実際に目覚まし装置を見に行く事になった第105話
道中、瑞希がブツブツと「一人で起きられる」だの「目覚ましで十分」だのと戯言を言っていたが、大輔も瑞希にかまうだけ無駄だと感じ、2、3回まともに瑞希の話を聞いた後は「あー、はいはい」「話聞くだけだから」と瑞希の話を聞き流す程度の返答になっていた。
斯くして瑞希、大輔、ミクの3人はファーシャの居る研究室へと到着した。
「ファーシャ、居るか?」
商会の長とは言え、入室して早々にこの言い方はどうかと思う。
しかし、研究に従事している者たちは一瞬手を止め、ミクを一瞥すると自分には関係ない事と言わんばかりに作業へと戻った。
そんな中、ミクに呼ばれたファーシャがミクへと近づいてくる。
「Was kann ich für Sie tun?」
『何用だ?』
「訳さんでも分かる。あと、訳が雑過ぎる」
ファーシャの横をフヨフヨと浮遊しながらついてきたエレノアが親切心で翻訳をした。
しかし、ミクにはファーシャの言っている事が理解出来ていたらしく、辛辣にもエレノアの翻訳は一蹴されてしまった。
『通じれば良いのよ。長々と何の御用件でしょうか?とか言う必要はないわ。端的に簡潔に』
「まあ良い。ファーシャ、今、時間、大丈夫か?」
「Ja」
「Zeigen Sie mir Ihren Geräte zum Aufwachen」
「なんて?」
ミクの言っていた事が理解出来なかった大輔がエレノアに通訳を頼む。
『目覚まし時計見せろって』
正確には『目覚まし時計』ではなく、『目覚まし装置』とミクは言っていたが、エレノアが勝手に目覚まし時計と解釈して大輔に通訳をした。
ミクもその事に気が付いたが、多少の差異はあるもののニュアンスとしては凡そ伝わっていそうな雰囲気なので気にせずファーシャとの会話を続けていた。
その後も暫くミクとファーシャの会話は続き、最終的にファーシャがの作業が一段落着くまで待つ事。
そしてファーシャが軽く部屋の片づけをしてからなら問題ないと言う事で話がまとまった。
ファーシャの作業が一段落着き、瑞希、大輔、ミク、エレノア、ファーシャの5人は寄宿舎へ向かった。
「片付ける。少し、待て」
恐らく瑞希と大輔に配慮しての事だろう。
ファーシャはたどたどしい日本語で今から部屋の片づけをする事を伝え、1人部屋の中へと入って行った。
「なんか女の子の部屋に入るのってドキドキするよな」
「そう?」
ファーシャが部屋を片付けるのにどれくらいの時間が掛かるか分からなかった大輔はただ待つだけなのは暇だと感じたのだろう。
瑞希と他愛も無い雑談をしようと話しかける。
話のきっかけは何でも良かったのだが、何の脈絡もない話題よりは現在の状況を話題にした方がきっかけ作りには良いと考えた。
だが、残念な事に瑞希には共感を得られなかった。
『何期待してんのよ。ドスケベ野郎』
「べ、別に何も期待してねーよ」
エレノアの一言で焦ったような反応を見せる大輔。
「言ってやるなエレノアよ。男なんて所詮はそんなものだ」
『男はち〇こで動いてるってやつね。あーやだやだ』
「その容姿でさらっとえげつない事言うな。本当、エレノアは耳年魔と言うか何と言うか……。何処でそんな事覚えるんだ……」
「僕は否定したからね。大輔だけだよ」
瑞希との雑談にはつながらなかったが、予想だにしない方向で話が進んだ。いらぬ方向でだが……。
エレノアからは顰蹙を買い、汚い物を見るような目で見られ、ミクには全てを理解していると言わんばかりに達観した目で見られた。
本当に他愛も無い雑談のきっかけのつもりだった大輔だが、必死に否定すればするほどミクとエレノアの言っている事を肯定している様になってしまう構図。
更には瑞希にも見放される始末。
大輔は否定する事を諦め、エレノアの言動に呆れるフリをして別の話題に以降しようと思考を巡らせた。
だが、意外な事にそんな思考を巡らせる暇も無くファーシャの部屋のドアが開かれた。
「良い」
ファーシャが部屋に入ってから5分と経っていないがどうやら片付けが完了したらしい。
瑞希、大輔、ミク、エレノアの4人は招かれるがままファーシャの部屋へと入った。