貴音は言いなりメイドにさせられたのです(貴音side)
「貴音ちゃ~ん、今度は『チェキ撮影』お願いね~♥」
ふっ、ふぇええええっ! 忙しいのですぅううううっ!
貴音は和おねえちゃんの「メイド喫茶」でコーヒーを淹れるお手伝いをしていたのです。でも貴音はなぜかこのお店で「天使ちゃん」と呼ばれていて、貴音が淹れたコーヒーは「天使コーヒー」という名前で倍の値段がつき、貴音がオムライスのケチャップお絵描きすると有料になるのです!
そして今度はチェキ撮影! 貴音もメイド喫茶にチェキ撮影が付き物だということは知っていたのですが……。
――貴音が想像していたチェキ撮影と違っていたのです!
和おねえちゃんに呼ばれると、そこには大勢のキモ……ご主人様が行列をつくっていたのです。
こっこれは……メイドとの「チェキ撮影」ではなく地下アイドルの「チェキ会」なのですぅううううっ!
行列の端には、「最後尾」と書かれたプラカードを持ったメイドのおねえさんが立っていたのです。そして料金表を見ると貴音(天使ちゃん)だけ倍以上の値段がついていたのです! 完全に法外料金なのです!
「持ち時間はお守りくださーい」
「ボディータッチは禁止でーす」
「決められたポーズでのみ撮影可でーす」
――完全にチェキ会なのです! コーヒー淹れてるヒマなどないのです!
貴音はただコーヒー淹れるだけの仕事だと思っていたのです。こんなハズじゃなかったのです。
そういえば、おねえちゃんはオムライスを担当しているハズなのですが……。
「キャーッ、カッコイイー♥」
「何学科? 今度遊びに行くねー♥」
「あっ私、来年この学校受験しまーす♥」
おねえちゃんもチェキ会に駆り出されていたのです! しかも大勢のお嬢様に囲まれているのです。でも男の人は一人もいないのです……まぁおねえちゃんにとってはその方がよかったのです。
「貴音ちゃ~ん!」
またまた和おねえちゃんに呼ばれたのです! 今度は何なのですか!?
「ゴメンね~! どぉ~しても天使ちゃんが淹れたコーヒーじゃなきゃイヤだ~っていうご主人様が多くって~……悪いけど~厨房に戻ってもらえる~!?」
「えっ、まだチェキ待ちが……」
「それなら大丈夫~! 私にいい考えがあるの~」
「えっ?」
貴音は厨房に戻ると再びコーヒーを淹れ始めたのです。そして時々カメラに向かいピースサインやハートのポーズをとるのです。
チェキ撮影を希望したご主人様は、カウンター越しに貴音とツーショット写真を撮ってもらうのです。さらに貴音が淹れたコーヒーを受け取る……という「抱き合わせ販売」を和おねえちゃんが始めたのです!
和おねえちゃん……すごい商魂なのです! 後でおねえちゃんから聞いたのですが、和おねえちゃんは大学の「経営学科」にいるそうなのです。和おねえちゃんは将来、会社を経営……社長になりたいそうなのです。
……でも絶対ブラック企業になりそうなのです。
※※※※※※※
ぶへぇっ! つっ……疲れたのですぅううううっ!
やっとご主人様お嬢様が「お出かけ」して空席が出始めたのです。
労働ってこんなにも大変だったのです。でもメイドのおねえさんたちとはすっかり仲よくなったのです!
忙しかったけど……やっぱり貴音はウエイトレスさんになりたいのです!
ところで……貴音はおねえちゃんの様子も気になるのです。
おねえちゃんは、同じオムライスを担当しているメイドのおねえさんと仲よくお話していたのです。あのおねえさん……オムライスを試食したおねえちゃんが、怒鳴りつけて泣かせてしまった人なのです。どうやら仲直りしたみたいなのです。
おねえちゃんは和おねえちゃん以外にお友だちいなさそうな気がするのです。なのでおねえちゃんにお友だちができてよかったのです!
でも……
あのおねえさん、貴音がおねえちゃんを見ているときと同じような感じがするのです。おねえちゃんのことを、まるで王子様を見るような目で見ているのです!
〝ドクンッ!〟
そのとき、貴音の心臓が一度だけ大きく動いたのです!
この感覚は何なのです!? あのおねえさん、大人しそうな人なのですが……貴音はこの人に何か危険なものを感じたのです。
貴音は……仲よくお話している二人を見ていたら、しばらくの間動けなくなってしまったのです。
※※※※※※※
「貴音ちゃ~ん、いっちゃ~ん お疲れ~! おかげさまで売上目標達成よ~!」
貴音もおねえちゃんもヘトヘトに疲れたのです。
「この後~打ち上げあるんだけど~」
「嫌だわ飲みサーの打ち上げなんて!」
おねえちゃんは秒で断ったのです。そして、
「学園祭……まだ妹と楽しんでないからさ」
そう言うとおねえちゃんは、貴音の肩を抱き寄せたのです。ほわわぁ~! やっぱりおねえちゃんは王子様なのです♥
……今はメイド服着ているけど。
そこへ、さっきおねえちゃんと仲よさそうにお話していたオムライス担当のおねえさんが貴音とおねえちゃんに近づいてきたのです。
「おっ……お疲れさまでした。じゃ、また明日」
「あぁお疲れ!」
どうやらおねえちゃんと同じクラスの人らしいのです。
「天使ちゃんもお……疲れさま」
「お疲れさまなのです」
「あっ、私……お姉さんと同じ学科の金沢 桃里って言います! よっ、よろしくね天使ちゃん」
「貴音なのです! とうりおねえちゃん! よろしくなのです」
貴音にあいさつした「とうり」さんは突然、貴音の耳元に顔を近づけたのです。そして小さい声で
「……負けませんよ」
とささやいたのです。
――へっ!?
何なのです? 負けません……って!? 何で貴音はこのおねえさんと勝負しなければいけないのですか!?
――わわっ……わからないのですぅううううっ!
※※※※※※※
「はぁ~~いっ!! げ~んきばっくはつジ画じさぁ~~ん!! みんなのジ~元アイドルぅ~……忍野萌海だよ~ん!!」
体育館で地元アイドル・忍野 萌海のコンサートが開かれたのでおねえちゃんと見に来たのです。でも地元では何度も歌っているので正直聞き飽きたのです。
しかもこの人はお尻から血を吹き出すというウワサなのです……怖いのです。
「萌海ちゃ~ん! よーし、それじゃコール行くぞー」
こんなローカルアイドルにもファンがいるようなのです。でも……
「ポラキ! ノール! プソザ! エース! 乙宇湯~にヘモンリド!!」
応援というよりイジっているだけのような気がするのです。
他には……前の席にいる背の低い高校生っぽい女の子二人組がいたのですが、そのうちの一人はメチャクチャ盛り上がっていたのです。もう一人は完全に付き合わされている感じなのです。
するとおねえちゃんが、付き合わされた方の人に声をかけたのです。
「あれ? 志麻ちゃーん! 何でいるの?」
「あっいづみさん! 実は友だちに付き合わされて……」
えっ、おねえちゃん知り合いなのですか? おねえちゃんは「しまちゃん」とかいう天然パーマでメガネをかけた女の子と親しげに話しているのです。
……おねえちゃん、意外と交友関係あるのです。
貴音なのです。あの「志麻」という人……他の作品に出ているのです。




