ。いわば治癒力の前借のような物で患者に全く負担が無い訳ではない。擦り傷の回復程度ならともかく、刺し傷や切り傷の場合は回復した際、患者に疲労感をもたらす事もあるし傷跡が残る事もある。さらに深い傷……それこそ戦時中などは患者の生命力が枯渇して傷の完治は出来たが患者が死んでしまっていた事例なんぞ腐るほどあったと聞く。何にせよ、回復魔法は術者の実力は然る事ながら対象者の生命力に依存すると言う事だな。自然に回復するならそれに越した事はない」

長々と回復魔法についての説明をするペイオン。

見た目はヤブ医者だが、治療の腕と知識はあるのかもしれない。

「寿命を削って治すって事?」

ペイオンの話の半分も理解出来なかった瑞希が疑問を口にする。

「違う。そうではない。そもそも生命力と言う物は健康な状態なら安静にしていれば自然と回復する。仕事や運動で疲れたとして、1度疲れたら永遠に疲れ続ける訳ではないだろ?つまりはそう言う事だ。あまり良い例えが思いつかないが、走って疲れた状態を傷がある状態だとして、自然治癒は走るのを止めて歩きながら回復を待つような状態だ。それに対し、回復魔法は座って休憩するような物だとイメージすれば良い」

「それなら深い傷でも治るような気が……」

ペイオンの例えを聞いてもいまいち理解出来ない瑞希。

「だからあまり良い例えではないと前置きしただろう」

「その例えの場合、猛獣に追われながら走ってるのが重症って事だろ。歩いても座っても猛獣に追いつかれて死ぬ。回復させるにも限度があるって事だな」

「まあ、そう言う事だ」

「うーん……分かったような、分からない様な……」

「何にせよ、俺たちには回復魔法は使えないし、知ったところでって話だ。餅は餅屋。治療は医者に任せておけば良いだけだな」

「それはそうだけど、万が一、深い傷を負った場合は死ぬしかないって事?」

「普通に縫合手術をすれば良かろう。そのうえで患者の様態を確認しつつ、無理のない範囲で毎日回復魔法を併用する事で治りも早くなる」

「……あっ!なるほど!普通に回復魔法以外の治療方法もあるのか」

勝手に治療方法=回復魔法のみと勘違いしていた瑞希が納得した。

「当然だ。外科もあれば内科もある。病気や怪我をした場合は気兼ねなく来るが良い」

「男嫌いっぽい言動があった割に親切だな」

「患者は患者だからな。無論、診察は他の者に任せる」

ペイオンの返答を聞いた瑞希と大輔は困惑と呆れの入り交じった表情のまま何も言えず、苦笑いを浮かべるのであった────。


次回投稿


9月1日(20時予定)です。

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