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無駄な引き延ばしを試みる筆者の小賢しさと戦う第10話

暫く走るとそれらしき横道を発見した。

少し手前に停車をし、大輔は瑞希に確認を取る。

「この道であってる?」

「はい。間違いありません」

瑞希に質問したつもりだったが、返ってきたのは女性からの返答だった。

後ろを向きながら話している瑞希が正面を向いて確認するよりも、後ろの席に座っていた女性の方が瑞希よりも確認作業が早かったのだろう。

「そうそう。ここ、ここ。少し先に立ち入り禁止のバリケードがあるって話だからそこに車を止めておけば邪魔にはならないはずだよ」

瑞希の指示通り、大輔は横道に車を入れ20m程先に進む。

瑞希の言っていた通り、バリケードに「立ち入り禁止」の札が縛り付けてある。

バリケードの直前で車を停車し、エンジンを切る。

「ここから徒歩?」

「だね。200~300mくらい先にトンネルがあるって話だから少し歩く感じ」

「少し持ち上げれば簡単に退かせそうだけどな」

「バリケードの事?」

「そうそう。工場とか港とかに置いてある大きいやつ想像してたけど、工事現場とかでよく見るやつが3つだろ。2人で両サイド持てば簡単に移動出来ると思うんだけど」

「それはそうだけど、高々300mだし、心霊スポットまでの道中もドキドキ感を高揚させるためのスパイスみたいな物だよ。せっかくだし歩こうよ」

「それもそうか。まあ、バリケード退かしてる時間を移動時間に費やせば到着時間も変わらなそうだしな。……って事で、ここから徒歩ですが問題ないですか?」

「はい。元々歩きの予定でしたので。ここまで乗せていただきありがとうございました」

「せっかくだし、一緒に行かない?万が一、他の人がいた場合は君の事を見えない体で話勧めるから。そうすれば元々の目的も果たせるでしょ?」

「そうですねー。道中で会ったのも何かの縁だと思いますし、ご迷惑でなければご一緒させていただいてもよろしいですか?」

「大輔、問題ないよね?」

「あぁ、問題ない。全員の目的地がトンネルなんだから、寧ろここで分かれる方が不自然なくらいだな」

全員の意見と各々の準備が完了し下車をする。

瑞希が足元を照らし先頭を歩く。

「そう言えば、こっちって旧トンネルだよな?新しいトンネルって何処にあるんだ?」

「さっきの道をもう少し進んだところにあるみたいだよ」

「へー……。そっちは曰くとか無いのか?」

「トンネルの中でライトを消してクラクションを鳴らすと霊が見えるとか、事故に遭いやすいとか、そういうやつ?」

「そうそう。まあ、トンネル内での事故云々は真っ暗なトンネルの中でライトを消してる時点でカマ掘ってくださいって言ってるようなもんだから自業自得な気もするけど……」

「ハハハッ。確かに。でも、新トンネルの方は変な噂は無かったかよ」

雑談をしながら目的地へと歩を進める。

緩いカーブを曲がりきったところで黙視出来るようになったトンネルだが、カーブや木々に阻まれていた所為で突如として闇夜に表れたように感じる。

それは巨大な怪物が大きな口を開けているが如く恐怖を煽る外観。まるで異界へいざなわれている錯覚に陥るほど迫力のあるものだった。

勿論、電気は通っておらず整備なども行き届いていない。ぽっかりと空いた大穴が目の前に存在しているだけだ。

「雰囲気出てるねー。何か吸い込まれそう」

「確かに迫力はあるな。吸い込まれそうってトンネル……ってかあの世から手招きされてるんじゃねーの?あーあ……、こりゃ、瑞希は返ってこれねーな。南無南無」

トンネルを前にして感想と軽口を叩く2人。

怖がっている様子は全く無い。

声のトーンが少し上がっている事から寧ろワクワクしているのは明白だ。

「と言う事で、俺たちは奥に進む予定ですが貴方はどうしますか?」

「そうですねー。ここに1人で居ても面白味がないのでご一緒してもよろしいですか?」

「問題ない……よな?瑞希」

「うん、大丈夫だよ。じゃあ、せっかくだから入口で1枚」

そう言うと、いつも通り自撮り棒にスマホをセットして撮影の準備に取り掛かる瑞希。

トンネルの入り口に3人並び記念撮影を済ませる。

撮影をした画像を確認しながらニヤニヤする瑞希。

「何か嬉しそうだな」

「だって、心霊スポットでの撮影っていつも2人だったでしょ。3人で撮影するのってなんか新鮮だなって思ってね」

「他に友達いらっしゃらないんですか?」

「少ないのは否定しないけど居ない事は無いんだけどね」

「いえいえ、そう言う意味ではなく、こういう場所に一緒に来る方が他には居らっしゃらないのかなと思いまして」

「あー……。そう言う事ね。心霊好きな人は居るけど、心霊スポット巡りをする人は居ないね」

「対岸の火事を見るのは好きだけど、いざ自分が当事者になって火に飛び込もうって人は周りには居ないですね。他人事ひとごとだから楽しめてる人が大半って事です」

「そうなんですね。では、お二人が一緒に居るのは良い巡り合わせだったのかもしれませんね」

「そうだねー。話すだけじゃ無くて一緒に行動出来る友達と出会えたのは幸運だったかもね。大輔が転校してこなかったら僕も心霊スポット巡りを趣味にしてなかったかもしれないし」

「転校……ですか?」

「転校って言っても小学2年の時だから結構前の話ですよ。昔話を始めると長くなるので出発しましょう」

「そうですね。少しプライベートな話に踏み込み過ぎたかもしれません。不快に思われたのなら申し訳ありません」

大輔の喋り方からあまり触れてほしくない話だと察したのだろう。

女性は了承の意と共に軽い謝罪をする。

「瑞希、ライト1つで問題ない?」

「えーっと……。うん。問題ないよ。大輔が暗いって思うならスマホのライト使ってね」

何だか気まずい雰囲気になってしまった事に戸惑いながら、瑞希は先頭を歩きトンネルの中へ侵入。

トンネルに入って数歩歩いた所で立ち止まり周囲を懐中電灯で照らしながら観察をする。

「少しヒビはあるけど結構丈夫そうだね」

「そうだな。腐っても廃トンネルはトンネル。トンネルだけあって丈夫には作られてるんだろう。って言うか、なんでわざわざコッチのトンネル潰して新トンネル作ったんだ?道筋から考えるとコッチのトンネルを使った方が山越えには早そうだけどな……。新トンネルの方って何処かで近道出来るようになってるのか?」

「どうなんだろう?そこまでは調べてないから分からないなー」

「大輔さんのおっしゃる通り、このトンネルを使用した方が近道です。しかし、十数年前にトンネルを抜けた先で崩落事故があり、その時に道が分断されてしまったのです。そして地質的にも少し遠回りになっても山肌に沿った道の方が安全と言う事となり、新しい道路の建設がなされたそうです。ですが、一部区間はどうしても山を掘り進めた方が良い場所があったらしく、そこが新トンネルになっています」

「へー……。詳しいな」

「趣味で通ってるもので……。うふふ……」

大輔の不機嫌さも刹那的なもので現在では普通な精神状態のようだ。

瑞希はホッと胸を撫で下ろし、進行方向へ懐中電灯の光を当て直す。

……その時、大輔が何かに反応をする。

「あれ?」

「どうしたの?」

「今、何か見えたような……」

「何処?」

瑞希は先程まで光を当てていた壁などを再度照らしながら異変が無いかを確認する。

「トンネルの先……。何か光ったような気がするんだけど……気の所為かな」

瑞希は大輔の返答に反応してトンネルの先を照らす。

しかし、トンネルの全長は300mほどあり、入口周辺にいる3人から出口の状況を確認する事は出来ない。

ただ、出口までの間で瑞希の懐中電灯が届く範囲に異変は見受けられない。

「他に誰か来てるのかな?他のグループの光かもよ」

「先客が居たらどうする?引き返す?挨拶だけして進む?」

「うーん……。いつもなら退却だけど、トンネルを歩いてる最中に引き返すのは不自然じゃない?トンネルの中で出会ったら挨拶してトンネルを抜けてからの場合は引き返すか出会わないようにコース取りすれば良いと思うよ。此処まで来たんだしもう少し楽しみたい。此処が今日最後のスポットだしね」

「と言う事で、俺たちは他の人と出会った場合は逃げる可能性があるので注意してください。1人で不気味に佇んでる場合は幽霊と思われるかもしれませんが、今は男2人と女1人の一般人グループです。普通の人の場合は見えないフリをして驚かせるのも良いですが、嘘だと思う人が大半でしょう。相手が怯む可能性は0に等しいので、貴方も危険だと感じた場合は一目散に逃げてください。最悪の場合は俺の車の周辺で身を潜めていてください。事態が落ち着いてから町まで送りますので」

「分かりました。杞憂に終わってくれると良いですね」

他者が存在する可能性に少し緊張が走る瑞希と大輔。一方、女性はおっとりとした感じでどこか他人事のような話し方をする。

大輔は女性の反応を多少訝しんだが、心霊スポットに驚かす側で来るような変人なのだから自分たちとは考え方が違い、危機感に乏しいのも致し方ないのだろう。と納得をする。

「考えすぎても時間の無駄だし進も」

短い作戦会議も終了し、早く心霊スポットの探索をしたいと言う気持ちを隠しきれない瑞希は先に進む。

現在、大輔はスマホのライトを起動していない。実質、光源は瑞希の持っている懐中電灯のみである。

つまり、行動の主導権は瑞希にある。

大輔も特に瑞希の意見に反対する意思もないので少し先を進む瑞希に遅れた分を速足でついて行く。

「さっきの話って誰か犠牲者出たの?」

先を急いだものの、代り映えしない風景に飽きたのか、瑞希が女性に話題を振る。

「はい。1人の女性が……。その女性って言うのが……、私……です……。なーんて怖い話によくあるような展開は無く、犠牲者は居なかったようです」

「少し期待したのに残念。……あっ、犠牲者が居なくて残念って話じゃないからね」

「ウフフ……。分かってますよ」

そんなこんなで雑談をしながら歩いているうちに、トンネルの出口が近づいてきた。

残りの距離は100mに満たないだろう。


大輔が何かを見たような気がすると発言して以降、瑞希と大輔は時折トンネルの出口の様子を確認しながら歩いていた。

しかし、不自然なものは一切確認出来なかった。

「あっ、あれって……」

だが、ここにきて女性が何かを見つけたらしい。

女性が指差す方向を2人も見つめるが、何の成果も得られない。

先程と同じく、女性の冗談かと2人は思ったが、どうやら違うらしい。

女性は2人を抜き去り何かを発見したであろう方向へ小走りで近づき始める。

「ちょっ、暗いから走ると危ないよ」

自分の足元から女性の進む先へ懐中電灯の灯りを照らしながら追いかける。

そして、出口を抜ける前に2人も女性が発見したであろう何かを目の当たりにした。

少し遠くにぼんやりとした白い光の様なもの。

2人は先頭を走る女性を追い抜く勢いでトンネルを抜ける。

発光する物体を明確に確認する事は未だに出来ていないが、雰囲気で何であるかは理解出来る。

トンネルを抜けた2人が目にしたものそれは……。


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