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スライムは弱いと言う風潮だが普通に考えて人間では歯が立たない第100話

暫く見学していると自分たちの洋服の汚れが落ちているのが分かった。

特に瑞希の服が顕著だった。

泥などの汚れがシミになっていたが、みるみる汚れが落ちているのだ。

そんな服の様子を見ていると、管理人が自身の中から洋服を取り出し2人に返却した。

「おぉ、凄い。綺麗になっている」

思わず感嘆の声を上げる。

瑞希が手にしている洋服は新品同様の綺麗さである。

「確かに人を選びそうな洗濯方法だな。俺は抵抗が無いどころか感心したけど」

「僕も大丈夫かな。管理人さんの身体の一部が残ってるとか、ベトベトしてるとかだったら考えたけど、物凄く綺麗だし、水を使ってない(?)から乾いてるし何の問題も無いよね」

「そうか。それなら、専用の袋が販売されているから購入して、朝のうちにあそこに出しておくと良い。お前らの場合、仕事場に向かう序でに置いていけば問題ないだろう。それと、専用の袋でなくとも衣類が外に出ず、尚且つ網状のものか適度に穴の開いた物なら代用可能だ。何なら普通の袋に適当な穴をあけても良い。袋の何処かに部屋番号や名前などの個人を特定出来る記号を描く事を忘れぬように。因みに部屋番号を記入しておけば洗濯完了後、各部屋の前に配達してくれるぞ。名前、または何の記入の無い物の場合は管理人の部屋の横の小屋の中に置かれるから各自持ち帰るように」

2人の感想を聞いたミクが管理人への洗濯の依頼方法を説明した。

「じゃあ、ミクの案内でそれも買いに行かないとな」

「分かってる人が居れば安心だからね」

「それにしても何の抵抗も無さそうで安心した。実を言うと、お前らの部屋の清掃も管理人に任せていたんだ。管理人クラスのスライムになると、ある程度の物質なら溶かせるから清掃などの仕事に適している」

「溶解できる妖怪」

「…………何で服は解けないんですか?」

「あぁ、それは管理人が溶かすものを取捨選択しているからだな。溶かそうと思えば溶かせるぞ」

暫しの沈黙の後、大輔のギャグを無視して話を続ける瑞希とミク。

大輔も多少はスベると自覚しての発言であったものの、流石に触れてすらもらえないのはキツイ。

「……いや、ツッコミ!感想でも良いから何か言えや!スベったみたいになるやろがい!」

自身のギャグに触れもせず、無かったかのように話を進める2人を叱責する。

「実際、スベってるからね」

「……」

無言で瑞希の両頬を抓る大輔。

「痛い痛い。じゃあ、ギャグの説明でもして貰えば良かった?」

「スベったと言い切ったギャグを説明させるとか正気とは思えん。悪魔の所業か!?瑞希、お前には人の心が無いんか?」

抓っていた手に力が入る。

それにしても酷い謂れようである。

「じゃあ、どうしようも無いじゃん。……大輔の駄洒落は置いといて、スライムってゲームだと序盤に出てくる弱いモンスターってイメージだけど、色々と役に立つんですね」

瑞希は大輔の手を無理矢理引き剥がし、元の話を続ける事にした。

「その発言は俺にもスライムの管理人にも失礼だろ」

叱責したにもかかわらず、その後の態度に変化が無かった瑞希の頭に軽くチョップをして失言を訂正させる大輔。

大輔に対する態度はどうでも良いが、管理人スライム本人を目の前にして弱い発言は失礼以外の何物でもない。

冗談半分のツッコミではあったものの、瑞希も管理人に謝罪をする。

管理人は瑞希の発言を特に気にしている様子もなく、瑞希の謝罪を受け入れたかのような仕草をしている。

「前に会った人間は服を溶かすだけのモンスターとか、弱いモンスターだと似たような事を言っていたがとんでもない────」

「いや、それエロ漫g……いやなんでも無い。続けてくれ」

思わずミクの発言を遮りツッコミを入れてしまう大輔。

途中で自分の失態に気が付き、ミクに続きを促す。

「管理人の様に自我を持っているスライムは論外として、普通にスライムは厄介だぞ?とても人間がかなう相手ではない」

「え?スライムって核壊せば倒せるって感じで描かれる事が多いんですが、違うんですか?」

「それは間違いないが、どうやって壊すんだ?」

「グーパンチとか剣で切りつけるとか?」

「そもそも体の中にある核まで届く威力の攻撃が必要になる。スライムが液状とは言え、水よりも粘度の高い物を叩いて威力が落ちないわけがない。それに、素手での攻撃の場合、核に届くまでの間、拳を溶かされ続けるがその激痛に耐えられるか?剣とかの武器を使った場合も同様だな。核に届くまでに威力は落ちるし、下手をすれば核に届く前に消化されて劣化するぞ」

「えーっと、じゃあ、魔法?」

「魔法や種族特性などを使えるのか?」

「……使えません」

「まあ、そう言う事だ。スライムの大きさや相性などもあるが、スライムは強いぞ。見晴らしの良い平地ならともかく、市街戦や森の中、遺跡など遮蔽物が多い場所だと、核を物陰に隠して本体のみでの攻撃とかも可能だからな。とは言え、管理人の様に自我を持っている者は稀で、戦略的に戦う事は少ないが不意を突かれると大変な事に変わりはない。只、普通のスライムは適当に近くにある有機物を食って回るだけの存在。適当に木でも石でも何でも良いから餌になりそうなものを近くに投げてスライムの気を逸らせ、可及的速やかにその場を離れるのが得策だな。管理人の様なスライムに本気で襲われた場合は……」

途中で話を止めるミク。

「場合は?」

続きが気になった瑞希が質問をする。

「諦めろ」

期待外れ過ぎるミクの一言でズッコケる瑞希と大輔。

「いや、対処法!」

「人間には不可能だ。全力で走って逃げきれるのを祈る他ない」

「元々いた世界でも野良犬にすら負ける可能性が高いんだから、モンスターに戦闘を挑もうなんて気にもならないけどな。そもそも戦う意味がなければ無駄にちょっかいを出す事も無いだろ」

「賢明な判断だ」

瑞希も大輔の意見に賛同しつつ、スライムにかかわらず万が一にも戦闘に巻き込まれそうな時は逃げる事を最優先。と言う当然の帰結に至った。


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