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貴音は黒ずくめの人に襲われたのです(貴音side)前編

 



 ――なっ、何でここに「あの人」がいるのですか!?




 ※※※※※※※



 六月に入り、昼間はだいぶ暑くなってきたのです。夜は少し涼しいのですが、梅雨のせいかジメジメしていて何となくイヤな気分になるのです。


 貴音は自分の部屋にいるのです。夕ご飯を済ませ、お風呂にも入ってあとは寝るだけなのです。


「クララ! 貴音はそろそろ寝るのです」


 貴音は愛犬のクララと一緒に寝ているのです。クララは寒いとき貴音のお布団に潜り込むのですが、最近は暑いので床の上で寝ているのです。


 ――そのときなのです!


「ワンッ! ワンワンッ!」


 突然クララが飛び起き、部屋のドアまで行って吠え出したのです! 普段はほとんど吠えないワンコなのです。


 一体何があったのです? 貴音は恐る恐るドアを開け、廊下を見たのです。


 廊下には灯りがついているのですが誰もいなかったのです! でもおかしいのです……クララは一体誰に吠えていたのですか?


 せっかく廊下に出てしまったので、貴音はこの間完成したばかりの二階のトイレに入って用を済ませたのです。そしてトイレから出て手を洗い、ふと廊下の突き当りを見たとき……



 ……いたのです。



 全身黒ずくめの「怪しい人」が……どうしてここにいるのですか!?


 玄関には鍵がかかっているのです! 窓も全部閉まっているのです!


 それなのに……この人はどこから忍び込んできたのです!?


 まるで忍者のように忍び込んだ黒ずくめの人は、まだ貴音の存在に気づいていないのです。そのスキに貴音は、自分の部屋へ逃げ込もうと思ったのです。

 でも……貴音が部屋へ戻るには黒ずくめの人がいる方へ近づかなければならないのです。貴音は物音を立てないようにそぉ~っと歩き出したのです。


 と、そのとき!


「ワンッ!」


 ドアの向こうからクララが吠えてしまったのです。貴音は驚いてスリッパの音をパタッと立ててしまったのです。

 すると黒ずくめの人が貴音に気づいたのです。初めは慌てて貴音から逃げようとしたのですが、そこが廊下の突き当りだと気づくと黒ずくめの人は思いもよらぬ行動に出たのです!


 何とその人は貴音に向かって突進してきたのです!


 ――このままでは貴音は襲われてしまうのです!


 貴音はまだ十二歳なのに……せっかくお風呂に入ったのに……



 貴音は……この人に汚されてしまうのです!



「いっ、いやぁああああああああっ!!」


 貴音は思わず大声を出したのです。そして


「おねえちゃん! たっ、助けてほしいのです!」


 貴音は隣の部屋にいるおねえちゃんに助けを求めたのです。



 ※※※※※※※



「どうしたの!? 貴音ちゃん」


 ドアの向こうからおねえちゃんの声がしたのです。


「たっ、貴音はヘンな人に襲われているのです! 助けてほしいのです!」


 貴音が助けを求めると、おねえちゃんはすぐに竹刀を持って部屋から飛び出してきたのです。


「おい誰だ!! 妹に手を出すヤツは!? どこから侵入しや……あれ?」


 と叫んだところで動きが止まったのです。


「ねぇ貴音ちゃん……誰もいないんだけど!?」

「いるのです! そっ、そこにぃいいいいっ!」


 貴音は黒ずくめの人を指差したのです。するとおねえちゃんが



()()()()じゃねーか!! 人とか言うな! 紛らわしい」

「だっ、だって……『ゴキブリの人』なのですぅううううっ」



 貴音のパパは童話作家なのです。貴音は小さいころからパパの童話や絵本を読んでいたのです。

 パパの絵本にはいろんな「人ではない人」が出てくるのです! カエルの人、お皿の人、電柱の人……


「……なので今いるのは『ゴキブリの人』なのです!」

「擬人化やめろ! てっきり不審者かと思ったわ」


 ――でも、これで安心なのです!


 おねえちゃんは女の人だけどカッコイイのです! まるで白馬に乗った王子様なのです! 王子様は貴音がピンチのときにさっそうと現れて、悪いゴキブリの人を得意の剣術(剣道)で一刀両断してくれるに違いないのです!


 王子様(おねえちゃん)! 早くゴキブリの人を倒すのです!


 ……♪


 ……。


 ……あれ?



 おねえちゃんは竹刀を投げ捨てると、壁にへばりついたのです。顔は青ざめ、ガタガタと震えていたのです。


「お……おねえちゃん! どうしたのです?」


「ム……ムリ」

「へっ?」


「私……ゴキブリが死ぬほど苦手なんだよ」



 ――えぇええええええええっ!?



 予想外の反応なのです。


 白馬に乗った王子様……見かけ倒しだったのです。



「おっ、おねえちゃん! 早く退治するのです」

「ムリムリムリ! あんなの絶対に近づきたくないわ!」

「もうっ! おねえちゃんは役立たずなのです」

「んなこと言ったってなぁ……嫌なモンは嫌なんだよ!」


 貴音とおねえちゃんは廊下にへたり込んでしまったのです。


 すると……


「「ぎゃぁああああああああっ!」」


 脚を素早く動かしながらゴキブリの人が再び突進してきたのです! 貴音とおねえちゃんは恐怖のあまり抱き合って二人で悲鳴を上げてしまったのです! おねえちゃんの悲鳴は初めて聞いたのです。


 絶体絶命のピンチなのです! そこへ……


「うっさいなぁ~オマエら一体何時だと思ってるんだよ!」


 ママさんが階段を上って、貴音たちのいる二階へ来たのです。


「あっ、ああああれが出たんだよぉぉぉ」

「マ……ママさん! 助けてほしいのです!」


 ――そうなのです! ママさんがいたのです!!


 おねえちゃんはママさんに全く頭が上がらないのです! そのくらいママさんは強い人なのです!

 ママさんは何でもこなせるスーパー家政婦さんだったのです。きっとママさんなら、ゴキブリの人くらい新聞紙を折りたたんでパーンって簡単に退治できるハズなのです! やっとこれで貴音は安心して寝られるのです!



 ……ところが、



 ――えっ?


 ママさんはゴキブリの人を見た瞬間、壁にへばりついたのです。顔は青ざめ、ガタガタと震えていたのです……おねえちゃんと全く一緒の反応だったのです!


「貴音ちゃん、ム……ムリ」

「へっ?」


「ママ……ゴキブリが死ぬほど苦手なのよ」



 ――えぇええええええええっ!?



 この母娘(おやこ)……そろって使えなかったのです!



「ひぃいいいいっ! こっち来たぁああああっ!」

「とっ、とりあえず一階(した)に逃げましょ!」

「そっそんなことしたら永遠に部屋へ入れないのですぅううううっ!」


 貴音たち三人はパニックになってしまったのです! しばらくするとママさんとおねえちゃんが、


「こっ、こうなったらお父さんに退治してもらいましょ!」

「そうだね、呼んでくるよ」



 ――えぇっ!?



「ち、ちょっと待つのです! それはダメなのです!」


 貴音はパパを呼びに行こうとした二人を止めたのです!


「えっ、何で?」

「パパに頼むことだけは絶対に止めた方がいいのです!」

「いやいや、私たちじゃどうにもならないじゃん!」

「そうよ貴音ちゃん、やっぱこういうときに男手って必要よ」


「ふ……二人はパパの本当の恐ろしさを知らないのです」


「えっ?」


 ――貴音は知っているのです。



 パパにやらせると……もっと恐ろしいことになるのです!!


貴音なのです。次回はもっと恐ろしい「人たち」の話なのです。

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