引っ越しが完了し、洗濯をしてもらう第99話
「ここが瑞希の部屋で斜め向かいのあそこが大輔の部屋だ。隣り合って空いている部屋が無かったが極力近くになるようにしておいたぞ」
「お気遣いありがとうございます」
「まあ、近ければ色々と便利だとは思うが、合鍵でもない限り叩き起こせないからな。起床は自力で何とかしろよ」
「分かってるって」
「何だ瑞希、朝弱いのか?」
「弱いって言うか……」
「弱いなんてもんじゃない。目覚ましをセットしても起きないぞコイツ」
瑞希が良い訳か反論かをしようとするのを遮り、大輔がミクへの返答をする。
「どうしても起きられそうにないならファーシャに相談すると良い。アイツもアイツで苦労しているようだからな。自分専用の目覚まし装置を開発する程だ」
「やったじゃん。相談するならエレノアの居る今のうちだろ。瑞希、時間みて行ってみろよ」
「うーん……。頑張れば起きられると思うんだけどな……」
何処から来るのか不明な瑞希の自信。
それに加え、他の誰かに相談をするのを拒んでいるように見受けられる。
……大輔に迷惑をかけている自覚が無いようだ。
「それはそうと、開錠してみろ」
起床の話を切り上げ、瑞希にドアの開錠を指示するミク。
瑞希はドア横の機械にカードをかざす。
ピッと言う電子音らしき音とともにドアからカチャッと音が聞こえた。
「開錠した時が1回、施錠する時は2回音が鳴る。緑が開錠中で赤が施錠中だ。一応、色の判別が出来ない者や聴覚が不自由な者の為に両方で確認が出来るようになっている」
ミクが施錠痔と開錠時の説明を付け加える。
何故か大輔が瑞希の部屋の機械にカードをかざしている。
「無論、反応せんぞ」
「それは分かってるけど、何か音とかで知らせてくれるのかなって思っただけだ」
「なるほど。そういう機能も付けるべきだったかもな。だが今更、全室の付け替えは面倒だ。今のままで我慢してくれ」
「試しただけだから気にすんな。特に無くても困る事はない」
「そうか。では、お前たちは部屋の中の家具や配置の確認をしてくれ。何か不備があった場合は言ってくれ。家具の移動も手伝うから人手が必要なら気兼ねなく声を掛けてくれ」
瑞希と大輔はそれぞれ自室の確認作業に移る。
ミクは瑞希と一緒に瑞希の部屋へ。
瑞希の部屋に入ったのは単に瑞希の部屋の前に居たからだろう。
瑞希はミクが同行している事を気にする素振りも見せず、室内の確認作業に移った。
家具の位置の調整をミクに願い出て、瑞希の引っ越し作業と各種確認作業は完了。
大輔の部屋へと移動をする。
「大輔ー、大丈夫?」
玄関から室内に声を掛ける。
「ほぼ終わったけど、ベッドの移動だけ手伝ってくれ」
中から大輔の声が返って来たので、瑞希とミクは中に入る。
大輔の指示でベッドの移動をし、大輔の引っ越しも完了した。
「台所は諦めるとして、洗濯機は欲しいな」
「確かに……」
大輔の意見に瑞希も同意する。
「洗濯機……?衣類の洗濯をする機械と言う認識で問題ないか?」
「そうだな。乾燥も出来れば尚良しだな」
「洗濯板はあるが、乾燥はな……。拒否感が無ければだが、管理人に頼めば衣類の汚れ等は落とせるぞ。乾燥の必要もない」
「人に頼むのに抵抗が無ければって話ですか?」
「いや、何と言うか、説明が難しいんだが、百聞は一見にしかずだ。洗濯物をもって表に出ろ」
ミクからの返答は何とも歯切れの悪いものだったが、瑞希は自室に戻り、この世界に来た時に着用していた洋服を準備。
大輔も序でだと考え、瑞希が自室に戻っている間に自分の服を用意していた。
大輔の部屋の前に全員が集合した所で、ミクを先頭に管理人の部屋へ移動を開始。
「管理人、居るかー」
到着するや否や、ミクが管理人の部屋のドアをノックする。
暫くするとドアが開き、管理人が姿を現した。
「いきなりすまんな。こいつらに洗濯風景を見せてやってほしいんだが、今大丈夫か?」
管理人はコクコクと頷く。
その様子を見たミクは瑞希と大輔に対し、管理人に洋服を預ける様に促す。
瑞希と大輔は「おねがいします」と短く言い、管理人に洋服を手渡した。
次の瞬間……。
管理人は2人分の洋服を自身の中に取り込むように入れてしまった。
「「……」」
何が起きたのか理解出来ず、黙り込む瑞希と大輔。
何が起きているのか理解は出来ていないものの、管理人の腹の中でヒラヒラと動いている自分たちの洋服の様子を見る他ない。
瑞希たちは暫時、管理人の体内で動く自分たちの洋服を眺めていた。