色々な肉を食した第103話
3人は昆虫食の事を忘れる為に話を無理矢理中断。
適当に空いている席に座った。
暫くすると店員が来て3人の食券を確認し半券をテーブルに戻して厨房へと戻って行った。
「初めての店って注文とかのシステムが分からなくて入りにくいよね」
「分かる。食券なのか店員に注文なのかタッチパネルなのか店に入るまで分からないからな。支払いも前払いなのか後払いなのか。とかな。どうしても出かけた時は慣れたチェーン店で飯食う事が多かったな。誰かと一緒に行く時は事前に色々と調べないと不安だよな」
「だよねー。今回はミクさんが色々と案内してくれて良かったよね」
料理が届くまでの間の雑談。
瑞希と大輔の2人の間では共感の出来る話だったが、ミクはあまりピンと来ていない様子だ。
雑談をしていると料理が運ばれてきた。
全ての肉はステーキの様な一枚肉。
皿には肉しか置かれておらず、初見ではどれが何の肉なのか判別が出来ない。
「やっぱりテーブルまで運んでもらえると楽で良いな。空いてるからこその利点ってやつか?」
「社員食堂は混んでるし、人多いから無理だよね」
「妾としても分散してほしいのだが、如何せん皆、社食を使いたがる。理由を聞くと近いからと言う意見が一番多いな」
「まあ、昼休憩なんてそんなもんだろ」
「そうなのか?特に休憩時間に厳しい縛りは設けておらぬが」
「言われてみれば、倉庫で働いてる時も休憩時間は適当だったよね」
「昼のみならそうなのかもしれんが、働いている者たちは労働前に社員食堂を利用し、昼食に社員食堂、労働後に社員食堂で夕食を済ませる者が多い。無論、家庭のある者は別だ。今ここで食事をしている者の大半は今日休日の者だろう」
「部屋に台所が無いのが原因かもな。まあ、それがニーズなんだから気にする必要はないと思うぞ。別に本人が満足……まで行かないまでも不満が無いなら問題ないだろ」
「それはそうなのだが、出来れば労働量を分配したいのだ。現状だと社員食堂で働く者の労働量が多すぎる気がしてな」
「気にし過ぎじゃないか?俺も飲食店……って言っても居酒屋で少し働いた経験あるけど、忙しい時間帯もあれば暇な時間帯もある。忙しい時は大変だけど、暇な時は本当に暇でやる事なくて雑談してたし、それこそ働いてる本人から不満が無ければ問題ないだろ。ミクが気になるなら給与の上乗せなり人員の増強なりで職場環境を整えれば良いだけじゃないか?」
「そうなのか……?それはそうと、料理が届いたんだ、頂くとしよう」
ミクとしても大輔の意見に納得できる部分は大いにある。
だが、働く者からの不満が無いからと言って何もしなくても良いのか?と言う疑問も残る。
最終的には社員食堂で働く者の意見を聞くのが一番手っ取り早いのだが、社員食堂の者のみに聞き取りをすると他の場所で働く者たちに不平感を与える可能性も出てくる。
結局、この場では解決しないと結論を出したミクは早々にこの話を切り上げる事にした。
瑞希の「いただきます」の掛け声を皮切りに大輔、ミクも両手を合わせ「いただきます」と言った後で食事を開始。
大輔はまず、自身の頼んだ3皿の肉を一口サイズに切り、瑞希の皿に乗せる。
「食べ比べ。瑞希のも一口分よこせ」
大輔としては然程気にならないが、瑞希がどう感じるかは不明。
真っ先に味の食べ比べをしたかったところだが、その気持ちをグッと我慢し、フォークに口を付ける前に切り分けた。
皿に置かれた肉を見て瑞希は考える……。
「どのくらい?一口分で良いの?同程度の3つ分?」
「相変わらず無駄に律儀と言うか何と言うか……。瑞希の好きにすれば良いぞ。普通に食えそうなら一口分で良いし、食欲が湧かないなら多めによこせ」
言葉は多少乱暴ではあるものの、大輔なりに瑞希を気遣っての発言。
2人の会話を見ていたミクは自分の皿から肉を切り分け、2人の皿に置く。
「それならこれも試してみるが良い。何の肉かは食べてからのお楽しみだ。妾に肉を分ける必要はないぞ。お前らに渡す分も踏まえて2皿注文したのだからな」
「それじゃあ遠慮なく」
そう言うと大輔はまずミクから貰った肉を賞味した。
瑞希も大輔に続き、肉を口に運ぶ。
「鶏肉っぽい?なんだっけ、あの、オウキーニに連れて行ってもらった時に食べた角の生えたウサギ。それに似てる気がする」
「ジャッカロープ?確かに近い気がするな」
「中々に良い推測だ」
「で、何の肉なんだ?」
「スクヴェイダーの肉だが、分かるか?」
「あー……あれね。ジャッカロープに似てるのも納得だな。ウサギって元々鶏肉に似てるって話だしな」
ミクの回答を聞き、納得する大輔。
一方の瑞希は何の事やらさっぱりである。
「……ちょっと、何さらっと次の肉に行こうとしてるの。説明してよ」
一人で納得して次の肉の賞味に移ろうとしている大輔に説明を求める瑞希。
大輔がミクにツッコミを入れない所から推測するに食用向きではない肉と言う事はなさそうだが、正体不明の肉をそのまま何の説明も無く放置されては釈然としない。
「説明って言われても上半身がウサギで下半身がライチョウの生き物だな。なんだかんだ言ってもミクも狐だけあってウサギ好きなんだなって」
「油揚げじゃなくて?」
「それは迷信だろ。野生の豆腐か油揚げが元気よく飛び回ってたら可能性もあるかもしれないな」
「ある訳ないじゃん。生き物じゃないからね」
「まあ、そう言う事だ。狐は鼠とかウサギみたいな小動物を獲って食べるって事。巨大鼠の肉とかって言われるよりは断然抵抗無く食える食材だろ」
兎と鳥。元の世界に居た頃には兎を食した事は無かったものの、大輔の言う通り、鼠のように残飯を漁ったり、下水道を住処にしていたりと言った汚いイメージとは異なり、食材としての抵抗も少ない。
ある程度納得のいく答えを聞いた瑞希も食事を続ける事にした。
「……で、大輔から貰った肉はどれが何のお肉なの?」
ステーキの様に焼かれてしまっている上、元々名前を聞いてもピンとこない生き物ばかり列挙されていた瑞希は肉の種類を聞く序でに元の生物の事を聞こうとした。
「うーん……分からん」
「食す前に知りたいか?食した後に何の肉か教えた方が良いか?」
大輔は何が何の肉かを理解していないようだが、ミクは理解しているようだ。
大輔の返答を聞いたミクが肉の正体を答えるタイミングを聞く。
「僕は聞いた所で想像もできないのでどっちでも良いです」
「俺もどっちでも良いけど、普段食わない類の肉だった場合、聞いた後だと少し躊躇しそうな気はするがな」
「では、瑞希が一通り食した後に正解発表する事にしよう」
「なんかそう言われるとドキドキする」
そう言うと瑞希は大輔から貰った肉を順番に口へとは運んで行く。
1つ目の肉の感想は固くて独特の臭みのある肉。
2つ目の肉の感想は柔らかく多少の臭みはあるものも気になるほどでもない肉。
3つ目の肉の感想は固い肉ではあるものの1つ目の肉とは違い噛みごたえはあるが、癖は無く鶏肉に近い雰囲気の肉。
と言うのが瑞希の感想だった。
全体的に元の世界で食べていた肉より野性味が高いと言うか臭いが強い印象が残る。
とは言っても基本的に牛、豚、鶏の肉が大抵で、猪などのジビエを年1回食べるか食べない程度の知識である。
それでも常食する3種の中でも特に臭いが強い牛ですら比ではない程に臭いが強い。
後は得意不得意の問題になるが、決して食べられないとか美味しくないと言う話ではない。
「瑞希が食した順に答えを言うと、マンモス、ペリュトン、大岩トカゲの肉だ」
ミクから回答を聞いたものの、マンモス以外ピンとこない。
マンモスに至っても旧石器時代の人間が石槍とかで戦っている絵を見た事がある程度の認識しかなかった。
瑞希は大輔に情報の補足を大輔に頼んだ。
「マンモスは分かるだろ。毛の生えた象だな。ペリュトンは羽の生えた鹿。大岩トカゲは……知らん。大きいトカゲじゃね?」
「大輔でも知らないモンスターっているんだね」
「当たり前だろ。全モンスターを把握してるわけじゃないし、メジャーなモンスターならまだしもマイナー過ぎるモンスターは覚えてないどころか見た事ない可能性だってある。それに元の世界で観測されてない生物だって居る可能性あるだろ」
「そっか……。そうだよね」
大輔の説明を聞き納得する瑞希。
「大岩トカゲはドラゴンの一種だな。岩石地帯に生息していて表皮は強固な鱗で覆われている四足歩行のドラゴンだ。鱗の1枚1枚が他のドラゴンと比べ大きくゴツゴツしているのが特徴だ。遠目に大きな岩石の様な見た目から大岩トカゲと呼ばれている」
2人のやり取りを見ていたミクが大輔も知らなかったモンスターの情報を補足した。
「前半部分は納得できるが、何故にトカゲ?ドラゴンでええやろ」
「タラバガニはヤドカリの仲間みたいな感じ?」
「頑丈ではあるもののドラゴン種の中でも弱い部類だからな。名付けた者が岩トカゲの大型種と勘違いしたのだろう」
瑞希の考えとミクの説明で納得せざるを得ない。
と言うか、納得出来なかったところで深く考える意味も無いし、納得出来ないからと言って改名出来る訳でもない。
大輔は食事中の雑談の一環と割り切り、3人はその後も雑談を続けながら食事をするのであった────。
次回投稿
8月1日(20時予定)です。