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貴音は黒ずくめの人に襲われたのです(貴音side)後編

 



「ふ……二人はパパの本当の恐ろしさを知らないのです」




 貴音の家に「黒ずくめ(ゴキブリ)の人」が現れたのです! 貴音はおねえちゃんやママさんに助けを求めたのですが、おねえちゃんもママさんもゴキブリ()()がメチャクチャ苦手だったのです!

 そこでママさんがパパを呼ぼうとしたのです! でもそれはダメなのです! パパに頼るのは最終手段なのです!! なぜなら、パパは……


「どうしたんだい、騒々しいんだけど……」


 パパが騒ぎを聞きつけて二階に上ってきたのです! 最悪なのです!


「あぁああああっ、延明(のぶあき)さん! 廊下にゴキブリがぁ!」


 ママさんが半泣きでパパに助けを求めたのです。こんな弱気なママさんは初めて見たのです。


「なんだ、ゴキブリ()()かぃ? あぁ、ちょっと待っててね」


 そう言うとパパはゆっくり一階へ下りたのです。たぶん書斎に向かったのです。


「はぁー、これで何とかなりそうだ」

「ホント、やっぱ頼れるのは男の人だねぇ~!」


 おねえちゃんとママさんは安心しているのです……でも違うのです! 二人はパパの「本性」を知らないのです!


 これから……本当の恐怖が始まるのです。


「お待たせ―」


 パパが戻ってきたのです。手には……やっぱり! 大きな「封筒」を持っていたのです! これは原稿を送るときなどに使うヤツなのです。

 おそらくおねえちゃんたちは、パパが殺虫剤か丸めた新聞紙でも持って来ると想像していたのです。でも持ってきたのが大きな封筒だったのでキョトンとした目をしていたのです。


「ゴキブリさんゴメンねー、ちょっとの間だけでいいからこの中に入ってねー」


 パパはゴキブリの人に声をかけながら、じわじわと廊下のすみへと追い込んだのです。そして逃げ場を失ったゴキブリの人は封筒の中へ自ら飛び込んだのです。


「よし! 捕まえたー」


 パパはゴキブリの人を「生け捕り」にすると、すぐに封筒の口を閉じたのです。


「はっ、早くそのまま潰しちゃってぇー!」

「ちょっまだ生きてんじゃん! 殺さないの!?」


 ママさんとおねえちゃんが騒ぎたてるとパパは



「えっ何で? この子は何も悪いことしてないのに……」



「……えっ?」


「あのね、全ての生き物には『生きる意味』があるんだよ! それを見た目とか勝手な理由だけで殺しちゃあいけないよ」


「……?」



 ――そうなのです!



 パパは……虫の人を絶対に殺さないのです!!



 パパは童話作家なのです。パパが書いた童話や絵本には、虫の人が主人公のお話もあるのです。だからパパにとって生きている物は全て「お友だち」なのです!


 パパはとっても優しい人なのです。でも……方向性が間違っているのです!


「ええっ! じ、じゃあどうするのソレ!?」

「もちろん、この家にいてもらっても困るからね」

「あぁあああ当たり前だよ!」

「だから……ゴキブリさんには()()()()()()()もらおうよ」


 そう言うとパパは窓のある場所へ移動したのです。封筒の中にいるゴキブリの人が〝カサカサカサ〟と音を立てたので、おねえちゃんとママさんは「ひぃっ!」と言って背中を壁につけたのです。


 パパは窓を開けると


「ほーら! もう家に入って来るんじゃないぞ」


 手を伸ばして封筒の口を開けたのです。


「やっ、やだやだっ! 戻ってきたらどうすんの!?」

「んー、大丈夫だよ……たぶん」


 パパは封筒の口を下に向けて振ったのです。するとゴキブリの人がズルズルと滑り落ちてきて、外に出た瞬間〝ブーン〟と音を立てて飛んでいったのです。


「いやぁああああああああっ!」


 貴音とおねえちゃんとママさんの三人は声をそろえて悲鳴を上げたのです。ゴキブリの人が空を飛ぶ姿……できれば一生見たくなかったのです。


「延明さん! はっ、早く窓を閉めて! また入ってきちゃう」

「大丈夫だよ、たぶん大自然の中に帰っていったよ」


 パパ……ここは田舎だけど住宅地の中なのです! 大自然じゃないのです!


 もしかしたらあのゴキブリの人、今度は他の家にご迷惑をおかけするかもしれないのです!


「バイバーイ」


 パパがのんきなことを言ってゆっくり窓を閉めようとしたとき……今度は


 〝ブゥウウウウンッ〟


 と、さっきのゴキブリの人とは比べ物にならないくらい大きな音を立てた「黒ずくめの人」が入れ替わるようにやってきたのです!


「ギャァアアアアアアアアッ!」


 貴音たちの悲鳴は絶叫に変わったのです!


「ほらーっ! やっぱり戻ってきたぁああああっ!」

「いや違うぞ! 今度はメチャクチャ大きいゴキブリだぁー!」

「たっ、貴音はもうオシッコちびりそうなのですぅううううっ!」


 今まで見たことがない大きさの「黒ずくめの人」が入ってきて床の上に落ちたのです。再び貴音たちはパニックになったのです。


「えぇっ!? こりゃ珍しい」


 でも、パパはその「黒ずくめの人」を見た瞬間、驚くのと同時にその人を素手でつかんだのです。


「ちょっと! 何でゴキブリを素手でつかんでるのよ!!」

「いや、これゴキブリさんじゃなくて……」

「ゴキブリでしょどう見ても! はっ、早く捨ててぇええええっ!!」

「えっ……えぇ~っ!?」


 ママさんに怒鳴られたので、パパはその大きな「黒ずくめの人」をつかんだまま窓の所まで持っていったのです。そして名残惜しそうに


「じゃあね! こんな場所じゃ難しいかもしれないけど、ちゃんと『つがい』を探すんだよ」

「そんなモン、繁殖しなくていい!!」


 パパが手のひらに乗せた「黒ずくめの人」は、再び〝ブゥウウウウンッ〟と大きな音を立てて飛び立っていったのです。


「行ったよ」


 パパは窓を閉めると、貴音たちは一気に緊張が解けたのです。


「はぁ~、やっといなくなった」

「こっ、今夜はうなされそうなのです」

「それより延明さん! なんでゴキブリを手で掴むの!? もうっ、ばっちいじゃないの!!」


 ママさんに怒鳴られたパパは、


「いや、あれはゴキブリさんじゃないんだって」

「えっ、じゃあ何なのよ!?」



「オオクワガタさんだよ」



「……オオ……クワガタ?」


 クワガタといったらたぶん男子が好きなアレなのです。でも貴音にとってはただの「虫」なのです!


「だ……だから何?」

「あれはとっても珍しい虫でね、愛好家の間では高値で取引されているんだよ」

「え……高値!? 取引!?」

「ねぇ、一体いくらくらいなの?」


 突然、ママさんとおねえちゃんの目の色が変わったのです。


「うん、大きさにもよるんだけどね……二千円から数万円くらいはするかなぁ。昔はペアが一千万円で取引された……なんてこともあったみたいだよ」


「……」


「さっきのもかなり大きかったし、野生種だったら……十万くらいいけるかな?」


 パパがそう言った瞬間、


「いづみ、行くよ!! まだそう遠くには行ってないハズだ!!」

「よっしゃぁー!!」


 ママさんとおねえちゃんは玄関から外へ飛び出していったのです。



 この二人……お金が絡むと人が変わるのです。




 でも虫は虫なのです。貴音は興味ないので、二人を「無視」して寝たのです。 


貴音なのです。この話はフィクションなのです。



そう簡単に、家の中へオオクワガタが迷い込むことなんてないのです。

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