私は妹とキスがしたい(いづみside)後編
――私は妹とキスがしたい!
夕食後、母・茅乃の提案で私たちは尾白家の昔のアルバムを見ていた。私はこのとき初めて妹・貴音ちゃんの亡くなった実の母親・ノラさんの写真を見た。
ありえないほどの美人でしかも巨乳……生きていたら私も絶対一目惚れしてしまいそうな素敵な女性だが、彼女が写っている写真は夫で私の継父の延明さんや妹とキスしているものばかりだった。
もしかして外国人だから、挨拶代わりにキスする習慣でもあるのか? 私はこの写真を見て、心の中に「ある邪な考え」が浮かんだ。
――私は妹と……挨拶代わりにキスできんじゃね?
妹は外国人である母親の血を引いている。たとえ物心がついていなかったとはいえ、幼いころ母親とキスしまくっていた! ならばきっと私とだって気軽にキスしてくれるかもしれない。
かと言っていきなり「貴音ちゃ~ん、キスしよ♥」と迫ったら引かれるだろう。私はさりげなく妹とキスできるような状況を生み出す「作戦」を考えた。
※※※※※※※
家族全員でアルバムを見たあと……
「貴音ちゃ~ん、今から一緒にドラマ見ない? これ面白いよー」
私は、お風呂から上がって二階に上ろうとしていた妹を引き留めた。
「もう夜遅いのです。貴音は寝るのです」
「大丈夫だよ! 明日は日曜だし朝もゆっくり寝ていればいいじゃん」
「貴音は眠いのです。見ている途中で寝てしまうかもしれないのです」
「そのときはお姉ちゃんが『お姫さま抱っこ』して部屋まで連れて行くよ♥」
「見るのです♥」
――よっしゃ引っかかった!
今から妹と見ようとしているドラマ……これは男女の恋愛を描いた、私にとってはどうでもいいクソドラマだ。
だが目的はそこではない! 実はこのドラマ、毎回主人公とヒロイン役の俳優による『濃厚なキスシーン』が話題となっている。
そう、このクソドラマを見たい本当の理由は「キスシーン」だ。
「おねえちゃん」
「ん? なーに?」
リビングのソファーで隣に座った妹が、
「こんな時間にやってるドラマ……きっとえっちなのです」
「えっ!? そそそっそんなことないよー」
――図星だ妹よ!
本当ならお子ちゃまの妹には見せたくないし、家族で見ていると気まずくなるようなドラマだ。だがあえて「キスシーン」を見せることによって妹に「キス」したい気分にさせる作戦なのだ!
『何で!? 別れたって言ってたじゃない!』
『信じてくれ! オレは……』
あーやっぱりつまんねークソドラマだ! 二股を清算しきれないとかマジでこの男クソだわ。ヒロイン役の女優さん、好みのタイプなんだけどなぁ~残念!
この展開……たぶんもうすぐキスシーンだろうけど仕方ない、脳内変換で私がこの男優になって女優さんとキスする妄想に浸ろう……あっ!
――出た! お約束のキスシーンだ!
うわっ思った以上に濃厚だわ! 唇と唇……というより口と口を角度変えながら重ね合わせているじゃん! こりゃ絶対に舌を絡めている設定だわ! えっ近くにベッドがないけどこのまま最後までヤッちゃうのか!?
さすがにこれをお子ちゃまに見せるのはマズかったか? 画面に集中しすぎて妹の存在を忘れていた私は、我に返って妹の表情をうかがった。だが……
「ぐー、すぴー」
妹は寝ていた。たぶんタヌキ寝入りだと思うが……。
作戦失敗! 私は妹をお姫さま抱っこして部屋まで連れていった。
※※※※※※※
「貴音ちゃ~ん、一緒にゲームしない!?」
次の日の夕食後、私は新たな作戦を決行すべく妹の部屋へやって来た。
「何のゲームなのです?」
私はある「お菓子」を妹に見せながら
「あっあのさぁ……ポッチーゲームって知ってる?」
「……知らないのです。何なのです?」
知ってたら目的がバレる……とりあえず第一段階クリア。そう、いわゆる「ポッチーゲーム」で妹とキスしようという作戦だ。
「あのね……こうやってポッチーの両側を二人で咥えてね、お互い食べ進めていくんだよ! でね、たくさん食べたほうが勝ちっていうゲームなんだけど……」
「……やるのです!」
妹は少し考えた後そう答えた。よかった、これ以上考えさせると「真の目的」を悟られてしまうだろう。
「じゃあさっそく……」
私がポッチーを咥えようとすると
「ちょっと待つのです」
あ゛……目的がバレたか!?
「貴音はチョコレートの方がいいのです」
「えっ、あぁ……いいけど」
何だ、手で持てるプレッツェル側じゃなくてチョコレート側がいいってことか。まぁお安い御用だが……
「よーい、シタート」
私はプレッツェル側を咥えながらスタートの合図をした。妹はポッチーが大好きなので、このまま食べ進めていくのは間違いない! そうすれば……むふふっ♥
――ところが、妹は思わぬ行動に出た!
〝ポキッ〟
妹がポッチーを咥えたまま首を下げたのだ! ポッチーはチョコレートとプレッツェルの境目あたりで折れ、チョコレート部分が全て妹に渡ってしまった。
「貴音の勝ちなにょでふ」
妹はポッチーを食べながら勝ち誇っていた。
「いっ、いやそういうゲームじゃねえから! 折っちゃダメ」
「じゃあもう一回勝負するのです」
「おっ、おう! 望むところだ」
――キスできるまで何回でもやってやる!
〝ポキッ〟
――うわっ、まただ!
「もうっ、折ったらダメだって言ったじゃん」
「ごめんなさいなのです! もう一回するのです」
〝ポキッ〟
「こっ、これは事故なのです!」
〝ポキッ〟
〝ポキッ〟
……
「おいしかったのです♥」
妹は私から何度注意されてもポッチーを折ってしまい、全てのチョコレート部分を食べ尽してしまった。結局私はチョコレートのないポッチーを一箱分食べただけで終わった。コイツ、どう考えてもワザとやってるだろ!?
うわぁー失敗! 空箱を持ったまま私が凹んでいると
「もう、おねえちゃんはそんなに貴音とキスしたいのですか!?」
――げっ! やべぇ! 目的がバレてる!?
「やり方が姑息なのです! ママさんに言いつけるのです」
――うわぁ、しかも怒られたぁ!
「反省するのです! そこに正座して目をつぶるのです」
茅乃にバレたらマズい! 私は妹に言われるがまま正座して目をつぶった。
すると……
ちゅっ♥
私の唇にやわらかいモノが……目を開けるとそこには妹の顔が迫っていた。
「もう、キスぐらい普通にすればいいのです」
――えっ!?
「ママの国では『あいさつ』なのです! だから今のは……おやすみのキス……なのです」
そっ、そうか……普通に「挨拶」なのか。
「だっ、だからもうおやすみなのです! 早く部屋から出ていくのです!」
私は立ち上がると、妹に背中をグイグイ押されて廊下に追い出された。妹はすぐにドアを閉めたので表情を見ることはできなかった。
私は自分の部屋へ戻ると、ベッドに寝そべり心の中で「絶叫」した。
――やっ……やったぁああああああああっ!!
恋愛感情じゃないことはわかっている。でも……
私は妹とキスをした。
妹の唇は柔らかく……少しチョコレートの香りがした。
貴音なのです。次回は貴音視点なのです。




