私は妹とキスがしたい(いづみside)前編
それは、母・茅乃の「ある一言」がキッカケだった。
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私のバイトがない土曜日、夕食後に家族全員でくつろいでいると
「ねぇ延明さん、この前のアルバムが見たいんだけど……」
突然、茅乃が継父にこう言い出してきた。
私はすぐにピンときた。「アルバム」と言うのは二階にトイレを新設した際、トイレ設置場所となる納戸を片付けたときに見つかった「アルバム」のことだ。
納戸には継父の書斎に入りきらなかった本が大量に置かれていた。その奥に昔のアルバムがあったのだが、おそらく茅乃はそのことを言ったのだろう。
普通アルバムというのは取り出せないような場所に収納しない。見たいときに見ることができなかったら意味がないからだ。それだけでもあの場所にあったのは不自然なのだが、さらに不自然なことが起こった。
見つかって早々、継父が書斎に隠してしまったのだ。書斎は仕事で使う大事な資料が多いという理由で、継父以外は誰も入ることができない。家族の誰にも見せようとせず、まるで男の子がエッチな本を隠すようにコソコソと自分の「聖域」に持ち込んだ……おそらく茅乃はそれが気に入らないのだろう。
「えっ……あぁあれかい? かっ茅乃さんは見ない方がいいと思うけど……」
継父は追い詰められた犯人のようにしどろもどろになっている。私も……そして茅乃も、継父の態度でこれがどういうアルバムなのかだいたい想像できた。
――これは……「前の奥さん」が写っているアルバムだ!
実は茅乃も私も「尾白家」のアルバムは見たことがある。だがそれは全て継父と娘の貴音ちゃんだけが写っているアルバムだった。娘……つまり妹が赤ちゃんのときの写真は未だに見たことがない。
継父にはフィンランド人の前妻がいた。その人は妹が三歳のときに亡くなったのだが、おそらく継父は茅乃に気を遣って前の奥さんのことに触れないようにしているのだろう。
「あら、もしかしてノラさんを私に見せたくないの?」
「い゛っ!? そっそそそんなこと……」
デリカシーゼロ女・茅乃が単刀直入に聞いた。「ノラ」さんとは前の奥さんの名前だ。やっぱりそうか……だがお継父さん、心配ご無用! 茅乃は前妻に対して触れたくないどころかむしろ積極的に聞きたがるようなヤツだ! 何しろ娘の私に過去の男性遍歴を語るほどデリカシーの無い女だからなぁ……。
ただひとつ例外は茅乃の前夫……つまり私の「実父」に関して茅乃は一切話題にしたことがない。これは私に対しての配慮だろう。
「いやぁ……でも」
「貴音も見たいのです! 貴音も久しぶりにママを見たいのです」
困惑した継父に対し、妹も見たいと言い出した。おそらく茅乃がこの家に来る前はそのアルバムを見ていたに違いない。妹が物心つく前に実の母親は他界しているので、おそらく写真やビデオでしか見たことがないのだろう。
「いづみは見たくないの?」
「えっ、そりゃ見たいけど……」
「三対一、決まりだね! 延明さん、持って来て」
「えぇぇーっ……」
継父は渋々書斎へ向かった。
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書斎から戻ってきた継父は四冊のアルバムと数本のビデオテープを持ってきた。
「あら、ビデオもあるじゃない!? じゃあそれも見ましょ」
「それなんだけどね……これ、ミニDVなんだよ。ビデオカメラ買い替えちゃったからもう再生できないんだ」
「ダメじゃん」
「まぁ、今度業者にダビングしてもらうよ」
「じゃあアルバム見ましょ!」
茅乃は意気揚々とアルバムを開いた。妹も隣でアルバムを覗き込んでいる。
一体どんな人なんだろう……私は一度呼吸を整えてから、茅乃や妹が見ているのとは別のアルバムを開いた。どうやらアルバムは一年ごとにまとめてあるらしい。
「あら~貴音ちゃんって赤ちゃんのときからカワイイねぇ~♥」
「な……なんかチョット恥ずかしいのです」
茅乃たちが見ているは妹が生まれた年のアルバムらしい。私が開いたのは、どうやら妹が生まれる前……継父と前妻・ノラさんが新婚のときの写真のようだ。
――うわっ!! メッチャ美人♥
妹の実の母親だ……美人だと想像はしていたがこれほどまでとは。透き通るような瞳、すぅーっと通った鼻……もしこの人が生きていて独身だったら、私は絶対この人に惚れていたと思う。妹は間違いなく母親似だ。
ただ……この人はメッチャ「巨乳」だ! ここだけは妹と違う。もしかしたら妹も将来はこのくらい大きくなるというのか? 私は妹に声をかけた。
「貴音ちゃん!」
「はいなのです」
「心配するな、大丈夫!」
私は親指を立てて妹に向けた。
「……何なのです?」
将来おっぱい大きくなるよ……そんなこと言えるワケがない。
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「じゃあおねえちゃん、今度はこっちを見るのです」
私は妹とアルバムを交換した……今度は妹が赤ちゃんのときのアルバムだ。妹は赤ちゃんのときもカワイイ♥
ただ……これまでアルバムに写っているノラさんを見ていて私はある「違和感」を覚えていた。
――この人……キスばかりしてるんですけど!!
日本によくある一般的な家族写真と何か違うなぁーっと疑問に思いながら見ていたのだが……そうかっ! 日本人の家族は夫婦や母子でキスなんかしねぇわ!
とにかく継父や妹と ♥チュッチュチュッチュ♥ しまくっているのだ! なにコレ? やっぱ外国人って挨拶代わりにキスする習慣があるってこと? 日本人の私からしたらこの写真は衝撃的だぞ!
――ん!?
と、そのとき……私の頭の中に「邪な考え」が浮かんできた。
――だとしたら私も、妹と挨拶代わりにキスできんじゃね?
妹は母親の血を引くハーフだ。国籍は日本人だが、その見た目からして外国人と言っても過言ではない。
日本人の継父とキスなんて冗談でもしたくないが、妹となら……このアルバムのように気軽にキス出来るのでは?
しかしさすがに「貴音ちゃーん、この写真みたいにお姉ちゃんとキスしよ♥」とは言いづらい。すると茅乃が、
「貴音ちゃーん、ママとキスしてる写真多いよね? ねえねえ! こっちのママにもキスしてくれる?」
――ノーデリカシーグイグイ女、やりやがったぁああああっ!!
「いいのです♥」
――いいんかぃいいいいっ!?
「じゃあまずパパから……ちゅっ♥」
「ありがと」
やっぱり妹には外国人の血が流れているのか……継父にキスすると
「次はママさんなのです……ちゅっ♥」
「あらぁ~うれしいっ♥」
茅乃にもキスした。えっ、まさかここで私だけナシ……とかないよね?
「おねえちゃんにも……ちゅっ♥」
妹は私にもキスをしてくれた! わーい♥
――って「ほっぺ」かよぉおおおおっ!?
おうおうっこちとらガキの使いじゃねーんだよ! そんなんで喜ぶかぃ!?
違うだろ妹よ! この写真でママとやっているのは……
私が求めているのは……『マウスtoマウス』のキスなんだよ!!
このとき、私の(下)心に火がついた。
――私は……妹と『マウスtoマウス』のキスがしたい!!
貴音なのです。おねえちゃんがまたヘンなことを考えたのです。




