宿を引き上げ寄宿舎に移動する第98話
そして翌朝────。
瑞希の部屋でスマホのアラームが鳴る。
「うーん……。あと5分……」
案の定、無意識下でアラームを切る。
瑞希が寝惚けて発言している5分後にスヌーズ機能で再度、アラームが鳴る。
「…………」
今度は無言でアラームを切る。
そんな瑞希の行動を見越しての事なのだろう。
大輔が何の躊躇いも無く朝食を運んできた亜人と共に瑞希の部屋へ。
今日はノックすらしていない……。
「起きろ」
「ノックくらいしてよ……」
寝ぼけ眼を擦りながら大輔に文句を言う瑞希。
「1回目のアラーム鳴った時にしたぞ。それで、朝食が届くまでの間、少し待っても返事ないし、またアラームが鳴って止まったっきり物音1つしなかったからな。寝てるって判断しただけだ。それにノックした所で起きないだろ」
大輔はこう言っているが、今日はノックをせずに入っている。
瑞希の文句も正しいが、大輔の言い分の方に分がありそうだ……。
瑞希は反論しても言い負かされそうだ。と覚醒しきっていない頭で結論を出す。
上体を起こし、伸びをした後、大人しく布団を畳む。
その間に大輔は亜人に礼を言い朝食を受け取った。
「本当に明日からどうすんだ?」
食事を始めた直後から始まる大輔の説教。
瑞希は両手を合わせ「いただきます」と言った後でご飯を口に運ぶ最中だった。
一瞬、大輔が何を言っているのか理解出来なかった瑞希だが、起きてから多少時間がたっていた事もあり、通常通り頭が働いた。
自分の寝起きの悪さについての話だろう。と理解は出来た。
「んー……。頑張る?」
理解は出来たが、解決策が思い浮かぶ訳ではなかった。
正直、アラームをセットして無理なのだ。諦める他無い。と考えているが、おいそれと口にすれば大輔から何を言われるか分かったものじゃない。
君子危うきに近寄らず……。心の中でそんな事を思いながら大輔の詰問から逃れようと思考を巡らす。
「明日引っ越したら部屋に入れんし、本当に起きる努力しないと働けないぞ」
「分かってる。大丈夫だよ……たぶん」
大輔も良い解決策が思いつかなかったのだろう。
その後は何の進展も無いまま食事が進み、最終的に瑞希の努力に任せる他ないと言う結論に至った。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさん。じゃあ、食器は下げておくからいつも通り準備が出来たら受付の所に集合な」
「了解」
「言わんでも分かってると思うけど、今日チェックアウトだから忘れ物無いようにな」
「荷物は最低限しか広げてないから大丈夫だと思うけど、大輔もね」
「俺はスマホと財布だけだから問題ない。あー……あと洋服か」
2人で忘れ物をしないように注意し合い、解散した。
数分後────。
瑞希が受付に到着。
流石に荷物がほぼ無いと言っても過言ではない大輔の方が先に到着していた。
「おまたせー」
「おっ、来たか。忘れ物無いか?」
「多分大丈夫」
形式的な確認を済ませ、受付に鍵を返却。
受付の亜人にお礼を言い、2人はミクの下へと移動するのであった。
いつも通り、ミクの部屋へ入り、応接場にて待機。
声を潜めたところで会話が筒抜けなのは学習した瑞希と大輔はミクの邪魔にならない程度に声量を抑え会話をしていた。
2人がミクの部屋へ着いてから十数分────。
漸くミクの仕事が一段落ついたようだ。
「待たせたな」
ミクが持っていた資料を机に置き、立ち上がると瑞希たちに声を掛けてきた。
瑞希と大輔も立ち上がる。
「部屋の案内からだな。荷物は運んであるが、家具類の配置場所を変更するなら3人居る今日にするのが無難だぞ」
瑞希と大輔はミクに同意をし、寄宿舎へと移動を開始するのであった────。