何も考えずに書き殴っていたら異世界に転移するまで膨大な量になってしまった第1話(転移まで14話)
「ゴメン……瑞希────」
そう言うと大輔は瑞希の肩を強く押し出しすように突き落とした。
「うわーーー!!!」
何かにつかまろうと必死に手をばたつかせるも何に触れる事も出来ず瑞希の身体は落下を続ける。
身体をビクつかせ目が覚める。
未だに手足をばたつかせている瑞希だが、手足に触れる物は何も無い。
「夢か……。まあ、そうだよなー……。大輔に限ってあんな事する訳ないよなー……」
冷静になった瑞希は、脱力したかのように手足を床に落とし、夢だった事を認識すると気怠そうに上体を起こす。
「それにしても暇だなー……」
何もする事が無く、2度寝に近い昼寝をしていたのだが、悪夢によって起こされてしまった。
瑞希は再度両手両足を投げ出すと大の字で横たわる。
辺りを見渡し、乱雑に積まれた大学の講義で使用している教科書が目についた瑞希は独り言ちる。
「やっぱりサークルでの友達作りに失敗したのが痛かったよな……」
大学1年目の夏休み、友達と遊ぶ予定もなく暇を持て余している現状。
瑞希はその元凶とも言える、サークルの新歓コンパでの立ち回りを後悔している。
サークルでの関係が全てではないが、大学内での人間関係を構築する上でサークル活動は結構な割合を占める部分も多々ある。
そして、そのサークル内での人間関係の構築の第一歩。足掛かりのとも言える新歓コンパでの失敗。
そして、親からは「留年したら仕送りを止める」と言われており、生活するのに十分な額の仕送りもいただいている。
つまり、バイトをする理由もない。……人との繋がりを持つと言う理由はあるにはあるが、人と繋がる為だけにバイトをしたいかと問われれば瑞希は「No」と答えるだろう。
結果としてノンバイノンサーの瑞希は現在通っている大学どころか近場に知り合いらしい知り合いの居ないボッチ大学生になってしまったのである……。
「実家に帰ろうかな」
このまま一人暮らしをしている大学近くのアパートに居ても仕方がない。そう考えた瑞希はスマホを操作し連絡先から実家を探す。
スマホ画面をスワイプしている途中、とある名前に目が留まる。
『ダイスケ』と登録されているのは瑞希の高校時代の親友。瑞希のよき理解者でもあり、瑞希と類する趣味の持ち主。
そして、先程の悪夢で瑞希を突き落とした張本人でもある。
別の大学へ入学して以降、メッセージアプリで偶に連絡を取る程度で久しく声は聴いていない。
久しぶりに会話をしようと思い立った瑞希はスマホを操作して電話を掛ける事にした。
今となっては悪夢の事は瑞希の頭から忘れ去られている。
Prrrr......
Prrrr......
幾度かの呼び出し音の後、電話が繋がる。
「もしもし?」
「もしもし、大輔?久しぶり」
「おぉ、瑞希久しぶり。急にどうした?何かあったのか?」
「実は、大学が夏休みに入ったんだけど、暇で────」
電話をした経緯を軽く話し、近況を報告し合うなど話に花を咲かせる。
「────で最近、暇すぎて心霊スポット検索してたんだけど近場にも色々あって、面白そうな場所も見つけたんだけど今度一緒に行かない?」
「んー……。いいけど、今、車の免許取る為に合宿中なんだよな。あと4日で終わるからその後で良いか?何か車は買ってもらえるっぽいから初のドライブがてら心霊スポットに行く感じでどう?」
意気揚々と心霊スポット巡りの話を持ち出したものの大輔の返答を聞き、少し肩透かしを食らった感が否めない。
しかし、事情があるので致し方なし。そう考えた瑞希は大輔の提案を了承する。
詳細な予定は大輔が無事、自動車免許を取得してからと言う運びになった。
もう少し会話を楽しみたかったと言う想いはあったが大輔は忙しそうだ。
名残惜しさはあるものの電話を切り、自身の今の状況と大輔との現状を比較し独り言ちる。
「免許か……。僕も暇な時間に何か資格の勉強とかしようかな……。でも、暑くて動くの面倒だし今度暇な時にゆっくり考えれば良いか」
もし瑞希が大学3年ないし、4年生なら就職活動の為にとやる気も出るのだろう。
しかし、大学に入りたてで将来の事を考えていない瑞希は考えるだけで行動に移す気は一切ない。
夏の暑さも相まって完全に無気力状態なのだ。
いや、元々やる気のない怠惰でずぼらな性格を暑さの所為にしているだけだ……。
とは言え、大輔が自動車免許を取得する予定である4日後までの暇が確定した。
瑞希は横になりながらスマホを弄り近場の心霊スポットの検索に明け暮れる。
気がつけば黄昏時。
薄暗い部屋の中、スマホの画面に夢中な瑞希であったが……。
「お腹すいた……」
どうやら空腹には勝てないようだ。
のそのそとやる気なく台所に移動した瑞希は冷蔵庫を開け落胆する。
「何もない」
正確に言えば飲み物はある。
瑞希の性格上、料理は面倒と考え基本的に食事はコンビニやスーパーなどの出来合いの弁当か冷凍食品などがメイン。よって、冷蔵庫が空なのは日常茶飯事。
そんな生活をしているので瑞希の使用している冷蔵庫は一人暮らし用の中でも割と小さい部類の物である。その事も冷蔵庫の中身が無くなる原因の1つなのだろう。
瑞希は「仕方ない」と呟き、早々に冷蔵庫からの食糧調達を諦めて立ち上がる。
近くのコンビニに買い物に行こうかと悩んだが、身支度を整える面倒さが勝る。
戸棚を開けカップラーメンを取ると「これでいいか」と自身を納得させ準備に取り掛かる。
電気ケトルに水を入れ、お湯が沸くまでの間に割りばしを取り出す。
お湯が沸くまでの間スマホをポチポチ……。
お湯が沸き、カップにお湯を注いだ後もスマホをポチポチ……。
心霊スポットの検索に夢中になり過ぎ、麺が少し伸びてしまったが細かい事は気にせずに麺を啜りながらスマホをポチポチ……。
元々は自転車や公共交通機関などを駆使し、一番興味のあった心霊スポットに行ければ良いと考えていた瑞希だったが、大輔の『車は買ってもらえるっぽい』との発言から車があれば1日に数カ所回る事も可能なのでは?と考え直し、心霊スポットの検索に夢中になっている。
食事を終え、近場の心霊スポットの検索なども粗方終えた瑞希は台所へ向かうと完飲しなかったスープを流しに捨て、カップラーメンの容器を洗う。
瑞希はずぼらな性格だが、ごみの処理と部屋などの生活スペースの清掃は怠らない。
何故なら瑞希は大の虫嫌いだからだ。
カップラーメンの容器を水切りかごに置き、シンク周りを軽く拭き掃除。
満足した瑞希は軽く「よしっ」と呟くと部屋に戻る。
再度スマホをポチポチと操作をする。
まるでデートプランを考えるが如く心霊スポット巡りで効率よく回れそうな場所やルートなど試行錯誤を重ねながら綿密な計画を立てようと必死なご様子。
あそこも行きたい。ここも行きたい。こっちに行くと時間が掛る。この辺りには心霊スポットは多いが魅力的な場所が少ないなどなど。
傍から見たらそんじょそこらの心霊スポットよりも薄暗い部屋で電気もつけずにブツブツと不平不満を呟いたり、不敵な笑みを浮かべたりしながらメモを取る瑞希の現状の方がよっぽど怖いだろう。
何か悪いものに取り憑かれているのではないかと心配になってしまう。
元々暇潰し目的で掛けた電話だったが、大輔が免許を取得する予定の日まで心霊スポットの事ばかりを考える事となり、結果として良い暇潰しにもなっていたと思う瑞希であった。
1話を最後までお読みいただきありがとうございます。
私事で申し訳ないのですがが、本作品は全て予約掲載になっています。
(16話まで1日1話、20時に予約)
ご意見、ご感想、誤字報告などは4月頃まで対応出来ません。
何かあった場合は4月以降まとめての対応となります。
ご了承ください。