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貴音はおねえちゃんのバイト先に来たのです(貴音side)

 



「あっ運転手さん、ここで降りるのです」




 貴音(たかね)はおねえちゃんのバイト先へタクシーで向かったのです。本当は電車とバスを乗り継いで行こうと思っていたのですが、心配性のパパが勝手にタクシーを呼んでしまったのです。


「あれ? お嬢さん、ジムはもう少し先ですよ」

「いいのです! 他に寄りたい所があるからここでいいのです」


 おねえちゃんがバイトしているジムの建物から二百メートルほど手前で貴音はタクシーを降りたのです。これには理由があるのです。


 ――おねえちゃんにメチャクチャ怒られそうだからなのです!


 おねえちゃんは貧乏性なのです……要するにケチなのです! ただでさえおねえちゃんに内緒で来たというのに、タクシー使ったなんてことがバレたらもう二度と口きいてくれなさそうなのです。


 だから貴音は、手前で降りてここから歩いていくのです。



 ※※※※※※※



 おねえちゃんがバイトしているジムの前まで来たのです。会員制と聞いていたので格式高そうな場所だと思い緊張していたのですが、元々何かのお店だった建物を改装したような感じなので少し安心したのです……正直、高級感はないのです。


 よく考えたら……あのおねえちゃんが格式高い場所にいるハズがないのです。


 さっそく中に入ってみるのです。高級感はなさそうなのですが、初めて入る場所なので再び緊張してきたのです!


 ガラス張りになった部屋の中では、女の人が今まで見たことのない「遊具」で遊んでいるのです。小学校の校庭にはあんな遊具はなかったのです! 貴音は部屋の中をキョロキョロと見回しておねえちゃんを探したのです。すると


「あの……何かご用でしょうか?」

「ぴきっ!」


 突然後ろの方から声をかけられ貴音は驚いたのです。


「あっ……ああああのっ……」


 声をかけてきたのは、おねえちゃんよりちょっと年上くらいのジャージを着た女の人なのです。よく見るとガラス張りの部屋の中にも同じジャージを着た女の人が何人もいたのです。貴音は初対面の人とあまり話をしたことがないので緊張がMAXになっていると、その女の人が


「もしかしてご入会でしょうか?」


 と聞かれたのです。入会……そうなのです! 貴音はこのジムの会員になっておねえちゃんに会うのです!


「あっ、そうなのです! 貴音はこちらの会員になりたいのです!」


 貴音がそう言うと、その女の人は


「そうですか、ではこちらの用紙に記入をお願いします」


 と言って「入会届」と書かれた紙とペンを差し出してきたのです。でもなぜか貴音のことを怪しい人を見るような目で見ているのです。

 貴音は用紙に必要事項を記入したのです。するとその紙を見た女の人は信じられないことを言ってきたのです。


「申し訳ありませんが、お客様は会員になることができません」


 ――えっ、えぇええええっ!?


 なぜなのです?


 なぜ貴音は会員になれないのですか!? 予想外の出来事に、貴音はショックで頭がクラクラしてきたのです。この女の人の言ってることがよくわからなくなってきたのです。


「当施設は十八歳未満……」


 たっ、貴音は他の人と何が違うというのですか!?


「お客様は中学生でいらっしゃるので……」


 そっ……そうなのです! 貴音はハーフなのです。きっとこのジムは日本人しか会員になってはいけないのです(※貴音は日本人です)!


「申し訳ございませんが今回は……」


 これは人種差別なのですぅううううっ(※勝手に勘違いしているだけです)!


 でも……貴音はここで引き下がれないのです!


 貴音がここでおねえちゃんに会うために「たまたま通りかかった」というのは言い訳にならないのです。ここはママさんに言われた通り「ジムで鍛えたい」という理由で会員にならなくてはダメなのです。


 ――だから絶対に引き下がれないのです!


「そっ、それは貴音がハーフだからダメなのですか!?」

「えっ?」

「髪の毛や目の色で会員になれないなんてひどいのです!」

「あっ、いえ……ですからお客様は未成……」

「貴音はおねえちゃんに会いたいのです! 貴音は会員にならないとおねえちゃんに会えないのですぅううううっ!」

「お、お姉ちゃん……ですか?」

武川(たけかわ)いづみなのです! 貴音は武川いづみの妹なのですぅううううっ!」

「えっ……あっ、少々お待ちください!」


 貴音がおねえちゃんの名前を出すと、その女の人は近くにいたオバさんとヒソヒソ話をし始めたのです。そしてそのオバさんはどこかに行くと、しばらくしておねえちゃんを連れて戻って来たのです。


「貴音ちゃん!」

「あっ、おねえちゃぁああああん!!」


 さっきまで知らない人たちに囲まれて怖かったのです! 貴音はおねえちゃんを見つけるとすぐに抱きついたのです。


「この人たちひどいのです! 貴音が会員になりたいって言ったのにダメって言うのです! 差別なのです! 貴音がハーフだから人種差別なのです!!」


 するとおねえちゃんはあきれた顔をしながら


「あのなぁ……ココは十八歳以上でないと会員になれないんだよ!」



 ……えっ?



 ――ママさん! そんな話聞いてないのですぅううううっ!



 ※※※※※※※



 作戦は大失敗なのです!


 中学生の貴音はここの会員にはなれなかったのです。そんなことママさんから一言も説明がなかったのです。


 会員になれなかった貴音は、最低最悪の状況でおねえちゃんと会ってしまったのです。これじゃ普通にカフェに入って「たまたま寄っただけなのです」とウソついた方がマシなのです。

 貴音はおねえちゃんがバイトしているカフェに連れていかれ、そのまま席に座らされたのです。おねえちゃんを連れて来たオバさんも一緒なのです。おねえちゃんの話ではこの人はジムのオーナーさんだそうなのです。


 おねえちゃんは何となく怒っている様子なのです……最悪の再会なのです。


「何で来たの!? ってか何でココでバイトしてるってわかったんだよ?」

「もっ、もうすぐ学校で球技大会があるのです! 貴音は体力をつけるためジムに入ろうとしたのです! そしたら()()()()おねえちゃんが……」

「ウソだよね!? 体を鍛えたかったら家の近くにもジムいっぱいあるよ!」


 ――完全に怒っているのですぅううううっ!


「……ウソなのです。本当はおねえちゃんに会いたかったのです……おねえちゃんが最近夕ご飯にいないから寂しかったのです……ぐすっ」


 貴音は正直に話したのです。


「あのなぁ、こっちは仕事してんだよ! そんな勝手な理由で……」

「まぁまぁいづみちゃん!」


 完全に怒っているおねえちゃんを、オーナーさんが止めに入ってくれたのです。


「妹さんもまだ子どもだから寂しいのよ……だから許してやって」

「あ、はぁ……」

「それにしても困ったわねぇ、ここはマシンが多くて危ないから子どもさんにいてもらってはマズいんだけど……」


 オーナーさんが困っていると



「かかっ、カワイイっ! えっ、いづみさんの妹さん!? うわぁカワイイっ!」



 貴音はメガネをかけた知らないお姉さんに声をかけられたのです。

貴音なのです。何でジムに未成年が入ってはダメなのですか?

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