貴音はおねえちゃんとメイドになったのです(貴音side)
「ほわぁ……すっすごい数の『ご主人様』がいるのです!」
貴音はおねえちゃんと、おねえちゃんやおねえちゃんの友だちの和おねえちゃんが通う大学の学園祭に行ったのです。和おねえちゃんのメイド喫茶はご主人様不在で、他のメイドのおねえちゃんたちもヒマそうにしていたのです。
その原因はメイドのおねえちゃんが淹れたコーヒーがとてもまずかったせいなのです! そこで貴音はメイドのおねえちゃんたちに正しいコーヒーの淹れ方を見せてあげたのです。
それを見た和おねえちゃんから、貴音の淹れたコーヒーを試飲させるからついて来て~と言われたのです。貴音はおねえちゃんや和おねえちゃんと一緒に外に出てコーヒーを配ったのです。
するとメイド姿の貴音と和おねえちゃんは、おにいちゃんたちに大人気だったのです! でもおねえちゃんだけは他のおねえちゃんたちに大人気だったのです!
そして貴音がおねえちゃんや和おねえちゃんとお店に戻ると大勢のおにいちゃんやおねえちゃん……じゃなかったご主人様やお嬢様が行列をつくっていたのです。
――今、貴音は何回「おねえちゃん」と言ったのかわからないのです。
「さぁ~これから忙しくなるわよ~! 貴音ちゃん、いっちゃんもよろしく頼むわね~! お帰りなさいませご主人様~! こちらへどうぞ~」
和おねえちゃんはそう言うと、とても忙しそうにご主人様やお嬢様のお相手をされたのです。
※※※※※※※
「貴音ちゃーん、『天使コーヒー』あと二杯追加ねー」
「はっ、はいなのです」
――いいっ、忙しいのですぅううううっ!
コーヒーはそんなに早く淹れられないのです! しかも貴音がドリップに使っているのは「ヤカン」なのです! 慎重に淹れないとお湯がドバッと出てしまうので神経を使うのです!
しかもさっきから……何なのです「天使コーヒー」って? 普通のコーヒーと何か違うのですか? と、そこへ
「天使ちゃーん! こっちのオムライスにお絵描きしてー♥」
「あっ、こっちにもー♥」
さっきから「天使ちゃん」という名のメイドさんがご主人様に呼ばれているのです……誰なのです?
「貴音ちゃん、ご主人様がお呼びよ」
メイドのおねえさんから声をかけられたのです。
まさか「天使ちゃん」って……
貴音のことだったのですぅううううううううっ!
よく見ると貴音のメイド服に「天使ちゃん♥」と書かれた名札が付けられていたのです! 確かに個人情報保護の観点から偽名を使った方がいいのです!
でもさっきからお声がかかっているのが貴音だとは夢にも思っていなかったのですぅううううっ!
困ったのです! 貴音はコーヒー淹れているので手が離せないのです。でもヤカンで淹れるのは難しいので他の人には頼めないのです! と、そこへ……
「申し訳ございませ~んご主人様~! 天使ちゃんは私ども平民のメイドとは違い天から舞い降りられますので~ケチャップお絵描きも『オプション』とさせていただきま~す! ちなみに料金は一回千円で~す」
和おねえちゃん! その設定は何なのですかぁああああっ!?
しかも貴音の「お絵描き」に千円って……法外料金なのですぅううううっ!
それを聞いてさっきまで天使ちゃ……貴音に「お絵描き」を要求していたご主人様たちは黙ってしまったのです。でも……
「あぁぁ……ボッボクはお願いするでござるよぉ……ぐへへっ」
お一人様でご帰宅された、空気の読めないご主人様が手を挙げたのです。おねえちゃんなら顔を見るなり竹刀でボッコボコにしそうなタイプなのです。
「貴音ちゃ~ん、悪いけどお絵描き頼めるかな?」
千円を手に持った和おねえちゃんが話しかけてきたのです。
「でも、コーヒーが淹れられないのですぅ!」
貴音が困っていると……
「貴音ちゃーん! 頼まれてたもの、調理実習室にあったから借りてきたわよ」
「助かるのです! お湯を入れて温めてほしいのです!」
メイドのおねえさんがドリップポットと温度計を借りてきたのです。これを使えばお湯を注ぐ量で神経を使うこともなくなるのです! しかも温度計を使えば、誰でも適温でコーヒーを淹れられるのです!
「貴音ちゃん、後は私たちが淹れるわよ!」
「お願いするのです! さっき教えた通りのやり方で淹れるのです」
「任せて! まぁ私たちだと半額になっちゃうけど……」
えっ半額? 意味がわからないのです。貴音は和おねえちゃんとキモ……個性的なご主人様のテーブルに向かったのです。
※※※※※※※
「お待たせしました~ご主人様! 当店のマスコット、天使ちゃんでぇ~す♥」
「うほほっ天使ちゃんのご降臨じゃぁ! あっありがたや……」
貴音の知らないところで謎設定が発動していたのですぅううううっ!
「何でも描きますので~、リクエストがありましたらどぉ~ぞ♥」
「そっそれではぁ~天使ちゃんのスリーサイズでも書いてもらおうかにゃあ……ぶぶぶっ、ぶしゅしゅしゅしゅ!」
……カッチーーーーン!
貴音は生まれて初めて、心の中に「殺意」というものが湧いたのです。すると和おねえちゃんが……
「すみませ~ん! それは天使ちゃんへの冒涜になりますので~、ペナルティーとして天使ちゃんからのフリーメッセージとなりま~す♥」
「えっ、フリーメッセージって? 何を描けばいいのです?」
「今の気持ちを素直に書けばいいのよ~」
貴音はオムライスに「うんちょす」を描いて……そして隣に「←オマエ」と書いてやったのです。
でもキモいご主人様は喜んで食べたのです。世の中にはおねえちゃん以外にもヘンタイさんがいるのです。
※※※※※※※
「貴音ちゃ~ん、ありがと~! またリクエストあったらよろしくね~!」
貴音は和おねえちゃんにお礼を言われたのです。でも何かヘンなのです!
今日たまたま手伝っただけなのに「天使ちゃん」という設定がつけられていたのです! しかも貴音がドリップコーヒー得意なことを和おねえちゃんはなぜか知っているみたいなのです。
貴音はテーブルの上に置かれたメニュー表を見たのです。そこには……
♥コーヒー ¥500
♥天使コーヒー(当店の天使ちゃんが淹れています) ¥1,000
――なっ、何なのですかコレはぁああああっ!?
――やっとわかったのです!
和おねえちゃんは初めっから貴音が手伝うことを想定していたのです! そういえば先日、ママさんから「貴音ちゃん、オムライスにお絵描きしてみない?」と言われたのです。それによく考えたらメイド服を和おねえちゃんが持っていたこともおかしいのです!
あっ! さっきメイドのおねえさんたちが「私たちだと半額になっちゃう」って言ってたのはこの「天使コーヒー」のことだったのです!
和おねえちゃんは恐ろしい「商魂」の持ち主なのです! それにしても……あのマズいコーヒーが五百円!? SNSでディスられて当然なのです。
すると再び「商魂」が貴音に襲いかかってきたのです!
「貴音ちゃ~ん、今度は『チェキ撮影』お願いね~♥」
――忙しいのですぅううううっ!
貴音なのです。今回から貴音視点なのです。
さっき間違えて「萌海ちゃんねる」に投稿してしまったのです! 「あれ?」と思われた方、ごめんなさいなのです!




