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ベッドの改造が始まる第107話

倉庫付近にある作業所や工房などが密集するエリア。

木材や金属などの加工が行われている区画である。

「ここだな」

とある建物の前で立ち止まるミク。

どうやらここがファーシャの言っていた職人のいる建物らしい。

『たのもー!』

エレノアが勢いよく扉を開けようとした。

……しかし、扉はびくともしない。

『何ボケッと見てんの!さっさと開けなさい』

自身の力不足を恥じる事無く、瑞希に開扉を指示する。

瑞希は黙って扉を開ける。

『たのもー!』

中に入ったエレノアが意気揚々と再度声を掛けるものの、誰一人としてエレノアの声に耳を傾けるものは居ない。

しかし、ミクの事を認識した1人のドワーフが近づいてきた。

「Kann ich Ihnen helfen?」

「Wer hat sich an Farrschah Bett zu schaffen gemacht?」

対応をしていたドワーフだが、ミクの質問に疑問符を浮かべる。

ミクはファーシャを指差し、彼女がファーシャだと改めて伝えた。

それを見たドワーフは手をボンッと叩き、ミクに暫く待つように伝えると奥へと言ってしまった。


暫くすると先程のドワーフは別のドワーフの手を引き戻って来た。

「Dieser Typ」

連れて来られたドワーフの手には酒瓶。

此処に来るまでの間も千鳥足で足元がおぼつかず、現在は絶っているだけの状況だが、上半身がフラフラと揺れ動いていて停まる様子を見せない。

更に顔は真っ赤であり、近づくにつれ酒臭さが際立つ。

所謂、完全に出来上がっている状態ある……。

ミクも連れて来られたドワーフの姿を見て「コイツか……」と頭を抱えて呆れている。

「何がどうあってファーシャはコイツに頼む事になったんだ?」

このまま酔っ払いのドワーフに依頼しても良いものかと考えたミクはファーシャに依頼までの経緯を質問した。

「一番暇そうだった」

ファーシャからの短い返答。

だが、その返答が全てを物語っている……。

周りのドワーフたちが忙しなく働いている中、眼前のドワーフのみが酒瓶片手に酔っぱらっているのである。

ドワーフたちの事情を何も知らない瑞希と大輔ですらファーシャの返事を聞き「なるほど」と納得している。

「技術ある。問題ない」

そうファーシャは続ける。

「しかしな……」

ファーシャの部屋で実物を見てきたミクとしては不安しか残らない。

アレがファーシャの設計した通りの代物なのか、設計以上にヤバイ代物だったがファーシャの適応能力が高過ぎたが故にファーシャの満足する出来に感じているのかの判断が難しかった為だ。

「Ist es möglich, ein Bett zu bauen, das morgens kippt?」

少し悩んだ末、ミクは始めに話し掛けてきたドワーフに傾くベッドの作成は可能か質問をした。

「Ja, Sir」

即答で可能だと言う。

「Und er auch?」

その返事を聞いたミクは次に酔っ払いのドワーフにも可能なのかと質問をする。

「……wahrscheinlich」

質問をされたドワーフは暫時考え、恐らく可能だと返す。

「Seien Sie nicht albern!!Es ist nur ein Moment, nur ein Moment.……Nein, „einen Moment“ ist übertrieben. Wenn man die Zutaten hat, kann man es in ein paar Stunden zubereiten」

2人の会話を聞いていた酔っ払いのドワーフが急に怒り出した。

彼の主張を要約すると材料さえあれば数時間で作り終えるとの事。

そんな仕事を出来るか否かの質問で「恐らく」と言う自身を過小評価する返答に立腹しているらしい。

「どうする?」

「どうするって言われてもな……。瑞希が決める事だろ?」

そう。酔っ払いのドワーフに依頼するか、別のドワーフに依頼をするか、将又依頼自体をしないか。それは瑞希が決定する事であり、大輔に話を振ったところで何も解決はしない。

だが、ファーシャの部屋で見たベッドの仕組みを想像するに一抹の不安が残る。

助けを求める様にミクを見つめる。

ミクは「はぁ……」と軽く溜息を吐き、瑞希に問う。

「要はコイツに依頼するのが不安なんだろ?」

「端的に言ってしまうと……」

「なら、他のドワーフを監視につけると言うのはどうだ?」

「まあ、それなら。それと、速度についてなんですが、ゆっくり傾くようにお願いしてもらっても良いですか?ファーシャさんの部屋で見たような動きだと危なそうなので……」

「聞いてみるから少し待て」

そう言うとミクは眼前に居る2人のドワーフに監視役の件と瑞希の提案を伝える。

酔っ払いのドワーフは不服そうな態度を隠そうともせず、不満げな様子で対応をしていたが最終的には渋々ながら提案を飲んだ。

もう1人の酔っぱらっていないドワーフはミクと酔っ払いドワーフの間で話が纏まったのを機に手の空いている者を探すと言い、監視役を探しに行った。


暫く待つと先程のドワーフが別のドワーフを連れて戻って来た。

「Bitte warten Sie einen Moment, während wir uns vorbereiten」

連れて来られたドワーフはミクに一言言い残すと外へ出て行ってしまった。

「今何て言ってたの?」

言語を理解出来ない瑞希がエレノアに翻訳を頼む。

『準備するからもう少し待てって』


10分も経たずにドワーフは戻って来た。

「Bereit」

手招きをしているので準備が出来たと言う事だろう。

瑞希たちが外に出ると荷馬車が用意されていた。

「Steigen Sie」

ドワーフが荷馬車の荷台をバンバンと叩きながら何かを言っている。

『乗れだって』

エレノアが気を利かせて翻訳をする。

ミクとファーシャは言語を理解していたのでエレノアが翻訳する前に荷台へ乗り込む為、後部へと移動を開始していた。

瑞希と大輔は2人に続くように荷馬車の後部へと移動。

荷台に乗り込む。

酔っ払いドワーフは千鳥足ながらもなんとか荷馬車に到着。

荷台に片足を引っ掛けたまでは良いが、その後、乗り込むのに苦戦している所を後ろから荷馬車の準備をしたドワーフに押し込められ、転がるように荷台に乗り込むことに成功した。

酒瓶だけは離す気配が無く、転がり込んだ際も1滴たりとも中身を零さなかったのには執念すらも感じさせた。


ミクが行き先(瑞希の部屋番号)を伝えると荷馬車が出発した。

「あれ、ゴーレムか?」

荷馬車と言っても本物の馬が引いている訳ではない。

馬の様な胴体。だが、尻尾と頭は無く四肢のみと言っても過言ではない四足歩行の何か。

大輔の目にはヴァン邸で見たゴーレムと同じような質感に映っていた。

「その通りだ」

「何で胴体だけ?」

「ゴーレム自身が考え動くならまだしも、指示を出すものが他に居る場合、頭は前方を確認する時に死角が生まれるだけだし、尻尾があっても意味はない」

「見た目とか気にせんのか。それに態々動物の形を取らんでも車輪と原動力で良いだろ」

ミクの回答を聞き、少し呆れ気味の大輔。

「その件に関しては妾の範疇ではない。製作者の好みの問題で使用上問題が無い場合は許可を出している。足回りについては始動時と停止時の負荷がどうこう言っていたが詳しい内容は覚えていない」

「うーん……。無理にゴーレム使う必要あるのか?餌代とかが掛からなくて安上がりとかか?」

「いや、生き物に比べ扱いが楽だが、費用対効果があまり良くない。効率良いゴーレム作りをする為の研究の一環と言う側面もあるな。現段階ではあまり実用的ではないので一部例外はあるが基本的には町中での使用に限っている」

「費用対効果?」

「定期的な核の生成と核への魔力供給だな。核を作れても魔力を供給せねば動かん。魔力の供給が出来る者は少なくないが核の生成が可能な者は希少だ。その上、核の劣化もある。定期的な核のメンテナンスも考慮しなければならんからな」

「そんな大変そうな物をヴァンくんはいとも容易く木端微塵に……」

「坊やの所に派遣しているゴーレムの核は大した物ではない。寧ろ粗悪品と言っても良い部類の物だ。土に魔力を込めるのが目的故、最悪片道動けば事足りる。何なら坊やの所まで輸送するから坊やに壊される数分動けば良いだけの物だ。まあ、あくまでも核の話であって、ゴーレム自体に効率よく魔力吸収させる回路を組み込んだりで他の部分が面倒ではあるのだがな」

「そこまで手の込んだ事が可能ならヴァンに魔力を込めてもらわなくても色々と解決出来そうだけどな」

「まあ、そうも上手くいかんのだよ。何せ坊やの魔力は特別でな────」

ヴァンの魔力についての話が始まろうとした時、ドワーフの運転する荷馬車が目的地付近に到着した。

ミクは話を中断し、荷台の前方へと移動。ドワーフに詳細な場所の説明に移る。


程無くして荷馬車は瑞希の部屋の前へと到着した。

瑞希は荷台から降り、部屋のドアを開錠。

ミクに「全員入っても問題ないか?」と問われ、「はい」と短く返事をした。

瑞希を先頭に全員が室内へ。

当然の事だが、数時間前に家具の配置をミクに手伝ってもらってから何の変化も無い。

真新しい家具が少しと瑞希が持っていたバッグがあるだけの部屋。

そんな中、ドワーフたちはベッドに近づき瑞希に尋ねる。

「Soll ich drinnen oder im Freien arbeiten?」

だが、何を言っているのか理解出来ない瑞希。

当たり前のように通訳を頼む為、エレノアの方を向く。

「ここで作業しても良いか、別の場所で作業をした方が良いか聞いているぞ」

瑞希に言葉が通じない事を理解しているミクがエレノアよりも早く翻訳してくれた。

「特に盗まれるような物も無いし、どっちでも大丈夫です。職人さんの都合の良い方でとお伝えください」

「Er sagt, es sei so oder so nicht wichtig」

瑞希の返答を聞き、ミクがドワーフたちに伝える。

ミクの話を聞いたドワーフたちは暫時話し合い、室内で作業をする事になった。


その後はドワーフたちとの最終調整。

ベッドの傾く方向に速度、最終的にどの程度まで傾くようにするのかなどなど……。

瑞希の意向を尊重しつつ目覚ましベッドの構造についての話を詰めた。


無事話はまとまり、ドワーフたちはベッドを改造する為に必要な材料を取りに戻るとの事。

ミクはそれを了承し、自分たちが外出する場合は鍵を開けておくことを伝えた。

ドワーフたちが瑞希の部屋を後にしたのを確認したミクが問う。

「さて、どうする?」

「何をだ?」

「あ奴らが戻って作業をして終わるまで今から4~5時間と言った所だろう。終わるまでの間どうするかだ。解散するもよし、何かしたいなら付き合うぞ」

「戻る。問題ないか?」

ベッドを見せた時点(正確に表現するとドワーフを紹介した時点)でファーシャの役目は終わっていた。

しかし、律儀にも今の今まで行動をともししてくれていた。……もしかしたら別れるタイミングを見計らっていただけなのかもしれないが……。

何にせよ、ファーシャはこれ以上、自分が一緒に居る必要はないと思い、仕事に戻るとの事。

「今まで拘束してすまなかったな。色々と助かったぞ」

ミクの返答を聞き、ファーシャは一礼をして職場に戻るのであった。


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